公務員は,国家公務員であれ,地方公務員であれ,いずれにしても,収入が安定していて,身分が保証され,社会的な信用が高い職業であります。
そのため,借入やクレジットカード作成の際には,審査が有利になるというのは事実ですし,他の職業の方と比べると,簡単に借入等ができることになります。
一時的な資金不足への対応で終わるのであればまだしも,簡単に借入等ができることから,借入やカード利用を繰り返していくようになってしまい,結果として,借入額やカードの利用額が高額になってしまい,返済が難しくなってしまったというケースも結構聞かれる話です。
とはいえ,公務員なので,債務整理をしたことがバレると,ペナルティー等の処分を受けるのではないかとか,退職しなければならないのではないかと心配され,状況を先送りしてしまい,一人で悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
公務員の方でも,債務整理をすることは可能です。原則として,ペナルティーを受けたり,退職させられることもありません。
ただし,公務員の方が債務整理をする際には,ご注意いただきたいことがありますので,その点と併せて,ご説明いたします。
身分や収入が安定している公務員がなぜ借金やリボ払いで、苦しむことになるのか?
公務員は,身分や収入が安定しているということは,間違いありません。
民間企業のように好不況の波に影響されて,給料等が大きく変動したりリストラで退職させられることもまずありませんので,犯罪を犯すようなことでもなければ,通常は,定年まで勤務を続けることができますし,相当額の退職金も貰えることになります。
このように身分や収入が安定しており,最終的には相当額の退職金も見込めることから,クレジットカードや借入に関しても審査は他の職業の方より有利で,カード利用や借入がしやすいというのは確かです。
クレジットカードや借入のきっかけは色々とあるでしょうが,割合に簡単に借入等ができることから,収入と支出の管理がきちんとできていなければ,安易に借入やクレジットカードの利用を増やしてしまいがちで,収入以上の支出を続けてしまって,借金を増やしてしまったという方がおられます。
また,行政手続関係のニュース等で,「行政の対応が遅い」「行政の対応がまずい」「税金から給料を貰っているくせに」等と批判されることも多く,実際に役所の窓口対応等で住民の無理難題に対応しなければならない等,大きなストレスにさらされている方もたくさんおられ,そのストレス解消のために,飲酒,買物,ギャンブル等にのめりこんでしまい,結果として,借金を増やしてしまったという方もいらっしゃるのです。
公務員の債務整理の方法とは?
では,借金の返済が困難になった公務員の方が債務整理をする場合の方法についてご説明いたします。
任意整理
任意整理は,債権者と交渉して,利息・遅延損害金をカットしてもらい,残った元金のみを3~5年程度で分割弁済していくようにするのが原則的な方法です。
無理のない支払計画が立てられるのであれば,借金が増えた理由も問われませんし,また,任意整理を行う債権者を選択することができますので,後述しますが,問題になりがちな共済組合からの借入を除外して手続を進めることができます。また,弁護士に依頼すれば,その後は,弁護士と債権者間で交渉してもらえますので,債権者から連絡を受けることもなく,職場にバレる可能性もまずありません。
また,任意整理で,職業制限を受けることはありませんので,退職しなければならないということもありません。これは,万一,任意整理をしていることが職場にバレたとしても同じです。
以上のメリットから,一番お勧めできる方法といえます。
一方で,債務整理を行ったことによって,信用情報機関への事故情報の登録がされます(いわゆるブラックリストに載ることになります。)ので,一定期間(通常5~7年程度)は新たな借り入れや新たなクレジットカードの作成ができなくなることはデメリットです。
個人再生
個人再生は,裁判所に申立てて,住宅ローン以外の借金を5分の1程度に圧縮したうえで,その金額を原則3年で支払っていく方法です。
自己破産と異なり,借金が増えた理由も問われませんし,安定した収入があって,資金的な手当ができるのであれば,持家を維持しながら支払っていくことも可能で,任意整理よりは支払総額を低く抑えることができるという点は,個人再生のメリットといえます。
また,個人再生でも,職業制限を受けることはありませんので,退職しなければならないということもありません。これも,万一,個人再生をしていることが職場にバレたとしても同じです。
信用情報機関に事故情報が登録され,新たな借入等ができなくなることは,任意整理と同じくデメリットではあります。
なお,次の自己破産を申し立てる場合と同じく,公務員の方の個人再生の申立てに関しては,注意すべき点がありますので,その点については,項を改めて説明いたします。
自己破産
自己破産は,裁判所に申立てて,免責決定を受けると税金や損害賠償債務等を除く債務全てが免除され,借金が0の状態から再出発できます。これが自己破産を申立てする一番のメリットといえます。
ただし,原則として,自分の資産もすべて吐き出さなくてはいけませんので,3~5年での分割弁済が困難であるほど高額の借金があるのでなければ,任意整理か個人再生の方法を取られることをお勧めいたしますが,一旦これまでの人生をリセットして0から再出発したいという場合には,取り得る方法であるとは言えます。
また,唯一,債務整理の3つの方法の中では,借金が増えた理由も問われます。公務員の方の場合には,生活費が足らなかったために借入が増えていったということであっても,特別な理由がなければ,不相当な贅沢をしたとみられる可能性は高いと思われますし,たとえストレス解消のためであっても,収入以上の借入やカードの利用は浪費とみられますので,免責不許可事由に該当し裁量免責を受けることを目指さなければならない可能性は高いものであると思ってください。
そのため,債務整理に長けた経験豊富な弁護士に依頼する必要が高いものといえますが,浪費したことを反省して再出発する意思があれば,免責を受けることは十分に可能です。
なお,自己破産でも,公証人や,公安委員会の委員等の一部の特別な公務員を除けば,職業制限を受けることはありませんので,退職しなければならないということもありません。これも,万一,自己破産をしていることが職場にバレたとしても同じです。
信用情報機関に事故情報が登録され,新たな借入等ができなくなることは,任意整理・個人再生と同じくデメリットではあります。
公務員が個人再生,自己破産をする場合,どういう点に注意すべきでしょうか?
公務員の方が個人再生,自己破産をする場合には,民間企業のサラリーマンや自営業者等と違って,いくつか注意すべき点がありますので,まとめてご説明いたします。
官報に掲載されることで,債務整理がバレて処分を受けたりしませんか?
絶対とはいえませんが,官報に掲載されることで債務整理を行っていることがバレる可能性はまずありません。また,万が一,債務整理の事実がバレたとしても,職業制限を受けることはありませんので,一般的には解雇等の不利益処分を受けることもありません。
確かに,個人再生や自己破産の開始決定を受けたこと等が官報に掲載され,そこには住所氏名も記載されますので,個人再生や自己破産の手続を取ったことが公開されてしまうことになり,そのことから職場にバレないかという点を心配される方もいらっしゃいます。
実際に,役所等の本庁には,官報が保管されていますが,個人再生,自己破産をした職員がいないかを日々チェックするようなことまではされていません。
また,通常,官報の記載から債務整理の事実が発覚する可能性はほとんどないと言ってよいほど確率的にも低いものです(どこで官報を入手するのか,閲覧できるのかを知らない方のほうが多いと思われます。)ので,官報に掲載されたことで,個人再生や自己破産のことが職場にバレる可能性はないと言ってよく,この点については心配される必要はありません。
共済組合に借入がある場合には債務整理の事実がバレてしまうのでしょうか?
残念ですが,共済組合に借入がある場合には,個人再生・自己破産の手続を取っていることがバレてしまう可能性が高いです。
債務整理を必要とするほどの借入がある場合に,公務員の方であれば,低利息で借り入れることができ,毎月の返済も給与から天引きされる共済組合から借入をされている方が多いと思います。
共済組合からの住宅貸付があって,個人再生で住宅ローンの特別条項を使う場合には,別途調整等をする必要がありますが,それ以外の借入の場合には,一般の債権者と変わりがありませんので,個人再生・自己破産の申立てに際しては,共済組合は,当然債権者として届け出る必要があります。
当然のことながら,弁護士からの受任通知も共済組合に送りますし,個人再生・自己破産の開始決定等も,裁判所から共済組合に送られますので,少なくとも共済組合には,個人再生・自己破産の手続を取っていることが明らかになってしまいます。
そのうえで,給与からの天引きの処理も停止しなければなりませんので,共済組合から職場の方には連絡がいく可能性が高いことになります。
どこまでの内容を連絡するかについては,共済組合のルールによりますので,絶対に債務整理をしている旨の連絡がされるとは限りませんが,場合によっては,職場にも,個人再生・自己破産の手続を取っていることがバレてしまう可能性があることは否定できません。
残念ながら,この流れについては止めようがありませんし,この流れを嫌って,共済組合を債権者として届けないようなことをしてしまえば,免責不許可事由に該当するだけでなく,悪質なものと判断され,免責決定が受けられないことになりかねませんので,共済組合を債権者から外すことはできません。
なお,上述のとおり,個人再生は職業制限を受けるものではありませんし,自己破産でも,公証人や,公安委員会の委員等の一部の特別な公務員を除けば,職業制限を受けることはありませんので,万一,個人再生・自己破産の手続を取っていることが職場にバレたとしても,そのことをもって,退職しなければならないということもありません。
さらに,共済組合から借入をしている場合の問題点は,給与天引きでの返済は,弁護士等からの受任通知を送っても,個人再生や自己破産の開始決定が出るまでは止めてもらえないことも多く,その場合に,受任通知以後の返済は偏波弁済(「へんぱべんさい」と読みます。一部の債権者だけに支払をすることをいいます。)となることです。
そのため,個人再生の場合には,その分の金額も上乗せして再生計画を立てなければなりませんし,自己破産の場合には,管財人に否認されることになりますので,その分の金額を積み立てる等しなければならないことになります。
共済組合に借入がある場合には,個人再生・自己破産の事実がバレること以外にも,上記のような問題点があり,スピーディーに手続を進めていく必要がありますので,債務整理に長けた経験豊富な弁護士に依頼されることをお勧めいたします。
個人再生・自己破産を申し立てると,退職金が貰えなくなるのでしょうか?
個人再生・自己破産を申し立てたからといって,退職金が貰えなくなるということはありません。
確かに,公務員の場合,退職時に相当額の退職金が支払われることから,個人再生の場合には,申立て時点に退職したと仮定した場合にもらえる退職金見込額の8分の1の金額は,最低でも分割弁済しなければならないことになります。
また,自己破産の場合にも,債権者への配当資金等とするために,申立て時点に退職したと仮定した場合にもらえる退職金見込額の8分の1の金額は,積み立てる等して別に用意しなければなりません。
そのため,個人再生・自己破産の申立てに際しては,退職金に関する証明書を取得するか,退職金支給規定等のコピーを用意して計算方法を確認する等して,退職金見込額を確定しなければなりません。
そこで,証明書取得の理由を聞かれて正直に答えてしまうと,個人再生・自己破産の手続を取っていることが職場にバレるという可能性があることには注意すべきです。
もちろん,共済組合に借入がある場合には,最終的には個人再生・自己破産の手続を取ったことはバレてしまいますので,その場合には,あまり気にする必要はないとも言えます。
また,公務員の方の退職金は,高校や大学卒業から勤め続けておられる場合には1,000万円を超えるものとなりますので,自己破産を申し立てるのであれば,退職金見込額が1,000万円と仮定しても8分の1の125万円を別途積み立てる必要がありますので,その積立に時間がかかるようであれば,免責決定を受けるまでに長期間かかってしまうことになります。
一方で,個人再生の場合には,退職金見込額の8分の1以上の金額を,原則3年間で分割して弁済していくことになりますので,上記の125万円であれば,1か月あたり35,000円弱の金額を支払っていくことになります。
そこで,退職金見込額を計算したうえで,毎月の積立額(若しくは弁済額)をシミュレーションしたうえで,自己破産を申し立てるべきか,個人再生を申し立てるべきかを検討する必要が出てくるものと思われます。
この点に関しても,スピーディーに方向性を決めて手続を進めなければ,債務整理が完了するまでに無駄に長期間を要することになりかねませんので,やはり債務整理に長けた経験豊富な弁護士に依頼されることをお勧めいたします。
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公務員の方の債務整理に関しては,任意整理を除けば,他の職業の方とは違った注意点があり,通常以上にスピーディーに手続を進めるべきものであるといえます。
当事務所には,債務整理に長けた経験豊富な弁護士が何人も在籍しております。
借金の支払が厳しいと思われるのであれば,1人で悩まれるのではなく,1日も早く,当事務所にご相談ください。