2019.05.24 2022.12.20

残業代請求の立証責任とは

残業代請求の立証責任とは

未払いの残業代を請求するときは、請求する側が「残業していた事実」を証明しなくてはなりません。つまり、労働者側に立証責任があるわけです。そこで、残業代請求における立証責任と、証拠の集め方について解説します。

立証責任とは何か?

「立証責任」とは、「ある事柄について事実関係を証明する責任」のことです。日本の裁判では、立証責任を果たせるかどうかが勝敗を分けるポイントになります。立証責任は、請求する側(権利を主張する側)が負うというのが一般的ですから、残業代請求の立証責任は「労働者側」にあるのです。

では、残業代請求の立証責任を果たすために、具体的に何をすべきなのでしょうか。

残業代請求の立証責任で意識すべきこと

残業代請求では、何よりも「残業が発生していたことを示す証拠の収集」を心がけなくてはなりません。証拠が集まらなければ、立証責任を果たしていると見なされず、残業代の支払いが認められないからです。一般的に残業代請求では、次のような事柄を意識しながら、残業代の未払いを立証していきます。

残業代未払いを裏付ける証拠の収集

○労働契約の証拠
労働契約書や雇用契約書など、雇用契約の締結を立証するために必要です。

○残業していた事実を証明する証拠
タイムカードや勤怠管理表、業務に使用しているEメール、業務用PCへのログイン・ログアウト履歴、オフィスの時計の写真、タクシーの領収書など、残業の事実を裏付ける証拠です。

○残業内容の証拠
上司からの指示内容が記されたEメール、メモ、書類なども立証に必要な証拠と言えます。
特に外回りの時間が長い営業職などは、労働時間を把握しにくいことがあるため、取引先とのメールのやりとりやアフターサポートの履歴、営業日報などが証拠として収集しましょう。

○賃金の支給額がわかる証拠
給与明細や源泉徴収票など、「何がどれだけ支給されているのか」がわかる証拠を保管しておきましょう。これと併せて、「本来支給されるべき賃金」を把握できるように、就業規則のコピーも収集しておきたいところです。

証拠は過去2年以内の全てのものを目標に

残業代を含めた未払い賃金の請求権は、2年で時効を迎えます。これは、労働基準法第115条に規定があります。

“第115条 (時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。”

過去2年間にさかのぼって証拠が収集できれば、残業代が未払いであることを立証しやすくなるでしょう。ただし、2年分の証拠が揃わない場合であっても、一定期間以上(3ヶ月から半年以上)の証拠があれば、2年分の残業代を推測することができます。また、残業代の未払いが悪質であると判断されれば、不法行為に該当し、過去3年分まで認められる可能性もあります。この場合は、単なる残業代の未払いではなく「不法行為に対する損害賠償」として請求するのが一般的です。

ちなみに、2020年の民法改正を踏まえ、未払い賃金の消滅時効も「2年」から「5年」に延長される可能性があります。期間が延びると労働者側に有利になる一方、これまで以上に証拠の収集で労力が必要になるでしょう。

既に退職していて証拠が揃わない場合は……?

退職してから相当の時間が経過しており、証拠収集がままならない場合は、次のような対策が考えられます。

  • ○交通機関に問い合わせ、交通系ICカード(SuicaやPASMO)の履歴を確認して、通勤時間の証拠とする。
  • ○会社に対して開示請求を行い、当時の勤務記録・就業規則・労働契約書などを開示してもらう。
  • ○裁判所に働きかけ、会社に対して「証拠保全手続き」を行う。

残業代の立証は専門家へ相談を

残業代請求における立証責任を果たすためには、「証拠集め」が何よりも重要です。ただし、未払いの残業代請求では、証拠について明確なルールがありません。また、立証責任は請求者(労働者)にあるという原則から、「確実な証拠で立証する」ことが求められる傾向にあります。まずは弁護士に相談しながら、残業を立証するのに有効と考えられるものを蓄積していくようにしましょう。

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