2019.05.07 2022.12.20

年俸制だと残業代はもらえない?

年俸制だと残業代はもらえない?

実力主義や成果主義を採用する企業が増えるにつれ、「年俸制」が広まりました。その一方で、「年俸制だから残業代が出ない」と、当たり前のように主張する方が増えています。たしかに、残業代を支給しなくて良いケースはあります。しかし「年俸制であるがゆえに、いかなる場合でも残業代が支給されない」というのは大きな誤りです。ここでは、年俸制の概要と残業代がもらえるケースについて、具体的に解説していきます。

「年俸制」の仕組み

まず年俸制の仕組みを理解しておきましょう。年俸制は、「報酬を1年単位で算出する給与体系」といえます。

一般的な月給制では、給与を月単位で算出しますが、年俸制は「年間400万を16で割り、毎月1/16を支給する。さらに、6月と12月に賞与として2か月分ずつ上乗せで支払う」という具合に、年間の報酬があらかじめ決まっています。月給制の場合は、毎月の給与がベースで年収は結果ですが、年俸制の場合は年収がベースであり月給が結果なのです。

  • ・月給制⇒毎月の給与をその都度算出し、12カ月の合計が年収になる
  • ・年俸制⇒あらかじめ年収が決まっており、規定の月数で割った結果が月給になる

このような仕組みの違いから、「月の給料が決まっているのだから残業は出ない」と考える人が多いようです。しかし、これはあくまで企業が採用する給与形態の一種であり、「年俸制だから残業代は100%でない」という決まりはありません。

言い換えれば「残業代がもらえるか否かは、年俸制とはあまり関係がない」ともいえます。なぜなら、残業代がもらえるか否かは、「雇用契約の内容」や「労働の実態」次第だからです。年俸制であっても、月給制であっても、労働者を働かせてよい時間は決まっています。いわゆる、労働基準法で定めてある「法定労働時間」です。

“第32条(労働時間)
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。”

このように法定労働時間外の労働(1日8時間、週40時間を超えた部分)については、どのような給与体系であっても、原則として「時間外労働(残業)」になります。ただし、事業主と労働者の契約内容によっては、残業代を支給する必要が無いケースもあります。

つまり、「年俸制でも残業代がもらえるか?」という質問に対しては「原則としてもらえるが、雇用契約や労働の実態次第でもらえないこともある」というのが正しい答えといえるでしょう。

年俸制でも残業代をもらえないケース

年俸制で残業代をもらえないのは、次のようなケースです。

適法な固定残業代制(みなし残業代制)の範囲内での残業

固定残業代制(みなし残業代制)とは、毎月の給与の中に、あらかじめ残業代を組み込んでおく給与体系のことです。

「年俸400万円、基本給25万円(月30時間の残業代5万円を含む)」という具合に、あらかじめ基本給と固定残業代が明記されていて、なおかつ月の残業がその範囲内であれば、残業代はもらえない可能性が高いでしょう。例えば「残業が20時間だった」というケースです。これならば、あらかじめ決められている残業の範囲内であるため、残業代はもらえません。(正確に言えば、20時間の残業で30時間分の残業代をもらっていることになります。)

ただし、固定残業時間を超えて働いた部分については、残業代をもらう権利があります。さらに、「固定残業代制(みなし残業代制)が違法な状態で運用されていないこと」も重要です。違法な固定残業代かどうかを判断するには、次のようなポイントに着目してみてください。

  • ・就業規則が存在しない、もしくは保管場所などが周知されていない
  • ・基本給部分と固定残業(見なし残業)部分の区別が明記されていない
  • ・金銭以外のものを「残業代」としている
  • ・固定残業時間(みなし残業時間)が不自然に長い
  • ・基本給を労働時間で割ったとき、最低賃金を下回っている

このいずれかに該当していれば、違法な固定残業代制となり、無効になる可能性が高くなります。

まとめると、「適法な固定残業代制が敷かれており、そこで定められた残業時間を超えない分については、残業代がもらえない」ということになります。

労働基準法上の「管理監督者」に該当する管理職の残業

労働基準法の第41条にある「管理監督者」に該当すれば、残業代はもらえません。

“第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一別表第1第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの”

一般的な企業では、二号の「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」が管理職の根拠となるでしょう。もう少しかみ砕いていうと、「勤務時間を自分で決める権限」「現場社員の雇用や解雇に関する意思決定の権限」「経営に参画する権限」などをもった社員のことです。

また、管理職にふさわしい報酬を受け取っているかも重要になります。これら「管理監督者」の要素を満たしていれば、残業代は支給されません。

上記2ケース以外は残業代をもらえる可能性が高い

年俸制であっても、前述の2ケース以外であれば、残業代の請求を検討すべきでしょう。
具体的には、以下のようなケースです。

  • ・年俸制で固定残業時間(みなし残業時間)以上の残業が発生している
  • ・固定残業時間制自体が違法である
  • ・「店長」「チームリーダー」など、一見管理職のような肩書であるが、実態は「管理監督者」に該当しない

残業代に関する相談は専門家へ

このように、年俸制であっても、残業代は支給される可能性があります。ただし、実際の残業代請求では、証拠集めや交渉など、個人の負担が大きくなることも事実です。労働問題に強い弁護士であれば、就業規則や雇用契約、労働の実態に沿ったアドバイスはもちろんのこと、会社との交渉・残業代請求も代行できます。

「年俸制」という言葉だけで諦めず、長時間労働の対価をしっかりと受け取るために、まずは相談してみてください。

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