労働問題のトラブルに関して、公的な窓口といえば「労働基準監督署」が挙げられます。しかし、労働基準監督署は、労働関係の全てのトラブルを引き受けているわけではありません。実は労働基準監督署の他にも公的な窓口はいくつか存在し、それぞれ役割が異なります。労働基準監督署に相談する前に、「何を受け付けてもらえるのか」をしっかり理解しておきましょう。
労働基準監督署とは?
労働基準監督署は、「労働基準法」をベースに企業を「監督」「指導」することが主な役割です。労働関係の公的な相談窓口としては最もよく知られた存在で、2019年現在、全国で321署(+4支署)が配置されています。相談方法は、電話及び面談が主流で、料金は無料です。
労働基準監督署は「立入り調査」の権限を持っており、実際に職場に立入って法令違反している事実の確認や指導を行うことができます。その他、労働基準監督署の業務をまとめると、以下のようになります。
●労働基準監督署の主な業務
- ・事業場に対する臨検監督指導(立入り調査)
- ・労災の原因調査と再発防止対策の指導
- ・重大な法律違反に対する送検処分
- ・使用者に対する説明会の開催
- ・申告・相談への対応
労働基準監督署で相談すべきこと
労働基準監督署は、労働基準法にのっとった対応が基本になり、「労働時間」「賃金」「休暇」に関する相談を受け付けています。具体的には次のような内容です。
- ・賃金、労働時間、解雇などの法令違反などについて相談したいとき
- ・事故、災害が発生したとき
- ・労災保険について相談したいとき
例えば、
- 「月100時間超の残業が続き、法令違反の可能性がある」
- 「雇用時の契約と労働条件が違う」
- 「賃金(残業代や休日手当含む)に未払いがある」
- 「思うように有休を消化できない。有給は取得しないのが当たり前になっている」
といった相談内容は、労働基準監督署の管轄ですから、積極的に相談すべきでしょう。一方、「パワハラやセクハラ」「人事関係の揉め事(配置転換や転勤など)」「一方的な懲戒処分(不当解雇)」などは、あまり得意としていません。これらは各都道府県の労働局内に設置されている「労働局雇用環境均等室」に相談すべき内容です。
●労働局雇用環境均等室が受け付ける相談内容
- ・男女雇用機会均等法に基づく相談
- ・育児・介護休業法に基づく相談
- ・パートタイム労働法に基づく相談
ちなみに労働局雇用環境均等室は、必要に応じて「行政指導」や「調停会議」を行う権限を持っています。また、「そもそもどこに相談したら良いのかわからない」という場合は、労働局や労働基準監督署内に設置されている「総合労働相談コーナー」を頼ってみてください。総合労働相談コーナーは、いわゆるガイド的な役割を持っており、相談内容によって適切な部署・機関への取次ぎを行ってくれます。
このように、労働問題の種類や質に応じて、相談窓口を上手く使い分けていくことが重要です。
労働基準監督署への相談で注意すべきこと
労働基準監督署は、立ち入り検査や是正勧告、さらに悪質なケースでは「逮捕」まで行う権限を持っています。これらは労働基準監督官に与えられた「臨検監督」「司法警察官」という役割がベースです。
ただし、労働基準法に明記されている問題以外については、積極的に動かないこともあります。持っている役割・権限が強力であるだけに、専門外のことについては「ヒアリングとアドバイス」に終始することも珍しくありません。例えば、次のようなケースでは、労働基準監督署から満足な回答が得られない可能性もあります。
- ・解雇されたが妥当か違法かわからない
- ・パワハラまがいの言動でじわじわと退職に追い込まれている最中だが、どうすべきかわからない
- ・労働契約が成立しているかどうかわからない(内定や内々定)
- ・自主退職か解雇なのかがはっきりしない
- ・配置転換、人事評価、異動などの妥当性について
- ・いじめ・嫌がらせ・パワハラの精神的苦痛について
労働基準監督署は国の機関ですから、厳格なルールにのっとって動く必要があります。したがって、上記のような境界が曖昧な問題には積極的に関与しにくいのです。このような問題を含む相談は、国の機関よりも労働問題の強い専門家、つまり弁護士などへの相談が適しています。労働問題に強い弁護士であれば、会社との交渉や証拠集め、裁判・訴訟を含めたワンストップな対応が可能です。
労働問題は「一人で悩まないこと」が重要
労働に関するトラブルは、従業員側が精神的に孤立しがちです。もともと「雇われている」という不利な立場ゆえに、満足な主張・交渉ができず、問題が深刻化することがあります。
独りで悩まず、まずは労働基準監督署や弁護士など、複数の窓口への相談を検討してみてください。