パワハラ(パワーハラスメント)は、簡単にいうと「権力や立場を利用した嫌がらせ」のことです。日本では2001年ごろから頻繁に使われるようになりました。今ではすっかり市民権を獲得し、連日のようにパワハラ関連のニュースが報道されていますよね。しかし、実際に会社で働くとき、具体的にどのような言動がパワハラに該当するかは定義しづらい部分があります。たとえ上司の言葉や行動、態度で傷ついたとしても「果たしてこれが本当にパワハラなのだろうか…?」と悩んだ経験があるのではないでしょうか。そこで、パワハラの定義や具体的事例、法的な解決の手段を解説します。
「職場のパワハラ」の定義
「職場のパワハラ」は、厚生労働省によって以下のように定義されています。
○同じ職場・組織で働く人間に対し、職務上の地位・立場・権限・優位性などを背景に、業務の適正な範囲を超えて、身体的・精神的苦痛を与えたり職場環境を悪化させたりする行為
パワハラは、「上司と部下」の間だけに発生するとは限りません。正社員とパート社員、パート社員とアルバイト社員、先輩から後輩、正社員から業務委託者など、さまざまなケースが考えられます。ここでいう「パワー」とは「権力、権限」などを表すため、何かしらの権力・権限・決定力を持つ者は、誰でもパワハラの加害者になる可能性があるわけです。
ちなみに、厚生労働省ではパワハラの類型を以下のように紹介しています。
1)身体的な攻撃
暴行・傷害
2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること”
参考:厚生労働省職場のパワーハラスメントについて(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html)
これらを踏まえるとパワハラの定義は次の3点に集約されるといえるでしょう。
○パワハラの定義
- 「職場内での優位性を背景にしていること」
- 「業務上必要な注意・指導の範囲を超えていること」
- 「精神的、肉体的苦痛を与え、職場環境を悪化させていること」
職場のパワハラの具体例
このように職場のパワハラには定義が存在するものの、実際にはその定義に該当するかどうか判断に迷うこともあるでしょう。そこで、パワハラの具体的な事例を紹介します。
業務上のミスに対して「殺すぞ」「あほ」と暴言を吐かれた
上司である正社員らが、派遣労働者に対し、業務上必要なプログラムの変更を指示した。しかし、派遣労働者はその指示に従わずに業務を継続した。そのことに対し、正社員らは「殺すぞ」などと暴言を浴びせたうえ、派遣労働者の車を傷つけるような言動をした。また、派遣労働者の作業ミスで機会に腐食が生じたことに対し、正社員らは「殺すぞ、あほ」などと発言した。
○裁判所の判断
正社員らの不法行為と会社側の使用者責任を認め、賠償を命じた。
参考:アークレイファクトリー事件(大津地判平24・10・30判決)
資料置場として使用されていた席に移動させられた
A事業部とB事業部が存在する企業において、A事業部が廃止された。それに伴い、A事業部に所属していた社員が整理解雇の対象となった。しかしこの社員は、以下のようないじめ、嫌がらせがあったとして、会社に対して解雇無効や慰謝料、休業損害の支払いを求めた。
- ・上司と不倫関係にあるという事実無根の噂を流された
- ・多忙な時期にもサポート要員を付けてもらえなかった
- ・配置転換によって過少な要求(いわゆる雑用や専門性の低い仕事)を突き付けられた
- ・使える机があるにもかかわらず、資材置き場になっていた席への移動を命じられた
- ・資材置き場になっていた席へ異動した後も他の従業員に椅子をけられたり、「邪魔だ」などと暴言を吐かれたりした
○裁判所の判断
不自然な席替えなどの嫌がらせは社員を退職に追い込むためのものであり、代表取締役の指示・了解によって行われている。そのため、代表取締役と会社が連帯して損害賠償責任を負うことを認めた。
参考:国際信販事件(東京地裁平14.7.9判決)
パワハラに立ち向かうために
パワハラは、会社でのオフィシャルな立場・言動と、プライベートな事情が複雑に絡み合っていることが多く、なかなか公にできないという人が少なくありません。また、証拠の収集が難しいことも特徴のひとつです。不安・憤り・悔しさなどを一人で抱えながらパワハラに立ち向かうのは、極めて困難というのが実情だと思います。
無理にひとりで戦い続け、精神的・経済的な負担から体調を崩してしまっては元も子もありません。まずは自分の気持ちを整理する意味でも専門家へ相談を検討してみてください。労働問題に強い弁護士であれば、事実関係の整理と証拠の収集、慰謝料や休業損害、未払い賃金の請求を含めた対応が可能です。