会社が従業員を解雇するときに、最も注意すべきなのが「懲戒解雇」です。文字通り、従業員に対して制裁的な意味合いを持ちます。つまり、会社側と従業員側に何らかの軋轢があったときに発生するものであり、不当解雇に該当する可能性もゼロではありません。実際、懲戒解雇を不服とし、解雇された従業員が会社に対して裁判を起こすケースが増加しているとも言われます。仮に裁判で不当解雇と判断されれば、企業側が賠償金の支払いを命じられることもあるでしょう。また、従業員側にとっても懲戒解雇は経済的・社会的にデメリットがあります。そのため、懲戒解雇の基本的な知識・適正な手続きについては労使ともに良く知っておくべきです。
懲戒解雇とは?
一般的に「解雇」とは、会社側(使用者側)からの一方的な労働契約の解除です。また、その理由によって「通常解雇」「懲戒解雇」の2種類に分類されます。それぞれを簡単に解説すると、次のようになります。
- ・通常解雇…「勤務成績不良」「経歴詐称」「病気・けがなどによる勤務不可」「経営上必要とされる人員削減(整理解雇)」を理由とした解雇
- ・懲戒解雇…懲戒処分(違反行為に対する制裁)として行われ、「企業の秩序を乱した」「法に抵触する行為」などを理由とした解雇
懲戒解雇は、労働者に対する制裁の意味合いが強く、能力・その他個人的な事情・経営上の事情などを理由とする普通解雇とは一線を画します。
懲戒解雇が有効と見なされる条件
労働契約法では「客観的合理的な理由」「社会通念上相当であると認められること」が懲戒解雇の条件とされています。
“労働契約法第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。”
具体的には、
- 1.就業規則に「懲戒解雇事由」が定められており、明示・周知されている
- 2.懲戒解雇を言い渡す前に、労働者に対して弁解の機会を与えている
- 3.就業規則に定められた懲戒解雇事由が「客観的かつ合理的」で「社会的相当性」を持つ
という3点が、懲戒解雇が有効か否かの判断ポイントになります。もしこれら3つの条件のうちいずれかが欠けると、懲戒解雇が無効となる可能性があるわけです。現状、裁判所は懲戒解雇に対して慎重な姿勢を示しており、懲戒解雇事由は拡大解釈や類推適用の対象になるべきではないとしています。したがって、本当に懲戒解雇が有効かどうかは、就業規則や従業員の言動を吟味しながら、慎重に判断すべきです。
ちなみに、懲戒解雇が有効と判断されやすいケースでは、次のようなものがあります。
○懲戒解雇に値すると判断されやすいケース
- ・長期にわたる無断欠勤があったとき
- ・適切な上司の指示に従わない、業務を妨害する、職務規律違反があったとき
- ・不正経理や架空取引など、業務上の地位を悪用して利益を得ていたとき
- ・私生活において飲酒運転、窃盗、強盗、傷害、殺人など会社の信用を貶めるような行為があったとき
- ・重大な経歴詐称(最終学歴の詐称、業務に必要な資格の保有についての詐称など)
- ・悪質かつ重大なセクハラ、パワハラがあったとき
- ・懲戒解雇以外の処分(厳重注意、訓告、減給)を経ても同様の行為を繰り返すとき
ただし、これらに該当しても「懲戒解雇は無効」と判断される可能性はゼロではありません。重要なのは「実際に企業の秩序を乱しているか」「会社側に実損が生じているか」「解雇以外に企業秩序を回復する手段が無いか」といった点です。
懲戒解雇と普通解雇の違い
前述したように、懲戒解雇は「懲罰的な意味合い」を持つという点で、普通解雇とは異なります。そこで懲戒解雇特有のデメリットを整理してみましょう。
○退職金、解雇予告手当の支給を受けられない
よく、「退職金や解雇予告手当の支払いを受けられない」と言われますが、これもケースバイケースです。「それまでの功績を相殺してしまうほどの重大な背信行為」であったかで判断されるため、「懲戒解雇=不支給」とは限りません。
ただし、就業規則に退職金の不支給・減額規定が記載されていると、減額や不支給となる可能性は高いでしょう。まずは、本当に懲戒解雇が有効かを確認する必要があります。
○自己都合退職
もし懲戒解雇が有効と判断された場合でも、退職金をもらえる可能性があるため、個別に検討する必要があるわけです。また、失業保険給付を受ける場合には自己都合退職と同様の給付制限期間(3ヶ月)が設けられます。
○再就職時の問題
懲戒解雇は「賞罰」欄に記載する必要はないものの、面接時に退職理由を聞かれた際には、できるだけ正確に答えなくてはなりません。もし解雇の事実を一切話さず、採用後にそれが発覚してしまった場合は、経歴詐称とも捉えられかねないからです。
解雇絡みのトラブルは専門家の判断を仰ぐべき
仮に懲戒解雇を言い渡されたとしても、まずは懲戒解雇が本当に有効かどうかを確認する必要があります。特に何らかの犯罪行為や、重大な背信行為が無い状態での懲戒解雇は、慎重に為されるべきです。
会社側としても、後々の訴訟リスクを考慮した場合、安易に懲戒解雇とせず普通解雇や諭旨退職処分にしたほうがベターという可能性もあります。最適解はひとつではないため、弁護士など外部の専門家へ相談しながら、手続きを進めたいところです。