未払い残業代の請求権には「時効」があり、所定の期間内に請求しないと払ってもらえなくなってしまいます。
実は未払い残業代の時効期間はこれまで「2年」だったのですが、延長されようとしています。
当面は3年になる予定ですが、将来的には5年に延長される可能性が高くなっています。
以下で、今後の未払い残業代請求で注意したい「時効」の延長について、解説します。
1.従来の残業代の時効
未払い残業代請求権には「時効」が適用されます。この場合の時効とは「一定期間内に請求・回収しないと債権が消滅してしまう消滅時効」です。
権利があるにもかかわらずあまりに長い間行使せずに放置している権利者を保護する必要はありませんし、義務者は「もう請求されないだろう」と考えるので保護する必要があります。そこで債権には一定期間で消滅する時効期間が定められています。
これまで残業代請求権を含む「賃金の請求権」には「2年」の消滅時効期間が適用されてきました。賃金請求権の消滅時効を定める法律は「労働基準法」です(労働基準法115条)。
2.従来の残業代請求権の時効が2年だった理由
従来、残業代請求権の時効が2年とされていたのは「民法」と深い関係があります。
実は改正前の民法では、債権の種類によって時効期間が違っていました。
「原則的な債権の時効は10年」としながらも、医師や薬剤師などの債権は3年、飲食店やホテルなどの債権は1年、不法行為にもとづく債権は3年などばらばらの状態でした。
その中で未払い残業代を含む労働債権については「1年」の短期消滅時効が定められていました。しかし1年はあまりに短い期間です。未払賃金を1年間しか請求できないと、労働者にとっては大きな不利益となり保護に欠ける結果となります。
そこで労働基準法は民法の特則として労働債権の時効を延長し、2年にしていたのです。
3.残業代請求権の時効が延長される理由
ところが今般、約120年ぶりに民法が改正され、ばらばらになっていた債権の時効期間が統一されることになりました。
改正民法施行後は、基本的にすべての債権の時効が「5年」になります。
医師の債権や飲食店、ホテルなどの債権、不法行為にもとづく損害賠償請求権もみんな5年です。民法の原則では労働債権も5年に延長されるはずです。
しかし労働基準法が改正されない限り、賃金債権の時効期間は「2年」のままです。すると労働者を守るための労働基準法が、かえって労働者の権利を制限する矛盾した状態になってしまいます。そこで民法改正に合わせて労働基準法も改正し、残業代請求の時効期間を延長しようとしているのです。
改正民法が施行されるのは2020年4月1日なので、それまでに労働基準法についても改正が行われる可能性が高いといえます。
4.残業代請求権の時効は具体的に何年になるのか
改正民法はすべての債権の時効期間を5年としました。それなら未払い残業代の請求権も5年に延長されるのが筋です。
ただ、いきなり5年に延長されると、企業側に及ぶ影響が非常に大きくなります。これまでは2年分しか請求されなかった残業代をまとめて5年分請求される可能性がありますし、これを機会に多くの人が残業代請求に踏み切る可能性もあるからです。
体力のない中小零細企業に対し急激に多数の残業代請求が行われたら、経営悪化や倒産の危険も発生します。
賃金請求権の時効をどの程度延長するかについては厚生労働省の労使による審議会において議論されてきたのですが、2019年12月27日「当面は3年間とする」という結論に落ち着きました。労働者側は5年への延長、経営者側は2年の据え置きを主張していたところ、折衷案として3年とされたかたちです。
今後、まずは残業代請求権の時効は3年に延長されるでしょう。その期間が1年~数年は続く可能性が高いといえます。ただし3年でも民法の定める5年の原則とズレがある状態ですので、その後様子を見ながら最終的には5年に延長される見込みがあります。
5.残業代を払ってもらっていないなら早めに請求を
延長後の3年の時効が適用されるのは、改正労働基準法施行後に発生した残業代請求権です。それまでに発生した残業代請求権については、従来通り2年の消滅時効が適用されます。2年の期間は短く、毎日の仕事や日常に忙しくしていたらすぐに過ぎてしまうでしょう。
できる限り早めに行動を起こして請求すべきです。
労働者の方がお一人で残業代の計算を行い企業相手に請求を立てて交渉をするのは困難です。弁護士が代理で残業代請求を行えばスムーズに進められますので、心当たりのある方はお早めにご相談下さい。