2019.05.27 2022.12.20

労働審判の流れについて

労働審判の流れについて

残業代の未払いや不当解雇といった問題に直面したとき、まずやるべきことは会社側との話し合い(交渉)です。しかし、会社が交渉に話合いに応じるとは限りません。このような場合は、法的処置、つまり裁判によって解決を図ることになります。しかし、通常の裁判は年単位の時間が必要になります。そこで注目すべきが平成18年4月から始まった裁判所の手続き「労働審判」です。労働審判を使うことで、より迅速な解決が期待できます。

労働審判とは?その特徴とメリット

労働審判は、平成18年4月1日より導入された紛争解決手続きです。裁判よりも迅速かつ柔軟に労働問題を解決できる法的手続きとして広まっているため、その名を聞いたことがある方も多いでしょう

労働審判の特徴とメリット

労働審判では、不当解雇や残業代請求といった「労働紛争」について、裁判官1名+労働審判員2名で構成される「労働審判委員会」が原則3回以内の期日で審理を行い、調停や審判を行う制度です。ちなみに労働審判員は、長年にわたり企業の人事部に所属していた人や労働組合の組合活動を行っていた人など、労働関係の専門的な知識・経験を有する人材が選任されます。つまり、裁判所が行う手続きでありながら、民間企業の知見も取り入れた紛争解決手段といえるでしょう。その他、労働審判の主な特徴として、以下のような事柄が挙げられます。

○解決までの期間が短い
3回の審理を原則としており、申立から終結までの期間は平均75日(約2ヶ月半)です。8~10回の期日と1年前後の期間を要する通常の裁判に比べ、圧倒的に短いことがわかります。一般的に労働事件は争いが激しくなり、長期化する傾向にあるため、労働審判の迅速性は大きなメリットです。

○和解を中心とした柔軟な解決
申立のうち、約88%が金銭解決などの「和解的解決」に落ち着いています。白黒はっきりさせる、というよりは「落としどころ」「妥協点」を探るという色合いが強いかもしれません。

○手続が簡易である(書類が少ない)
労働審判で必要な書面は、労働者側(申立人側)は「申立書」のみ、使用者側は答弁書のみであり、非常にシンプルです。さらに、証人尋問など、一般の訴訟で行われる正式な手続は省略されます。

○審理は「口頭ベース」(直接口頭主義)
通常訴訟は準備書面と紙の証拠を交互に提出する、「書類ベースの審理」です。一方、労働審判は第1回期日前までに申立書と証拠を提出しておけば、あとは口頭で審理が進みます。具体的には、提出された書類を元に労働審判委員会から双方当事者へ質問が行われ、その場で回答することで審理が進んでいきます。このように口頭ベースのやりとりが早い段階(第1回期日)での心証形成につながり、早期解決につながっていくわけです。

○強制力
労働審判では、落としどころや妥協点を探る「調停」の意味合いが強いものの、最終的には強制力を持った「審判」を下すことができます。双方の言い分や主張が食い違い、合意が難しい時は「調停案」が出され、それにも応じなければ調停が打ち切りとなり「労働審判」が下されるわけです。ちなみに労働審判は裁判所の公的な判断ですから、判決と同一の効力を持ちます。こういった強制力が背景にあるからこそ、会社側は「調停」の段階で合意してしまおうという意識が生まれるのです。

労働審判の注意点

このように迅速かつ柔軟で、最終的には強制力も持つという便利な手続きである労働審判にも、いくつかの注意点があります。

○異議申し立てによって通常訴訟へ移行する
労働審判委員会が下した審判に対し、当事者が異議申し立てを行うと、審判の効力は失われます。また、その後は重厚長大な通常訴訟に移行してしまいます。ちなみに、異議申し立ての理由は特に決まりが無く「審判の内容が気に入らない、納得できない」という主観的な内容でも問題ありません。言い換えれば、簡単に異議申し立てがとおり、通常訴訟に移行してしまう可能性があるわけです。

○紛争内容の制限
労働審判は、どのような問題にも適用できるわけではありません。一般的には下記のような「労使間の個別労働紛争」が対象とされています。

  • ・残業代や給料、退職金、賞与など「賃金」の未払い
  • ・労働条件の不利益変更

これに対して、パワハラやセクハラのような「ハラスメント関連の事案」、組合活動やストライキなど「集団的労使紛争の事案」は対象にできません。

労働審判の具体的な流れ

労働審判の手続きは、以下のような流れで行われます。

1.申立書作成と証拠書類の収集
まず次のようなルールに従って申立書を作成します。

  • ・申立ての趣旨(労働審判委員会に対し、どういった結論を出してほしいか)
  • ・申立ての理由(趣旨に記載した内容がどういった経緯で発生したかなどの事実関係)
  • ・予想される争点に対する主張(自分の主張に対する反論を予想し、その反論に対する再反論を記載する)

次に証拠ですが、雇用契約書やタイムカード、就業規則、勤怠管理の履歴がわかるもの(勤怠管理システムから出力された書類など)、Eメール、解雇理由書、解雇通知書などが該当するでしょう。

2.申立て
以下いずれかの裁判所へ、申立書と証拠書類を提出します。持参でも郵送でも構いません。また、申立ては本人だけでなく、代理人でも可能です。

  • ・相手方の住所・居所・事務所所在地の管轄裁判所
  • ・労働者の就業場所の管轄裁判所
  • ・当事者の合意がある場合にはその合意した裁判所

ちなみに、申立てには手数料と郵便切手代がかかります。手数料は内容によって異なるため、裁判所によって異なりますが、訴額100万円で5000円、200万円で7500円というレベルですからそれほど高額ではありません。詳しくは下記、裁判所の手数料額早見表を参考にしてみてください。

参考:手数料額早見表(http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf)

3.裁判所から呼び出し
申立てが受理されると、裁判所から第1回目の期日を言い渡されます。第1回目の期日は、原則として申立てをしてから40日以内です。
このとき裁判所は、相手方に申立書と期日呼出状を送付したうえで、出頭と答弁書提出を求めます。相手方も、第1回期日より前に答弁書を提出し、申立人にも直接送付されます。
こうして双方が相手方の主張・反論の具体的内容を事前に把握できるわけです。また、期日前に「答弁書に対する反論書面(再反論)」を提出することもできます。

4.審理・調停・審判
期日は原則として3回で、第1回期日では双方から提出された書面と証拠をベースに、双方に追加の質問や内容の補充を求めます。その後は、労働審判委員会が双方同席のもとで審理をすすめ、調整が可能であればその方向で話し合いを進めます。第1回目で和解するケースもめずらしくなく、平成22~26年の統計では28.4%が第1回期日で解決しているようです。

第2回期日は第1回で調停成立とならなかった場合に開かれ、内容の補充や和解案の検討結果報告などが行われます。

また、最後の第3回期日まで進んだ場合は、労働審判委員会が審判(判決と同一の効力を持つ決定)の準備に入ります。ただし、和解する可能性が高ければ次回(第4回)期日の開催も検討されるでしょう。

期日内に話し合いがまとまれば、無事調停成立となります。労働審判のうち約7割が、期日内で集結しているようです。

5.異議申立て
審判の内容に納得がいかなければ、異議申立てが可能です。(審判言い渡しから2週間以内)
その後は通常訴訟に移行することになります。ちなみに、通常訴訟への移行では、労働審判の内容は引き継がれないため、「いちから出直し」の状態になります。また、間違いなく期間は長くなりますから、相応の労力と時間が必要になることは覚悟しておきましょう。

参考:http://www.courts.go.jp/okayama/saiban/tetuzuki/l4/Vcms4_00000363.html

未払い賃金、残業代問題などの早期解決に向けて

このように労働審判は大変便利な制度である一方、進め方によっては通常訴訟に移行してしまうというリスクがあります。できるだけ早く問題を解決したいのであれば、労働審判を賢く利用したいところです。

労働審判は「主張や反論を事前に準備して提出する」という特徴があります。つまり、自分の主張や相手側の反論、それに対する再反論、最終的な妥協点など、現実味のある対策を心がければ早期解決が期待できるわけです。労働問題に強い専門家に相談しながら、自己の主張を認めさせつつ、早期解決につながる道を探ってみてはいかがでしょうか。

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