残業代請求は、時間との闘いでもあります。この記事を執筆している時点では、原則として本来の支給日から2年以内の残業代のみ、請求が可能です。しかし、最近になって過去の未払い残業代に気づき、請求をしたいと申し出る方もすくなくありません。例えば、「15年前の残業代は請求が可能なのか」といった問い合わせです。ここでは、10年、15年前の残業代請求が可能なのかについて解説します。
残業代請求の期限は原則2年(もしくは5年)
残業代を含めた未払い賃金の請求権は、本来の支給日から2年で時効となり、請求できなくなってしまいます。請求権の時効については、労働基準法第115条に規定があります。
“第115条(時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。”
ちなみに、2020年に施行される改正民法の影響から、未払い賃金(残業代)の消滅時効も「2年」から「5年」に延長される可能性があります。
また、残業代の未払いが特に悪質であり、不法行為に該当すると判断されれば、時効が3年に延びる可能性も考えられます。具体的には、債務不履行による損害賠償請求権が適用されるとみなされた場合のみ、3年間の残業代請求が認められるでしょう。ただし、過去3年分の未払い残業代が認められるケースは稀です。したがって、原則として2年と認識しておくのが良いでしょう。
15年前の残業代を請求できるのか?
この原則を踏まえたうえで、15年前の残業代請求について考えてみましょう。一般的には、15年前の残業代請求は不可能です。しかし、仮に会社側が時効の援用をしなければ、15年前の残業代を受け取れる可能性もあります。なぜなら時効は、「援用」という手続きを経ることで、その効果を発揮するからです。
では援用とは何かというと、「消滅時効の制度を利用する意思を、債権者に伝えること」です。例えば会社側が2年間の時効を知らなかったとしましょう。このとき、労働者側に時効を利用することを通知せず、15年前の残業代の支払いに応じれば、時効の援用が行われないことになり、時効は成立しません。しかしながら、一般的に会社側が時効を知らない(援用しない)というケースは考えにくいでしょう。顧問弁護士や社労士に相談し、間違いなく消滅時効の期限を知っているはずです。
したがって、15年以上前の残業代を請求したいのであれば、まず弁護士に相談して会社側にコンタクトを取り、その対応を見極める必要があるでしょう。
もうすぐ時効を迎えてしまいそうなときは?
このように残業代請求には、時効が絡むため、早急な対応を求められることが少なくありません。では、もう少しで時効(2年)を迎えてしまう場合には、どう対応すべきなのでしょうか。
時効は、「裁判」や「催告」によって中断するという特徴があります。したがって、もうすぐ本来の支給日から2年を迎えてしまう、という場合には何らかのアクションを起こすべきです。裁判は時効に対するアクションとしては最も効果的で、時効期間がリセットされます。しかし準備に時間がかかるため、先に時効が完成してしまう可能性も高いわけです。
そのため、まずは残業代の支払いを促す「催告」を行ってみてください。催告には、時効の期間を6か月延長する効果があります。ただし、催告を行ってから6か月以内に、裁判など法的な手続きを行う必要があります。
“民法第153条催告
催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。”
催告は口頭、書面どちらでも可能で、特に難しい手続きではありません。しかし、あくまでも「暫定的な処置」ですから、その後の手続きを見越して、弁護士への相談をおすすめします。