【弁護士・修習生の方向け】弁護士は一匹狼?群れを好まない?1つの事務所でずっと働きたいとは思わない?(代表弁護士 田中今日太)
こんにちは。
弁護士の田中です。
さて、私は、中途の経験弁護士の方や修習生の方の面接を担当させていただいております。
今回は、中途の経験弁護士の方の、面接でふと感じたことについてお話できればと思います。
修習生の方も参考になる内容なので、時間があれば読んでくださいね。
過去に、私が中途の経験弁護士の方で面接をさせていただいたことがありました。
いつも、ブログでお伝えしているように、当事務所の採用基準は、「当事務所に合う」かどうかです。
当事務所に合うと判断すれば、司法試験の成績や学歴があまり良くなくとも、内定をお出ししますし、
逆に、当事務所に合わないと判断すれば、どれだけ司法試験の成績や学歴が良かったとしても、内定をお出しすることはありません。
ただし、ときに、当事務所に合うと思っても、所内の受け入れの準備が整っていなかったりタイミングが悪い等の事務所に合うかどうかの判断とは別に、内定をお出しすることができないという状況があります。
内定はお出ししたいが、お出しできない。
如何ともしがたい気持ちになります。
そのように、内定をお出ししたいと思ったのに、諸事情から内定をお出しできなかったという方の中に、事務所を数社転職している応募者の方がおられました。
弁護士の方の中には、一つの法律事務所で勤めることを良しとしない風来坊のような方や、なんでも自分でやってやるぜという一匹オオカミのような方もおられます。
他人との関わりを好まない、そういう弁護士の方もおられます。
ですから、私は当事務所とミスマッチがあってはいけないので、転職した理由を確認しました。
ただ、その方は
「事務所を転々としたいわけではなく、本当は一つの事務所でずっと働けるものなら働きたいと思っているが、今までの弁護士人生では、
残念ながらその機会に恵まれなかった」と答えました。
私もたくさんの方と面接をさせていただいておりますので、その言葉が本心からのものなのか、その場をやり過ごすだけのうわべだけのものなのか、ということは、
様々な方法で見極めるようにしているのですが、この言葉は明らかに本心から言っていると感じました。
また、経歴をお聞きするに、おそらくこの方は今までの弁護士人生において「損をしてきた」方だなという印象を受けました。
人は良いが、決して世渡りが上手なわけではない。
だから、周りにいる人に恵まれれば人生はよくなるし、恵まれなければ損をする。
そして、この方は、残念ながら、周りの人に恵まれてこなかったんだなと思いました。
また、それは本人の努力や資質が理由ではなく、純粋に「運」の部分が大きい気がしました。
私は、この方の話を聞いたときに、
弁護士として、「一つの事務所に働き続けることができる」というのは非常に「幸運」なことなのだろうと思いました。
もちろん、事務所に対して不満ばかりなのに、我慢に我慢を重ねて、その事務所でずっと働くという意味ではありません。
生き生きと、明るく前向きにやりがいを持って仕事をし、周りの人から評価と尊敬を受け、しかるべき報酬を得て、その事務所で働きたいと思って働く。
この当たり前のことと思えるようなことが、人によっては運悪くかなえられないという現実。
この世には、ご自身が入った事務所や会社で幸せを感じられないという人がいます。
仕事にやりがいをもてず、周囲からの評価も尊敬も得られず、しかるべき報酬も得られないという人がいます。
いくらそれらを望んでも、運悪く叶わないという人がいます。
そうした方が、現実には沢山おられると思います。私が見えていないところでも。
もし私が人を採用することで、この事務所を大きくする理由があるとすると、
それは「仕事にやりがいを持って、周り人に恵まれて、しかるべき報酬を得られる人を一人でも増やしていくことなのだろう」と感じたときでした。
ところで、弁護士というと、独立して当たり前、一時は合流しても条件が合わなくなったら離れて当たり前、転職して当たり前、というイメージがあるかもしれません。
しかし、私は、それは過去のことだと思います。
昔は、弁護士の競争も今ほど激しくはなく、顧客に困ることもなく、裕福な生活も送ることができ、必死の努力をしなくとも、弁護士1人でも十分に生きていくことができました。
日本の経済はうなぎのぼりで、世界2位の大国に昇りつめ、人々の給与も生活水準も上がった時代でした。
確かに、今でも弁護士は、自営業者であり、自由業であり、資格もあるので、働き方も選べます。自己の努力次第で、一人でも仕事を続けて生活することもできます。
しかし、弁護士1人でやれることには限界があります。
弁護士1人だけで積める研鑽にも限界があります。
弁護士1人だけで満足させられる顧客にも限界があります。
弁護士1人だけでできる経営にも限界があります。
また、これから弁護士同士の競争はもっと激しくなりますし、日本の国力も経済力も落ちていく一方です。
このように全体がしんどい状況だと、
「弁護士なら、独立して当たり前、一時は合流しても条件が合わなくなったら離れて当たり前、転職して当たり前」というのは、現在の状況には合っていない、のではないでしょうか。
むしろ、志や価値観を同じくする者同士が集まって、それぞれの個性と才能を活かして仕事をすることで、一丸となって幸せな環境を作ることを目指していく。
メンバー全員でそういう事務所づくりをしていくことが大切なのではないでしょうか?
また、一つの事務所で働くことの具体的なメリットは多々あります。
例えばですが、一つの法律事務所で事件処理の方法を覚えれば、その方法に従って事件処理を進めて行けばよく、時間的にも精神的にも楽になります。
他方で、事務所を転々とすれば、転職のたびに、新しいボス、新しい先輩弁護士のもとで、新たな考えや方法に従わなければならない可能性もありますし、
人間関係を新たに作っていく時間も精神的忍耐も必要です。また、転職すれば、受けていた事件を完結させていないので、終結させるという経験を失うことも多々あります。
そうすれば、自身の弁護士としての研鑽も詰めず、研鑽に割く時間も気持ちの余裕も奪われてしまう可能性があります。
実際、私が面接をした方も、このような問題に直面しており、自らが十分にスキルアップできていないと感じておられました。
ですから、「一つの法律事務所で永く働くことができる」というのは非常に幸運なことであり、自身のキャリアを着実に積んでいく、という意味において、とても大切なことだと思います。
そして、あなたが転職や就職するにあたって選んだ法律事務所や会社が、応募したときにはそこまで分からなくとも、たまたま「ずっとそこで働きたい」と思える事務所や会社であったなら、どれほど幸運なことでしょうか。
あなたが、仕事にやりがいを持ち、周囲の人に恵まれ、しかるべき報酬を得られる職場に勤められることをお祈りしております。