日本の労働基準法では、法定労働時間外の労働に対して別途割増賃金を払う決まりがあります。しかし、どのくらい残業したのかを厳密に把握していなかったり、みなし残業制だからと残業代計算を全く行っていなかったりすると、未払い分が発生していることがあります。では、具体的にどういったケースで残業代の請求が可能なのでしょうか。ここでは、残業代未払いを請求可能なケースについて解説します。
残業代未払い分の請求が可能かはここをチェック!
未払い分の残業代では、次の点を重点的にチェックしましょう。
労働条件通知書
労働条件通知書は、労働条件を整理してまとめた書類であり、雇用前に必ず労働者へ渡すべきものです。
その内容は以下のとおりです。
- ・労働契約の期間
- ・就業場所、業務内容など
- ・始業および終業時刻、休憩時間、休日、有給休暇について
- ・給料、賞与の金額や支払方法
- ・退職、昇給に関すること
この中で特に重要なのが「始業および終業時刻、休憩時間」の部分です。残業代計算の根拠となる数字ですから、必ず記載をチェックしましょう。
雇用契約書
労働条件通知書とほぼ同一の内容ですが、こちらは契約書という性質上、少し読みづらいかもしれません。
なお、企業によっては作成しない場合もあります。
就業規則
就業規則は一定以上の労働者を常時雇用している企業に対して、作成の義務があります。
こちらも労働条件通知書や雇用契約書と似た内容が記されていますが、雇用契約書よりも優れている部分(労働者に有利な部分)については、就業規則が優先されます。
残業代に関する規定が定められているかを入念にチェックしましょう。
残業の証拠は確保できているか
残業があった日時や業務内容を確認できる証拠があるかもチェックしておきましょう。
タイムカードや業務日報、Eメール、指示書、その他勤怠管理の記録などが有効です。
労働基準法上の「管理監督者」に該当していないか
労働基準法では、第41条において「管理監督者」に該当する労働者へ残業代を支給する必要がないと定めています。勤務時間を自分で決める権限や、社員の雇用や解雇の決定権、経営に参画する権限などが無いかをチェックしてください。これらを持っているようであれば、残業代が請求できない可能性もあります。
本来の支給日から2年以内か
残業代請求の時効は「本来の支給日」から2年です。したがって、6月分の残業代が7月20日に支払われる場合は、2年後の7月20日がリミットということになります。
ただし、未払いの内容が悪質である場合には、3年になることもあります。また、2020年以降は民法改正の影響から、時効が5年に延びる可能性もあるため、専門家(弁護士など)への相談も検討しておきましょう。
また、「みなし残業制だから残業代は請求できない」と勘違いをされている方が珍しくありません。みなし残業代制は、あくまでも「固定分」について残業代を含んでいる制度であり、それ以上の残業については請求できる可能性があります。
みなし残業代制でも未払い残業代が請求可能なケースは?
みなし残業代制(固定残業代制)を採用している企業であっても、次の条件を満たしていれば残業代請求が可能です。
- 1.基本給とみなし残業部分が明示的に区別されている
- 2.みなし残業代(固定残業代)について、労働契約に明記されている
- 3.固定残業時間以上の残業が発生している
この場合は、まず1時間当たりの残業代を計算し、固定残業時間を超過した時間数を乗じた金額を別途請求できます。
また、「そもそもみなし残業代制が無効である」場合も、残業代の請求が可能です。
この場合は、固定残業部分を含めて、法定労働時間外の労働全てを計算し、残業代として請求できます。ちなみに、みなし残業代制が無効になるケースは、次のとおりです。
みなし残業代制が無効になるケース
- ・「残業時間が40時間に達しない場合は、残業代自体を1円も払わない」など、労働基準法上、明らかに違法であるケース
- ・1時間当たりの残業代が、最低賃金を下回っているケース
- ・みなし残業代制への移行を労働者に周知していないケース
もしいずれかに該当しているならば、残業代が請求できるかもしれません。
判断に迷う場合は弁護士へ
このように未払い残業代の請求には、一定のルールがあります。ただし、証拠の収集や労働契約の内容など、ある程度の知識・ノウハウが必要な部分も多いため、単独では請求まで漕ぎつけられない可能性があります。チェックの結果、もし判断に迷うような部分があれば、ぜひ弁護士への相談を検討してみてください。弁護士であれば、会社との交渉・残業代請求・労働審判などを含めた、一貫したサポートが可能です。残業代請求は、労働者に認められた権利です。簡単にあきらめず、正当な対価を受け取っていきましょう。