知識の承継は人を成長させる

こんにちは!弁護士の田中今日太です。

皆さんは,大規模な法律事務所だと,知識が蓄積されていて,それに対して容易にアクセスできると思っていませんか?

そう,「知識の承継」がうまくいっていると思っていませんか?

ただ,私も以前は大規模な法律事務所にいましたからわかることですが,案外そうでもありません。

私の考えでは,大規模な事務所ですら,知識はまだまだ属人的になっていると思います。

つまり,個人的に知識をため込んでいて,他の人間に十分に伝えられていないということです。

私は,前の事務所にて管理職をしていたときに,事務所内のマニュアルを整備していました。

上に述べたように,知識が十分に承継されていない,と感じたからです。

もしも,知識が属人的になっていたとすれば,その人が退職したり,病気になって休職したりすると,突然,同じレベルの仕事ができる人がいなくなります。

知識がしっかり承継されなければ,人が入れ替わるたびに,組織レベルが下がります。

それは,本当に困りますよね。

だからこそ,もしもその人が何らかの事情でいなくなっても,同じレベルでできるように,もしくは全く同じでなくとも近いレベルでできるように,マニュアルを整備しておく必要があるのです。

ところが,自分の得た知識を承継することを嫌がる人もいます。

この発想は,会社員の方にもいらっしゃいますし,弁護士の方にもいらっしゃると思います(もちろん,そうではない方もたくさんいらっしゃいますが)。

自分が苦労して身に着けた知識なのだから,お前も苦労して身に着けろ,とか。

自分が身に着けた知識を教えてしまうと,自分の存在価値がなくなる,とか。

そういうことです。

しかし,この発想は,その人をそれ以上「成長させることはない」と思います。

これは,単に社内で「出世できない」,という意味だけではありません。

人として「成長することはできない(難しい)」ということなのです。

詳しく述べますね。

まず,知識を承継させることには以下のメリットがあります。

  1. 人に教える(書に残すことも含めて)ことによって,自分の思考や知識も整理できる。
  2. 教える立場に立つことによって,社内の評価が向上する可能性が高い。
  3. ②によって,地位が向上し,その地位を固定化できる可能性が高まる。
  4. 自分以外の人間が,自分と同じことができることによって,自分が他の仕事に時間を使うことができる。

デメリットは先に述べたように,これぐらいではないでしょうか。

  1. 代替性ができてしまうので,自分の存在意義(現在の地位。自分がいないと仕事が回らないという地位。)が失われてしまう。

とある会社を例を挙げて考えてみましょう。

例えば,社内で,特定の分野の仕事(事業X)ができる人がいたとします。Aさんとします。

Aさんが自分の今の地位を守るために,自分の仕事の内容を他の人に教えない,とします。

すると,確かに,Aさんは当面の間,その仕事を自分中心に進めることができるかもしれませんね。

しかしながら,Aさん以外のBさんが,自分なりに勉強してその仕事が徐々にできるようになってきたとします。

そしてBさんは,Aさんが他の人に仕事を教えないのを見かねて,自分の仕事のやり方をCさん,Dさんに教えたとします。

Bさんは教えたことによって,頭の中が整理され益々その仕事ができるようになります(メリット①)。

また,Cさん,Dさんは,仕事を教えてもらえたので当然Bさんに感謝します(メリット②)。

また,会社としても,Cさん,Dさんが仕事を覚えて作業効率が上がるので,BさんをAさんより高く評価します(メリット②)。

すると,会社は自分の地位を守るために人に仕事を教えなかったAさんを見限って,Bさんを昇進させる可能性がありますね(メリット③)。

逆に,教えることのデメリット①は,この時点で消滅します。

なぜなら,すでにBさんという教える人が出てきてしまい,その人が会社から高く評価されてしまった以上,もはやAさんを中心にその仕事を進める,ということができなくなるからです。

つまり,教えることのデメリット①は,誰か(例ではBさん)が教えられる技量を身に着けるまでの間に限って有効なものにすぎない,ということですね。

そして,必ずBさんのような人は現れます。なぜなら経営者がそれを望んで,そのように働きかけるからです(もしも,経営者がその働きかけをしないなら,その会社は弱体化するでしょう。)。

一方で,もしもAさんが自分本位の考えをとらずに,初めからBさんと同じように行動したなら,Bさんが得た評価を,Aさんもきっと受けていたはずです。

だからこそ,自分本位の考えで,知識の承継を行わないことは勿体ないと思います。

そして,ここからさらに話を先に進めます。

実は,私は,知識の承継による一番のメリットは④だと思います。

先ほどの例でいうと,Bさんは,働きを認められ昇進し,今まで行ってきた仕事以外の仕事もできる時間ができました。

なぜなら,CさんとDさんが,Bさんがやってきた仕事を代わってやってくれるからです。

そこで,Bさんは,さらに努力し,新たな事業(事業Y)を考え,社長に打診しました。

そして,社長は,その事業Yの可能性を感じ,そこに経営資源を投入することを決め,結果,今までにない利益をあげることができたとします。

ここまでくると,Bさんの社内での地位は相当盤石ではないでしょうか?

ただ,私はBさんはここで終わるような人間だと思いません。

Bさんは,自身を磨いて知識を身に着け,さらに他者へ知識を承継させ,新たな仕事まで創り出しました。

きっとBさんは,自分の新たな可能性を信じて,さらに上を向いて進むのではないでしょうか?

練達に練達を重ねて,会社を成長させるのではないでしょうか?

そこで,練達されたBさんが見る景色は,自分本位な考えのAさんのものとは天と地ほども違ってくるように思います。

ここまでくると,社会的評価に満たされたBさんは,もはや自分の利益を考えるのではなく,「社会や人の幸せのためにもっと頑張ろう」,と思うのではないでしょうか?

これが私の思う,知識の承継は,人を「成長」させる,という意味です。