はじめに
労働者が使用者に対し残業代を請求するには,客観的に残業を行っていたことを証明できる資料を用意しなければなりません。そして,その資料は,残業代を請求する労働者自身が集めなければなりません。
以下では,残業代請求に必要な資料とその集め方について解説してきます。
残業代請求に必要な資料
・雇用時に交付された書面
雇用契約時に,使用者から労働者に対して交付される書面である,「雇用通知書」や,使用者と労働者の署名・押印がある「労働契約書」「雇用契約書」という書類があります。
これらの書面には,残業代支給に関する規則や給与の支払い方法などの重要事項が記載されているので,使用者からこれらの書面の交付を受けた場合は保管しておく必要があります。
・就業規則
常時10人以上の労働者を使用する使用者に,所定の事項を記載した就業規則を作成ことが義務付けられています(労働基準法89条)。就業規則は,事業場を単位としているのでパートやアルバイトなどの非正規社員も,労働者に算入されることになります。
就業規則には,賃金の決定・計算に関する事項を必ず記載しなければなりません。そのため,就業規則も雇用時に交付された書面と同様に重要事項が記載されているので保管しておく必要があります。
もっとも,就業規則を作成していない企業も多く,労働者に開示されていないこともあります。
・タイムカードや日報
タイムカードには退勤時刻が打刻されており,日報には日々の労働時間が記載されていますので,残業時間計算をする上で有力な資料となります。
残業代請求権の時効は2年ですので,過去2年分のタイムカード,日報を用意するのがいいでしょう。
もっとも,タイムカードや日報が存在しない場合や紛失される場合もあるので,残業時間を証明する別の資料を収集する必要があります。
・会社のパソコンから個人用のメールアドレスに出退勤時間を送信する
会社からメールアドレスを支給されていた場合,そのメールアドレスを利用して個人用のメールアドレス(携帯,パソコン等)に出社時刻と退社時刻を毎日メールで送信しておく方法があります。会社内からメールを送信することでIPアドレスによりメールを送信した時刻に会社にいたことがわかります。
この方法で,何時間会社にいたか,何時間残業していたかを証明することに役立ちます。
また,営業等により会社の外にいて勤務後直帰する場合でも,会社から支給されているパソコンがあればこれを利用して個人用のメールアドレスにメールを送るのがいいでしょう。
もっとも,会社からメールアドレスやパソコンを割り当てられていない場合や,割り当てられたメールアドレスを使って個人用のメールを送ることが禁止されている場合は別の資料の収集方法を検討する必要があります。
・携帯電話から個人用のメールアドレスに出退勤時間を送信する
会社からメールアドレスやパソコンを割り当てられていない場合や,割り当てられたメールアドレスを使って個人用のメールを送ることが禁止されている場合は,携帯電話を利用して個人用のメールアドレスに出退勤時間を送信する方法があります。
もっとも,この方法は,会社のパソコンからメールを送信するほど残業の証明には役には立ちませんが,メールの送信日時が残るので残業代の計算には役立つ場合があります。
・会社のパソコンのログイン・ログアウト時間を記録しておく
会社からパソコンを支給されて業務を行う場合や,パソコンを使用する業務である場合,ログインやログアウトが必要になるのでこの時間を記録することで,残業時間の計算に役立つ場合があります。
・出退勤時刻と毎日手帳等に記録しておく
手帳等に記録する場合は,正確に出退勤時刻を記入すること,残業があった場合はその理由を詳細に書いておくことが必要となります。
この方法は,メモとして残しておくものであり容易に改ざんができるので,残業を証明する資料としては強くありません。
もっとも,他の資料と組み合わせて使用すると残業の証明がしやすくなります。
・残業承認書や残業指示書を残す
これらの書面は使用者から残業の指示があったことを証明する資料となります。残業承認の内容が記載された書面や,使用者からの残業の指示のメール,メモ等があれば,残業の証明に役立ちます。
・その他,残業時間中の業務がわかる資料を残す
残業時間中の業務がわかる資料として,残業中のメールの送信履歴や,残業時間中の業務内容が記された業務日誌等があれば,残業を証明するのに役立ちます。
残業代請求に必要な資料の集め方
・資料は慎重に集める
残業代請求をしようとしているとき,これに必要な資料を集めているのを使用者やほかの労働者に知られると,破棄されたり隠されたりするおそれがあるので慎重に行う必要があります。
・集めた資料はコピーや写真で残しておく
労働者自身が,残業をしたことを証明する資料を確認するだけではなく,コピーをしたり,写真を撮ることで保管しておく必要があります。
・弁護士に相談する
その他,残業代請求に詳しい弁護士に相談することで残業代請求に必要な資料の集め方を知ることができます。
おわりに
残業代を請求するためには,残業を行ったことを客観的に証明する資料がなければなりません。残業代請求を証明するのに役立つ資料は複数ありますので,個々人の労働環境から資料を組み合わせるといいでしょう。また,資料の集め方は,慎重に手元に保管できるように集める必要があります。弁護士に相談することで残業代請求に必要な資料の集め方を知ることもできます。
当事務所では,残業代請求に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。残業代請求を検討されている方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。