現代企業は、「解雇通告」を出すことを避ける傾向があります。その理由は、労働者が労働基準監督署や専門家へ相談し、労働審判をはじめとした争いになることを危惧しているからです。もし解雇絡みのトラブルに発展すれば、企業は就業規則や内情を調査されることになります。そこで、「労働者側が退職届を提出するように仕向ける」動きがでています。「明らかに遂行不可能な仕事を振る」「給料を引き下げる」「人事評価を意図的に下げる」といった内容が一般的でしょう。また、「退職届を出してくれ」と遠回しに言い渡されることもあります。退職強要は違法ですから、こういった内容には毅然と対応しなくてはなりません。
退職強要に該当する内容とは?
退職強要を明確に言い渡す企業は少ないため、全体的な経緯を見て退職強要に該当するかを判断することになります。具体的には、次のような行為があれば、退職強要にあたると考えられます。
確実に退職強要にあたると判断されるケース
- ・退職届を出すよう、殴る、蹴るなどの暴行を受けた
- ・「退職届を出さなければ家族に危害を加える」などの強迫を受けた
複数該当すれば、退職強要にあたる可能性が高いケース
- ・数時間にわたって退職を検討するよう問い詰められた
- ・「能力が全くない」「無能」など労働者本人の名誉を侵害するような発言があった
- ・数か月~1年単位で退職を検討するよう説得された
- ・机や壁を叩くなど、威圧・恫喝と捉えられるような行動があった
特に難しいのが「退職勧奨」と「退職強要」の違いですが、これについても全体的な経緯を見て判断されます。この2つの差は「程度の差」といえるほど微妙なものですが、同じ内容でも頻度や期間の長さで退職強要に該当する可能性もあるわけです。
退職強要をうけたときに取るべき行動は?
まずとるべき行動は「明確に拒否すること」です。繰り返すようですが退職強要は違法であり、応じる義務はありません。それでも退職強要(もしくは高頻度で退職勧奨があった場合でも)が続くようであれば、「証拠」の収集を始めましょう。ここで証拠となるのは、メモや録音です。もちろん、業務で使用するメールでもかまいません。さらに、内容証明郵便で、会社の人事部や総務部に手紙を出す方法もあります。
このとき、手紙には、
- ・自分の所属と氏名
- ・退職強要を受けた日時
- ・具体的な内容(言葉や行動など)
- ・「繰り返してなされる執拗かつ半強制的な退職の勧奨」や「退職勧奨拒否を理由として不利益な措置を行うこと」は違法であること
- ・今後も退職強要が続くようであれば、法的処置を取らざるを得ないこと
などを明記してください。
それでも退職強要がとまらない場合は…?
一連の対策を行ってもまだ会社側が退職強要を続ける場合は、裁判所を通して「差止めの仮処分」を行うべきでしょう。差止めの仮処分は、裁判所に対して「仮処分命令申立書」を提出し、裁判官との面談や相手方(会社側)への調査を経たのちに行われます。
ちなみに仮処分とは、本訴訟(通常の裁判、1~2年の長期にわたる)の前段階として、暫定的な権利や地位を保全する手続きです。したがって、仮処分が下されたとしても後の本訴訟で違う結果が出ることもありますが、「本格的に争う姿勢を見せること」「相手方の行動を抑制すること」といった効果が見込めます。
また、仮処分申請は「守りたい権利の内容」「その権利を守る必要性」などを具体的に明記する必要があることから、専門家のサポートが必要です。もし退職強要(もしくは繰り返し行われる退職勧奨)にあったら、差止めの仮処分を視野に入れ、弁護士への相談を検討してみてください。