医師は高給で人気の職業でもありますが、その反面医師不足による長時間労働も問題となっています。さらに、もともとの給料が良いことや年俸制などの一般的な職業とは給与体系が違うことも多いことから、未払い残業代が隠れていることもあります。
今回は、医師の残業代事情や未払い残業代問題についてご説明します。
医師の残業事情|医師不足による長時間労働が多い
まずは医師の残業事情について、データを基にご説明します。結論からお伝えすると、多くの医師の方が、月に何十時間もの残業をしており、長時間労働も問題視されています。
医師の長時間労働問題
厚生労働省によると、週に60時間以上働いている常勤医は全体で40%いる結果になりました。
法定労働時間が週40時間ですので、4割の常勤医が1週間で20時間は残業をしていることとなります。1週間に5日勤務があったとすれば、1日当たり4時間の残業です。さらに、これが1ヶ月間続けば、月に80時間以上残業していることになります。
月に80時間もの残業が続けば、『過労死ライン』と言われ、過労死との関係性が高いと判断される労働時間となり、明らかな長時間労働だと言うことができます。
医師不足や応召義務による長時間労働
高齢化社会にも伴い医師不足が問題視されていますが、医師不足によって一人当たり業務負担も増えることとなります。結果的に医師の長時間労働の要因ともなります。
また、長時間労働の大きな要因として、医師法第19条の応召義務が挙げられます。これによって、診療時間外の診療等にも対応する必要があり、長時間労働に繋がっています。
医師によくある残業代未払い問題
こちらでは、医師によくある未払い残業代問題やその例についてご説明します。
参考:「働き方改革下のサービス残業時間|第一生命経済研究所」
全業種の中でも、医療・福祉の分野はサービス残業が多い方となっており、医師の方もサービス残業をしていたり、知らず知らずのうちに未払い残業代が発生していたり、する場合があります。
特殊な職業故の賃金体系の誤解
医師という少し特殊な職業で、いわゆる一般的な会社員とは違う働き方をするせいで、間違った解釈を持たれて、結果的に未払い残業代が発生しているケースがあります。
年俸制の誤解
もともと給与が良い医師は、年俸制によって契約を結んでいるケースも多いです。
年俸制として結んだ契約に残業代が含まれていなければ、実際に残業した分の残業代は別途支払われるべきです。
医師の方で1年分の残業代が未払いになっていたとすれば、数百万円の残業代が未払いになっていてもおかしくありません。
裁量労働制の間違った導入
裁量労働制(専門業務型裁量労働制)という労働契約がありますが、医師が裁量労働制を間違って導入されているケースもあります。裁量労働制とは、給与を労働時間ではなく成果によって判断し、労働時間は労働者の裁量によって決められる働き方です。
そもそも医師は、裁量労働制の対象になっている業務に指定されていませんし、働く時間を指定されているようでしたら、裁量労働制としての正しい運用もされていません。
残業代が払われない理由に裁量労働制があるのであれば、残業代が未払いになっている可能性が高いと考えられます。
名ばかり管理による未払い問題
看護師の管理業務を行っている。「○○長」などの肩書をもらって管理職となる医師の方もいる反面、管理職になったからと役職手当等をもらい残業代はもらえなくなるケースがあります。
『管理監督者』には「一般労働者と労働時間等に関する規定が適用外(労働基準法第41条)」とありますが、実際には労働基準法が定める『管理監督者』と病院側が決める『管理職』には相違があります。
経営への関与が認められたり、業務時間をご自身の裁量で決められるような立場でもない限り、名ばかり管理として残業代が支払われていないことがあると考えられます。
宿直や当直の仮眠時間も労働時間になり得る
医師の方は宿直や当直など、不定期に働くことも多いかと思います。宿直等で業務を行っている時間は当然労働時間になるとして、仮眠や休憩時間も労働時間と考えられる場合があります。
仮眠や休憩時間でも、緊急対応に応じるように指示されていたり、行動や居場所に制限が設けられているようであれば、労働時間と判断できる余地はあります。
仮眠・休憩時間が労働時間になれば、こちらも高額な未払い残業代になり得ると考えられるでしょう。
医師が未払い残業代を取り返す方法
このように、医師の方にも未払い残業代があるケースが考えられます。もともとの給与が良いことや長時間労働で月に何十時間も残業することも多いと思いますが、その場合には100万円を超える未払い残業代があることも十分に考えられるでしょう。
最後に、医師の方が未払い残業代を請求する方法をお伝えします。
実労働時間や契約内容が分かる証拠を集めておく
証拠の種類 | 証拠の例 |
---|---|
労働契約の内容が分かる物 | ・雇用契約書 ・就業規則 |
実際の残業が分かる物 | ・タイムカード ・出退勤時間が分かる物 |
残業の経緯が分かる物 | ・指示書 ・上司からのメール |
実際の支払われた金額が分かるもの | ・給与明細 ・源泉徴収票 |
残業代請求において重要になるものが証拠の存在です。病院側と直接交渉するにせよ、裁判所の手続きを取るにせよ、証拠が少なければ実際に残業をしていても請求が認められないケースがあります。
実際の労働時間働が分かる証拠だけではなく、上のような様々な情報が分かる証拠を複数用意しておくと良いでしょう。
交渉や内容証明郵便を送る
なるべく短期間で簡単に残業代請求をするなら、勤め先の病院側に直接残業代請求を行います。ただし、法的効力がないので、病院側が応じてくれない可能性も十分に考えられます。
上記の証拠を揃えて根拠を持って請求したり、弁護士に介入して交渉・請求してもらうことで相手も応じてくれる可能性が高くなります。
労働審判を申し立てる
当事者同士で解決が難しい場合、労働審判という方法があります。労働審判とは、裁判所を介した手続きで、審判官や審判員の第三者を交えた話し合いです。
第三者がいることで話もまとまりやすくなりますが、客観的に残業代未払いを理解してもらう必要がありますので、証拠の存在がより重要になります。
裁判を起こす
これらの方法でも解決が難しければ、裁判によって残業代請求の可否を決めてもらうことが可能です。病院側が残業代の支払いを断固拒否していても、裁判での結果(判決)が出れば応じる必要があります。
ただし、裁判ともなれば解決までに1年以上かかることもありますし、手続きも難しく弁護士への依頼は必須になってきます。上記の方法でも解決できない場合の奥の手とお考えください。
まとめ
医師の方は長時間労働をされている方も多いでしょう。もともとの給与が良かったり、日々の業務で手一杯だったりで、なかなか残業代のことまで考える方も少ないでしょうが、高額な未払い残業代が残っている医師の方もいると考えられます。
医師の方で未払い残業代があったとすれば、100万円を超える金額になることも十分に考えられます。少しでも労働時間と残業代が釣り合わないと思う方がいれば、弁護士に相談してみてください。