2023.02.02 2023.02.02

残業の証拠が一切ない。請求は一切できないのでしょうか?

はじめに

残業代請求をするには,残業代を請求する労働者が残業をしたことを証明する証拠により証明する必要があります。
在職中であれば,会社内を自由に行き来できるので残業の証拠を簡単に収集することができます。退職後であれば会社内を自由に行き来することができないので残業の証拠の収集も容易ではありません。
その結果,退職後は残業の証拠が一切ない場合も起こりえます。このような事態であったとしても残業代請求をあきらめる必要はありません。
残業の証拠が一切ない場合に,残業代請求をする方法を解説していきます。

退職後でも収集できる証拠はある

退職後で,手元に残業の証拠がなかったとしても,身近なところから証拠を集めることができます。

・ICカードの利用履歴

通勤に交通機関を利用していた場合,SuicaやPASMOなどのICカードを利用することが多いと思います。この場合に,交通機関に問い合わせることで,ICカードの利用履歴を確認することができます。これにより利用時刻がわかるので,そこから出勤・退勤の時刻を算定し,残業の証拠として利用できる可能性があります。

・会社のアカウントから自分携帯電話に送信したメールの履歴

会社からメールアドレスを割り当てられており,そこから個人の携帯電話にメールをしていた場合には,その履歴が会社にいた時間を証明する証拠になります。残業時間にメールを送っていたという履歴があれば残業を証明するのに役立ちます。

使用者に対し残業の証拠の開示請求をする

残業の証拠が一切ない場合であっても,弁護士や社会保険労務士に依頼して残業の証拠の開示請求をすることができます。
もっとも,残業代の支払いは,使用者側にとって都合の悪い事態であるので,何らかの理由で開示を拒否したり,証拠の隠ぺいを行う可能性があります。
このように,使用者側が証拠の開示を拒否,隠ぺいをしようとした場合には,労働審判や訴訟により残業代を請求する方法が考えられます。まず,労働者が大体の額の残業代を請求し,労働審判や訴訟の中で残業の証拠の開示を求めていくことになります。

証拠保全手続

労働者が証拠の開示を使用者に求めたのに対し,使用者側がこれに応じない場合や,証拠を破棄・隠ぺいをしようとした場合は,証拠保全手続(民事訴訟法234条)が有効です。
証拠保全手続とは,証拠の改ざんや隠ぺいの危険性がある場合に,証拠を確保しておく手続をいいます。証拠保全手続は裁判所からの書面での通知や裁判官や裁判所書記官が現場に出向いて証拠を要求する方法により行われます。
労働者自らが証拠の開示請求をする場合には,使用者は開示を拒否するおそれがありますが,証拠保全では裁判所が行うため証拠の開示を受けることができます。
手続きの流れとしては,まず,証拠保全申立書を地方裁判所に提出します。手数料は,1件当たり2000円となります。
証拠保全が認められるには,証拠保全申立書に,相手方当事者,証明すべき事実,証拠,あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情(保全事由といいます。)を記載する必要があります。保全事由は裁判所に説明できなければなりません(疎明といいます。)。
保全事由としては,使用者が証拠となる文書等を改ざんしたり,破棄したりすることで将来この文書等を利用して残業代を請求することが困難となる場合をいいます。
証拠保全申立が認められれば証拠保全が実施されます。証拠保全の際に,残業代を請求したい労働者やカメラマンが同行することもあります。
証拠保全により得られた証拠は,訴訟で残業代を請求したり,使用者側と示談交渉をする場合に利用できるので保管しておく必要があります。
証拠保全手続は,労働者自身が単独で申し立てる必要ができます。しかしながら,どの証拠を押さえるかは労働者自身が決めるので,残業を証明する有力な証拠を保全し損ねたり,証拠に漏れがあったりして,十分に残業代を請求できないおそれがあります。このような危険を回避するためには,どのような証拠を押さえる必要があるかを法律の専門家である弁護士に相談したり,証拠保全の申立てを弁護士に依頼するのがよいと思います。

おわりに

残業の証拠が一切ない場合であっても,残業代の請求をあきらめる必要はありません。手近なところから残業の証拠を収集することができますし,使用者に対し開示請求をしたり,裁判所に証拠保全を申し立てることで残業の証拠を集めることができます。証拠の開示請求をする場合や証拠保全の申立てをする場合,法律の専門家である弁護士に相談や依頼することで有利に進めることができると考えられます。
当事務所では,残業代請求に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。残業代請求を検討されている方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

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