2023.02.02 2023.02.02

残業代が請求できない場合

はじめに

労働者が残業をした場合に,労働者は使用者に対し残業代を原則として請求することができます。一方で,残業代を請求できない場合もあります。
以下では,残業代が請求できない場合について解説していきます。

一定時間労働したものとみなされる場合

実際に何時間労働したかにかかわらず,一定時間労働したものとみなされる場合には,残業代を請求することができません。これには,「事業場外労働」「裁量労働」があります。

・事業場外労働の場合

労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し,かつ,労働時間の算定が困難な場合には,所定労働時間だけ労働したものとみなされます(労働基準法38条の2)
X社の従業員である,Aさんが10時間外回りの営業をした場合を考えます。
原則として1日8時間を超えて勤務した場合超えた部分は時間外労働として,残業代を請求できますので,Aさんは8時間を超える2時間分について残業代請求ができるはずです。
しかし,X者の就業規則等で,外回りの営業をする従業員を対象に1日8時間労働したものとみなすとする規定があった場合,Aさんは8時間を超える2時間分は残業代を請求できません。

・裁量労働の場合

研究開発やシステムエンジニアなどの専門職について,会社が,一定時間労働したものとみなすとして労使協定を結んだ場合(同法38条の3)や事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を行う一定範囲の労働者について事業場内での労使委員会の決議や本人の同意等により一定時間労働したものとみなす場合(同法38条の4)があります。
あらかじめ労使協定などで一定時間労働したものとみなすとされている場合,みなされた時間が法定労働時間を超えていたとしても,みなされた労働時間を超えた分しか残業代を請求することができません。
例えば,X社の従業員のAさんが,研究により12時間労働したとしても,「一日10時間労働したものとみなす」という労使協定が結ばれていれば,2時間分の残業代しか請求できず,10時間を超える2時間分は請求することはできません。

あらかじめ残業代に関する規定を設けている場合

雇用契約を締結する際に,使用者側が労働者に対し,毎月支給する手当に一定時間分の残業代を含むと説明した場合,一定時間内であれば残業をしても残業代を請求することはできません。
AさんがX社と雇用契約を締結する場合,毎月支給する手当に関し,X社側から「あらかじめ10時間分の残業代を含む」との説明をAさんに説明した場合を考えます。
この場合,Aさんは,ある月に10時間の残業をしたとしても,X社側から支給される手当の中に10時間分の残業代が含まれているため,AさんはX社に対し10時間分の残業代を請求することはできません。
もっとも,一定時間を超える残業を行った場合は,その分について請求することができます。
上の例ですと,Aさんがある月に15時間残業を行った場合には,10時間分については残業代を請求することはできませんが,10時間を超える5時間分についてはX社に対し残業代を請求することができます。
そのため,雇用契約を締結する場合には,毎月支給される手当について何時間分の残業代が含まれているのか,確認する必要があります。

年俸制が採用されている場合

給与制度の一つとして年俸制を採用している企業も中にはあります。
年俸制の場合でも,時間外労働に対し残業代を請求することができます。もっとも,契約上,年俸の中に一定時間分の残業代を含んでいる場合があります。この場合,一定時間分については残業代を請求することはできません。
そのため,雇用契約の際,支払われる年俸に対し何時間分の残業代が含まれているかを確認する必要があります。

週に一回の休日が確保されている場合

使用者は,労働者に毎週少なくとも1回の休日または,4週間に4日以上の休日(法定休日)を与えなければなりません(労働基準法35条)。労働者が休日に労働した場合,使用者に対し35%の割増賃金を請求することができるのが原則です(同法37条1項)。
もっとも,法定休日のほかに休日が確保されている場合,その日は法定外休日となり,労働をしても,割増賃金を請求することができません。
X社では,日曜日を法定休日とし,その他に土曜日を休日としており,X社の従業員であるAさんが土曜日に労働をした場合を考えます。
この場合,Aさんが土曜日に労働したとしても,法定外休日の労働であるので,割増賃金を請求することはできません。
もっとも,時間外労働であれば,25%の割増賃金が支払われます。
そのため,上の例で,Aさんの労働が時間外労働に当たれば,AさんはX社に対し割増賃金を請求することができます。

労働基準法上の管理監督者に該当する場合

労働基準法41条第2号によれば,管理監督者について残業代が支払われないとされています。
管理監督者は次の要件を満たす必要があります
・重要な職務と権限を持っていること
・出社・退社時間の管理がされていないこと
・基本給や手当面でその地位にふさわしい処遇を受けていること
これらの要件を満たさない場合,管理監督者ではなく労働者として残業代が支払われます。
使用者から,何らかの肩書が与えられていたとしても労働基準法上の管理監督者に当たらない限り労働者ですので,残業をした場合残業代を請求できるので注意する必要があります。

法律上残業代が出ない業務にあたる場合

労働基準法41条1号または3号にあたる業務を行っている場合は残業代を請求できません。それは次の2つです。
・天候や自然条件に左右される業務を行っている場合 
例えば,植物の栽培,動物の飼育などです。
・監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの
監視に従事する者としては,例えば,守衛,水路番などがこれにあたります。
断続的労働に従事する者としては,例えば,役員専属の運転手や警備業務がこれにあたります
もっとも,この業務に当たるかどうかは業務の実態により判断されることになります。

おわりに

労働者が残業を行った場合,労働者は使用者に対し原則として残業代を請求できますが,残業代を請求できない場合もあります。残業代が支払われていない場合,自分の勤務形態が残業代を請求できない場合に当たるかどうかを確認しておく必要があります。
当事務所では,残業代請求に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。残業代請求を検討されている方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

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