看護師は患者さんと接することが多いお仕事です。それ故に「ちょっとした残業は当たり前」という風潮もありますが、残業をしている事実があれば、きちんと残業代が支払われるべきです。
今回は、看護師の残業時間や残業代未払い問題についてご説明します。看護師で「残業代が正しく払われていないかも?」と心当たりがある方は参考にしてください。
看護師の残業の実態
看護師の残業代についてお伝えする前に、まずは看護師の残業事情について触れておきましょう。結論を先に言うと、看護師は残業も多く昼夜問わず働くこともあるため、身体への負担もかかるお仕事です。
一番は残業せずに定時できっちり帰ることですが、なかなか定時で帰れない状況にもあります…。
準備や記録作成で残業しやすい
日本医労連のアンケートによると、始業前から早く来て準備をしている看護師の方が多いと分かりました。約半数の方が始業時間の30~分1時間程度前から来て仕事をしているようです。
残業と聞くと、「退社時間後の仕事」とイメージしますが、早めに来て準備に使った時間も十分な労働時間になると考えられます。
前残業以外にも退勤時間以降の残業もする看護師が多いでしょうから、結果的に月数十時間(30時間前後)は残業している看護師の方が多いです。
急な対応で残業することも多い
看護師は患者さんと近い距離で働きますので、患者の動向に労働時間が左右されることも多いです。患者の容態が悪くなったり、トラブルが起きたりなど、急な対応で残業せざるを得ない状況になることもありますね。
「定時なので帰ります」と、放っておくこともできません。結果的に残業時間が増えていくのは、患者さん対応なので仕方のないことですが、残業をしたのであればきちんと残業代は支払ってもらうべきです。
看護師がよくある未払い残業代問題
残業した分がきちんと支払われていれば良いのですが、看護師には以下の理由によって未払い残業代になっているケースが考えられます。
1日、1ヶ月の未払い残業代は微々たるものかもしれませんが、年間通してみると数十万円の未払い残業代になっているケースも十分に考えられます。
ちょっとした残業は見逃しがち
上記で、半数の方が始業時間前の残業をしているとお伝えしましたが、その中の70%以上の方が前残業の分の残業代を請求していない結果になりました。
院内で「請求する雰囲気ではない」と思っている方も多く、「ちょっとくらいなら…」と、見過ごされがちです。
しかし、仮に30分の始業前残業を続けていたとしましょう。30分の未払い残業代を800円だと想定して、月に20日×30分の始業前残業があったとします。
単純計算で月に16,000円が未払い残業代となり、さらにこれが1年も続くと、19万2,000円が未払い残業代となります。決して見逃せない残業代だとお分かりいただけたでしょうか。
研修の時間も立派な労働時間
看護師のお仕事は人の生命にも関わる大事なお仕事ですから、研修による教育も多く行われます。
よくある誤解が、「研修は業務時間と別」との考えられ方で、残業も一切関係ないとされることです。
業務とは別ということで休日に研修が行われることもありますが、研修も立派な労働時間となり、時間外労働に該当するのであれば残業代や休日手当を支払われるべきです。
持ち帰り仕事も残業になり得る
看護師は現場での仕事が優先され、準備や記録作成の時間は後回しにされます。結果的に残業時間が増える要因にもなりますが、中には仕事を持ち帰らないと終わらない方もいます。
「仕事が終わらず持ち帰っているのは自己責任」という考え方がされますが、労働時間内に明らかに終わりそうになり業務量であれば、持ち帰り仕事でも残業として考えられるケースがあります。
看護師長の名ばかり管理職問題
看護師の中でも看護師長などの責任ある役職を与えられる立場の方がいます。一般の看護師よりも基本給は良い傾向にありますが、その反面残業代が支払われなくなることもあります。
これは「名ばかり管理職問題」と言って、会社内で独自の役職に就けて、その結果管理職として残業代を支払わない理由にしているのです。
確かに労働基準法では管理監督者の扱いを「一般労働者と労働時間等に関する規定が適用外(労働基準法第41条)」としていますが、実際には労働基準法が定める『管理監督者』と会社が決める『管理職(看護師長等)』とでは、相違があります。
つまり、病院内では『看護師長』という役職を与えられていても、労働基準法の考えでは一般労働者と扱いは変わらないことがあります。この状態で残業したのに残業代が支払われていないのであれば、未払い残業代があると考えられるのです。
看護師が残業代を取り返す方法
最後に、未払い残業代がある保育士の方に、残業代を取り返す方法をお伝えします。残業代請求には、2年間の時効がありますので、なるべく早くに行動を起こすことをおすすめします。
しっかり証拠を集める
証拠の種類 | 証拠の例 |
---|---|
労働契約の内容が分かる物 | ・雇用契約書 ・就業規則 |
実際の残業が分かる物 | ・タイムカード ・出退勤時間が分かる物 |
残業の経緯が分かる物 | ・指示書 ・上司からのメール |
実際の支払われた金額が分かるもの | ・給与明細 ・源泉徴収票 |
残業代請求をするにあたって重要になるものが、証拠の存在です。タイムカードのように、実際に働いた時間が分かる証拠だけではなく、上記のような様々な情報が分かる証拠があると請求もしやすくなります。
弁護士や労基署に相談される方も多いでしょうが、相談の時点で証拠があると相談先も具体的なアドバイスをくれ、次の行動も取りやすくなります。集められる証拠はぜひ集めておきましょう。
交渉や内容証明郵便を送る
穏便かつスピーディーに解決する方法は、病院との交渉や内容証明郵便での請求です。ただ、法的効力はないので、病院側が応じないことも多いです。弁護士に代理で交渉・請求してもらうことで、相手が応じる可能性も高くなるでしょう。
当事者同士で解決しない場合、以下の方法があります。
労働審判を申し立てる
当事者同士で解決しない場合、労働審判という方法があります。結局のところ話し合いになりますが、裁判所を介した手続きで、第三者が介入するので話し合いもまとまりやすくなります。
以下の訴訟にまで移ると、解決まで1年以上かかるケースも少なくないのですが、労働審判なら3ヶ月以内に終了することがほとんどです。
労働審判でも、審判官や審判官にきちんと未払い残業代の事実を知ってもらうために証拠の存在が重要となります。
裁判を起こす
労働審判でも解決できそうにない場合、訴訟によって残業代請求をする方法があります。お伝えの通り、解決まで期間がかかってしまいますので、上記の方法でどうしても解決でいない場合の奥の手のようなものだとお考えください。
裁判でも当然未払い残業代証拠の存在が重要で、証拠不十分により残業代請求が認められないケースもあります。また、手続きも複雑になってきますので、弁護士への依頼も必須と言える状況になるでしょう。
まとめ
看護師の方は、緊急で患者の対応をすることも多く昼夜働くこともあるため、残業も多くなりがちです。しかし、一般的な会社員とは少し異なる看護業界ならではの風習から、残業代は見逃されがちです。
未払い残業代がある場合には、きちんと請求するようにしましょう。数ヶ月~年間の未払い残業代ともなると、かなりの高額になってきます。まずは、弁護士に相談して、未払い残業代の有無や残業代請求ができる可能性について聞いてみましょう。