残業代請求は、「裁判」と「労働審判」という2つの方法があります。裁判はいわゆる訴訟で、長い期間と多くの手間をかけ、完全なる決着をつけるための手段です。一方、労働審判は最終的に強制力を持った結果(審判)が言い渡されるものの、その過程は話し合い(調停)がベースです。実は裁判よりも労働審判のほうがメリットは多いため、できることなら労働審判での決着を目標にすべきでしょう。ここでは、労働審判のメリットを紹介します。
労働審判とは?
労働審判は、平成18年(2006年)4月1日より導入された紛争解決の手続きです。裁判よりも迅速かつ柔軟に労働問題を解決できることがメリットです。労働審判では、不当解雇や残業代請求といった「労働紛争」について、裁判官1名+労働審判員2名で構成される「労働審判委員会」が審理を行います。労働審判員は、企業の人事部に長年所属していた人や、労働組合の組合活動を行っていた人など、労働関係の専門的な知識・経験を有する人材が選ばれます。つまり、官民それぞれから労働問題に知見を持つ人材が選ばれるのです。
裁判よりも労働審判が優れている点
労働審判のメリットは、「期間の短さ」「申立ての負担の軽さ」「過程の柔軟さ」などがあります。具体的には次のとおりです。
手続が簡単
労働審判は、裁判に比べると圧倒的に書類が少なく、手続きが簡単です。
具体的には、労働者側(申立人側)は「申立書」、使用者側は答弁書のみで事足ります。
また、通常の訴訟のような「証人尋問」のような正式な手続は省略されます。
短期間での解決
労働審判は原則3回の審理で完結します。また、申立から終結までの期間は平均75日(約2ヶ月半)です。
8~10回の期日と1年前後の期間を要する裁判に比べると、圧倒的に期間が短いわけです。
労働問題に関する訴訟は長い時間を必要とする可能性が高いため、労働審判の迅速性は特筆すべきメリットです。
和解が中心かつ柔軟な解決
労働審判のうち、9割近く(約88%)が「和解的解決」に落ち着いています。裁判のように白黒はっきりさせるのではなく、お互いに妥協点を探る傾向が強いのです。
そのため、スムーズな決着も珍しくありません。
口頭ベースの審理(直接口頭主義)
通常訴訟は準備書面と紙の証拠を交互に提出する「書類による審理」ですが、労働審判は口頭で審理が進みます。第1回期日前までに申立書と証拠を提出し、それをもとに労働審判委員会から双方当事者へ質問が行われます。その後は、口頭による回答で審理が進んでいきます。口頭ベースのやりとりが早期の心証形成につながります。
強制力
労働審判は「調停」の意味合いが強い一方で、最終的には強制力を持った「審判」を下します。これにより、双方の言い分・主張が食い違った場合でも、しっかりと決着に持ち込むことができるわけです。労働審判は裁判所の公的な判断であり、判決と同一の効力を持ちます。この強制力が「調停の段階で合意してしまおう」という意識に繋がります。
残業代請求の早期解決に向けて
このように、労働審判は迅速かつ柔軟な法的手続きであり、一定の強制力も持っているため、残業代請求において多くのメリットがあります。ただし、準備期間が短く、最終的に裁判に移行するリスクもありますから、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
労働審判の特徴は「主張や反論を事前に準備して提出する」という点ですから、いかに短い時間で効果的に主張するかが重要です。専門家のサポートを受けながら、自分の主張と相手側の反論、再反論、落としどころなどをしっかりと練っておきましょう。