美容師の方は、高い専門技術も求められ職人とも言える職業ですが、その反面、低い給与や未払い残業代が生じるなどの問題点もあると考えられます。
今回は、美容師の残業代事情や未払い残業代がある時の対処法についてご説明します。
美容師の残業事情|残業時間は少ないが隠れ残業も多い
まずは美容師の残業事情についてご説明します。一般的な美容師についてご説明しますので、該当する方も多いかと思います。
美容師は残業時間が少ない?
『転職doda』が15,000人に行ったアンケートによると、なんと美容関連の職業(美容/理容/マッサージ/エステなど)の残業が少ないと挙げられていました。
結果は月に10.3時間の残業でしたので、1日30分程度しか残業していないことになります。この結果に「本当に?」と思われた美容師の方も多いかと思います。
美容師の隠れた残業時間にも注意
上記の結果で残業時間が少ないとなっていた美容師ですが、実際にはもっと働いている印象がある方も多いでしょう。中には労働時間と思っていなくても、実は労働時間になり得るケースがあります。
具体的な働き方や契約内容にもよりますが、労働時間と判断され、未払い残業代が発生しているケースも考えられるのです。
準備や片付けなどももちろん労働時間
美容室の営業時間はだいたい8~10時間のところが多いかと思います。交代制で途中から出勤したり早めに退勤することもあるでしょうが、営業中に丸々働けばそれだけで1日8時間の法定労働時間を超えてしまいます。
オープン準備をする場合には、オープン時間ギリギリに出勤することはないでしょうから、少なくともオープン時間の30分~1時間は前に出勤します。
閉店後もすぐに帰れるわけではなく、閉め作業やミーティングなどを行いますね。そうなると、営業時間の前後1時間程度は何かしらの業務をしていることが多いです。
営業時間が8時間だとしても、オープン準備や締め作業まで含めると、合計10時間で2時間は残業していることとなります。しかし、美容室の中には営業時間しか労働時間にみなされていない場合があります。
労働基準法の観点から言えば、オープン準備や締め作業まで労働時間に含める必要があります。
カット練習や持ち帰り仕事も労働時間になることがある
また、特に美容師になりたての方は、営業時間外にカット練習をされている方も多いでしょう。場合によっては、このカット時間も労働時間になると判断できます。
ただ、カット練習に関しては、個人の美容師としての技術向上のために自発的に行っている部分も多いです。上司からの指示があったり、カット練習がお店のためにやっていると判断されれば、労働時間になるとも考えられます。
また、持ち帰り仕事についても同様です。上記と同じく、上司からの指示があったり、お店のためにやらなくてはならない作業であれば、労働時間と考えられるケースがあります。この点については、ケースバイケースで判断が難しいことが多いので、具体的に弁護士に相談してみることをおすすめします。
美容師に未払い残業代が多い理由
お伝えの通り、美容師には隠れた労働時間も多く、未払い残業代もあり得ると考えられます。こちらでは、美容師によくありがちな未払い残業代の理由についてご説明します。
個人経営が多く労基法を理解していない経営者も多い
2015年に厚生労働省が284箇所の美容施設に行った調査によると、約9割が個人経営の美容施設という結果になりました。
個人経営ということで、「やりたいことがやりやすい」「しがらみがない」などのメリットもありますが、反対に「残業代が払われない」「コンプライアンスがしっかりしていない」などの問題も起きやすくなります。
営業時間しか労働時間に換算されていない
上でもお伝えしたように、経営者から営業時間しか労働時間と判断されず、準備や片付けなどの時間分の残業代が未払いになっているケースも多いです。
固定残業代制によって残業代が払われていることにされている
出退勤時間が不規則な美容師の方は、固定残業代制が取り入れられており、固定残業代制のせいで未払い残業代が発生していることも考えられます。
固定残業代制とは、『45時間分7万円の残業代を含む』などとあらかじめ給与に残業代が含まれている労働契約の内容です。ただし、固定残業として決められた以上の残業をしたのであれば、追加で残業代が支払われるべきですし、そもそも固定残業代について従業員に周知されていなければ無効になるケースがあります。
店長になることで残業代が払われなくなる
多店舗を運営する規模の会社になれば、店長などの役職を与えられる美容師の方も多いでしょう。店長になったことで残業代未払いの理由にされることがありますが、違法に残業代が支払らわれていないことが多いです。
確かに労働基準法でも、『管理監督者』には「一般労働者と労働時間等に関する規定が適用外(労働基準法第41条)」とありますが、実際には労働基準法が定める『管理監督者』と会社が決める『管理職(店長)』には相違があります。
歩合や業務委託なども未払い残業代の要因になり得る
また、美容師には歩合や業務委託として金銭を受け取っている人も多いです。正しく運用されていれば問題ありませんが、未払い残業代の要因となっていることも考えられます。
例えば、スタイリストになってカットしたお客様の数に応じて歩合が出るとします。その歩合を残業代の代わりにする場合、実際に生じる残業代よりも多くなければなりません。
『面借り』とも呼ばれる業務委託の場合も、本来であれば個人事業主として残業代は無関係の契約内容となります。しかし、勤務時間や業務内容が細かく決められている場合、労働者と同じく残業代が発生することも考えられます。
美容師が未払い残業代を請求する方法
美容師の方は、実は残業時間と言える部分が多くあり、未払い残業代が多いとも考えられます。こちらでは、美容師の方が未払い残業代を取り返す方法についてご説明します。
まずは弁護士に相談してみること
美容師の方はカット練習などの残業時間と判断が難しい業務も多いです。まずは弁護士に相談してみて、どれが残業でどれが残業ではないのかをある程度判断してもらいましょう。
以下の情報を持って相談することで、ある程度の未払い残業代も教えてくれます。無料相談ができる弁護士も多くいますので、ご自身だけで行動する前に相談してみてください。
実労働時間や契約内容などが分かる証拠を集める
証拠の種類 | 証拠の例 |
---|---|
労働契約の内容が分かる物 | 雇用契約書 就業規則 |
実際の残業が分かる物 | タイムカード 出退勤時間が分かる物 |
残業の経緯が分かる物 | 指示書 上司からのメール |
実際の支払われた金額が分かるもの | 給与明細 源泉徴収票 |
残業代請求では証拠の存在が重要です。本人が「正しく残業代が支払われていない!」と思っていても、証拠がないことで会社側の反論の余地を与えてしまいますし、裁判官などの第三者にも事実を分かってもらうことができません。
今後の残業代請求を有利に進めるためにも、上記の証拠をできるだけ多く揃えておきましょう。
交渉や内容証明郵便を送る
残業代請求を簡単に済ませる方法として、まずは会社との交渉や内容証明郵便による残業代請求から行います。ただ、この方法には法的効力がありませんので、会社側が応じないケースも十分に考えられます。
上記の通り、しっかり根拠と証拠を持って請求し、場合によっては弁護士に代理で交渉・請求してもらうことで会社側が応じる可能性も高くなるでしょう。
労働審判を申し立てる
当事者同士では解決できない場合、労働審判によって残業代請求を行うこともできます。労働審判とは、裁判所を介した話し合いです。第三者が話し合いに加わりますので、当事者同士で解決できなくても、労働審判でなら結論が出ることも多いです。
訴訟に比べて解決までの期間が短く(おおよそ3ヶ月以内)、手続きも簡単です。
裁判を起こす
上記の方法でどうしても解決しない場合、訴訟を起こします。判決で決まった内容には、会社側も従う必要がありますので、きちんと決着を付けたいのであれば、訴訟も検討すべきでしょう。
ただし、裁判官は客観的にしか判断しません。証拠が無いと、裁判で望まぬ結果になることもあります。また、手続きも難しくなり、期間も1年以上かかることもあります。ご自身だけで裁判に挑むとなると相当な労力を要しますので、弁護士に依頼することが通常です。
まとめ
美容師の方は隠れた残業代も多いと考えられます。ご自身のスキルアップも兼ねて今の職場で働いている方も多いでしょうが、あまりにも未払い残業代が多く労働時間と賃金が割に合っていないのであれば、泣き寝入りしてはなりません。
まずは弁護士に相談してみて、実際の残業の有無や未払い残業代を聞いてみましょう。