残業代の付加金とは、正しく残業代を支払っていなかった会社に対するペナルティのことで、未払い残業代と同額を裁判所が命じることができます。
(付加金の支払)
第百十四条裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。
残業代請求において、この付加金まで獲得することができれば、回収できる金額も単純に倍になりかなり高額な残業代請求ができることとなります。しかし、実際には残業代請求で付加金まで支払われるケースはかなり稀です。
今回は、残業代請求での付加金が支払われる条件や支払われにくい理由、付加金を請求する方法についてご説明します。
残業代請求での付加金とは?
冒頭でもお伝えしたように、残業代の付加金とは、未払い残業代があった会社に対して裁判所がペナルティとして追加で支払うことを命じることができるものです。まずは付加金について詳しくご説明します。
付加金は未払い残業代と同額になる
使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。
冒頭で出した労働基準法第114条では、上記の文言があります。付加金は未払い残業代(賃金)と同じ額を請求することができるのです。
例えば、200万円の未払い残業代があったとすれば、200万円の請求に併せて追加で200万円の付加金を請求することもできるのです。
付加金の請求も裁判所から認められたとすれば、単純に獲得できる金額が倍増しますので、高額な残業代請求を実現させるためには付加金の請求も忘れてはならないですね。
裁判での確定判決でのみ付加金が決まる
ただし、付加金の支払いが命じられるのは、裁判での確定判決のみです。後述しますが、残業代請求の方法にはそもそも裁判所を介さない方法や、労働審判、裁判での和解などの他の方法もあり、それらの方法では付加金を獲得することができません。
このようなこともあり、残業代請求で付加金まで獲得できることは稀なことなのです。以下では、残業代請求で付加金があまり支払われない理由についてご説明します。
実際は残業代請求で付加金が支払われる可能性は低い|その理由は?
繰り返しますが、残業代請求の付加金が支払われるケースは限られています。どのような理由で付加金が支払われないのかをご説明します。
残業代請求の多くが裁判以外で解決している
まず、残業代請求には3つの方法があります。
- 任意交渉(会社に直接請求・交渉)
- 労働審判
- 訴訟
基本的に任意交渉から請求することが多く、訴訟はいわば最後の手段とも言えます。
実際、2015年のデータでは、労働審判での金銭に関わる申立てが1,812件。労働の金銭に関わる訴訟が2,297件でした。参考:「労働審判事件の新受件数」「第一審通常訴訟既済事件数」
任意交渉は当事者同士での解決になり、正式な数は出ていないのですが、多くのケースで当事者同士でも解決していると考えられます。
このように、残業代請求での訴訟は数ある方法のうちの1つに過ぎませんので、そもそも訴訟に至らず解決することも多いのです。
訴訟をしても和解に至ることが多い
裁判になっても、判決によって解決するとは限りません。和解によって解決することも多いのですが、和解では付加金の支払いが命じられることはありません。
参考:「第一審通常訴訟既済事件数」
2015年の労働に関する裁判では、半数以上の1,357件が和解によって解決していることとなります。
仮に残業代請求で訴訟を起こしたとしても、和解によって解決してしまえば、付加金の支払いもされることはありません。
裁判所が付加金の支払いを命じないこともある
そもそもの話ですが、付加金の支払いを決めるのは裁判官ですが、その裁判官が付加金の支払いを命じないこともあり得ます。
労働基準法第114条には、『付加金の支払を命ずることができる。』との記載があります。あくまでも“できる”だけであって、支払い命令が義務付けられているわけではありません。
ですので、付加金の請求をしても付加金は認められなかったり、未払い残業代より少ない額の付加金に決定することもあります。
第二審終了前に未払金を精算されると付加金が支払われない
仮に第一審で付加金の支払い決定が出たとしても、どちらかが控訴を行い、第二審の終局前に未払金を精算された場合、付加金の支払い命令ができないようになります。
付加金はあくまでも未払い賃金に対するペナルティですので、未払い賃金が判決の前に精算されてしまえば、付加金を認めることもできないのです。
もし相手方に労働基準法に詳しい弁護士が付いていた場合、このように控訴して付加金だけでも払わないような方法を取ってくることも考えられます(それ以前に和解によって解決させることも多いでしょうが)。
このように、付加金を支払ってもらえる状況は極めて稀なのです。確かに認められれば非常に有効ですが、あまり過度な期待をせずに本来の残業代請求の一部としてダメでもともと程度の感覚で請求するくらいが良いと思います。
高額な残業代請求を実現させるための方法
残業代請求で付加金まで獲得できる可能性は低いのですが、それでもできる限り高額な残業代請求を成功させたいとお考えのことでしょう。
こちらでは、高額な残業代請求を実現させるためのポイントをご説明します。
きちんと証拠を揃えておく
証拠の種類 | 証拠の例 |
---|---|
労働契約の内容が分かる物 | 雇用契約書 就業規則 |
実際の残業が分かる物 | タイムカード 出退勤時間が分かる物 |
残業の経緯が分かる物 | 指示書 上司からのメール |
実際の支払われた金額が分かるもの | 給与明細 源泉徴収票 |
まず、残業代請求において証拠の存在は重要になります。会社との交渉でも裁判所を介した方法でも、証拠が多ければ相手も応じてくれやすく、高額な残業代請求に現実味が増します。逆を言えば、証拠が不十分なことで本来は発生している残業代を取り返せないことも起こり得ます。
残業代請求の証拠としては、上のような物が挙げられますので、できるだけ多くの証拠を複数揃えておきましょう。
弁護士に依頼する
高額な残業代請求を実現させたのであれば、弁護士への依頼は必須と言えるでしょう。弁護士がいることで会社側も応じてくれやすくなりますし、裁判所への手続きも代理で行ってくれます。
訴訟ともなると、手続きも難しく、期間も長くて労力を要します。付加金の獲得も考えるのであれば訴訟は必要になるので、弁護士への依頼も必須です。
残業代請求では遅延損害金の請求もできる
付加金の獲得は難しいとはお伝えしましたが、未払い残業代に対する遅延損害金も一緒に請求することが可能です。
未払い残業代に対する遅延損害金の利率は、年利6%(退職後は14.6%)です。付加金に比べると確かに微々たるものかもしれませんが、100万円を超える未払い残業代であれば、遅延損害金だけで10万円を超えてくることもあります。
決して見逃せない金額ですので、遅延損害金も忘れずに請求しましょう。なお、遅延損害金を含めた残業代の計算は複雑になってきますので、弁護士にお任せした方が安心でしょう。
訴訟も考えて妥協しない
付加金が認められるには、裁判での判決があった場合だとお伝えしました。残業代請求では、なるべく問題を大きくせずに解決させようと、初期段階である程度の金額で和解させようとしてくる会社もあります。
それでご本人が納得できれば早期解決にも繋がるので良いのですが、「実はもっと請求出来ていた」というケースも少なくありません。
本人だけで請求額や和解額が妥当なのか判断することは難しいと思います。弁護士としっかり相談しながら、後悔しないように貰える残業代はしっかり請求して回収していきましょう。