固定残業代制度とは、毎月決められた金額の残業代を固定給として支払う取り決めのことをいいます。法律に則った範囲で運用されている限り制度自体は違法ではないものの、中には固定残業代制度を悪用して、労働者にサービス残業をさせているような企業も存在します。
この記事では、固定残業代制度の概要について説明した上で、労働者が知っておくべき固定残業代制度の落とし穴について解説していきます。
固定残業代制度の概要|定義や条件を解説
最初に、固定残業代制度とは具体的にどういうものなのか、運用するためにはどのような条件が必要なのかをご説明します。
固定残業代制度とは
固定残業代制度とは、毎月一定時間の残業が発生することを想定し、あらかじめ決められた額の残業代を固定給として支払う取り決めのことをいいます。
固定残業代制度が正しく運用された場合であれば、企業としては次のようなメリットがあります。
- 残業時間が正確にわかりにくいようなケースであっても、残業代に対して納得感のある取り決めをできることがある
- 毎月の残業代計算が楽になる
労働者からしても、残業をしなかったとしても固定の残業代を毎月受け取れるというメリットがあります。
しかし、なかには固定残業代を悪用し、適法の範囲を超えた安い賃金で従業員を働かせようとする企業もあります。
本来、固定残業代制度を運用するためには、以下の条件を満たしていなければなりません。
固定残業代制度が適法となるための3つの条件
固定残業代が認められるためには、次の条件を満たしている必要があります。
- 1.労働契約上合意が取れていること
- 2.通常の労働時間分の給与と固定残業分の給与が明確に区分されていること
- 3.固定分を超えた残業代は別途支給すると明示されていること
1:労働契約上合意が取れていること
固定残業代が有効になるためには、対象の労働者と企業との間に、固定残業代制度を採用する旨の内容で、労働契約を結ぶ必要があります。就業規則で固定残業代について規定があった場合は、従業員への周知が必要です。
上記のいずれにも当てはまらない場合は、固定残業代が有効ではなくなります。
2:通常の労働時間分の給与と固定残業分の給与が明確に区分されていること
就業規則や給与明細などで、通常の労働時間の賃金と、固定残業分の賃金がそれぞれいくらなのか、具体的にわかる状態になっている必要があります。
両者が明確に区分けをされていなければ、従業員は割増賃金の計算をすることが出来ず、固定残業代の金額が適法かどうか判断することが出来ません。
3:固定分を超えた残業代は別途支給すると明示されていること
例えば30時間分の固定残業代が支払われる取り決めだったとすると、40時間残業した場合であれば、10時間分の残業代を別途支給する必要があります。これに加え、固定残業時間を超えた残業代に関しては別途支払いをする旨を、企業はあらかじめ明示しなければなりません。
固定残業代制度の落とし穴
ここまでで、固定残業代制度の意味や、条件について確認してきました。固定残業代は、ルールを守って運用されているうちは違法とはいえません。
以下では、固定残業代がどのよう悪用されているのか、どのような落とし穴があるのか、といったポイントをお伝えします。
月収が多く見える
新しい仕事を探すとき、月収が高い求人に応募をしたくなるのは普通なことです。このような気持ちにつけ込み、月給を一見高く見せるような求人が散見されます。
(上記の金額には40時間分の固定残業代5万円を含む)
上記の表現は、基本給と固定分が明示されているため違法とはいえません。
しかし、例えば次のような表記があった場合は、固定残業代を悪用している可能性を検討した方がいいかもしれません。
- 月給25万円(残業代を含む)
- 月給25万円(40時間分の残業代を含む)
特に上記のような表示の場合だと、いくら残業をしても給与が変わらない、といったことにもなりかねないため、求人への応募は慎重に検討した方がいいかもしれません。
時給換算するとバイト以下の賃金であることも
上記のように、一見月収が多く見えるような場合でも、時給換算するとあまりいい給与ではないと気づくことがあります。以下の2つのケースをもとに、実際の時給を計算してみましょう。
- Aさん:残業代を除く基本給が25万円
- Bさん:残業代を含む基本給が25万円
労働時間を次の通りとすると…
- 時間内の労働時間:160時間
- 時間外の労働時間:40時間
- Aさんの時給:1,562.5円/時=25万円÷160時間
- Bさんの時給:1,250円/時=25万円÷(160時間+40時間)
固定残業代が月の基本給に含まれている場合、このように時給に換算してみると、実はそれほど魅力的な給与ではなかった、ということが起こりえます。
サービス残業の温床となる
固定残業代は本来であれば、「40時間に対して5万円」といったように何時間分の金額であるのかを明らかにしなければなりません。固定残業代が何時間分の残業代なのかが明確でないと、40時間働いても50時間働いても、同じ給与しか受け取れないことになります。
本来であれば、固定残業時間を超えて残業をした場合は、追加で割増賃金を受け取る権利がります。
未払いの残業代が発生していた場合に有効な証拠
もし本来もらえるはずの残業代より低い場合、残業代請求が可能です。しかし、残業の事実を立証するのは労働者側にありますので、まずは証拠を集める必要が出てきます。下記では、代表的な証拠をご紹介します。
- 就業規則
- 給料・雇用に関する書類
- タイムカード
- タイムカード以外に実際に働いた時間が分かるもの
- 給与明細
- 年末調整の書類
- クライアントとのメールのやりとりなど
毎月完全に固定で変わらないというのなら一ヶ月分でも構わないでしょうが、若干の変動がある場合は対象月分の明細を用意しておきましょう。
固定残業代でおかしいと思ったら、弁護士に相談をしましょう
- 残業何時間分に対する残業代なのかが不明確である
- 固定の残業時間を超える労働に対して、残業代が支払われていない
上記に当てはまる場合、本来受け取れたはずの残業代が未払いになっていることも考えられます。残業代を請求するためには、勤務時間や残業時間がわかる資料を作成したり、残業代を計算したりと手間がかかる上、企業と直接交渉をしなければなりません。
弁護士に依頼をすると、これらの手続きや交渉を代理で行ってもらえるため、時間的にも精神的にも負担を少なく出来ます。残業代を請求できるのは過去2年分なので、長期にわたり残業代未払いの可能性がある方は、お早めにご相談ください。
まとめ
この記事では、固定残業代制度の意味と、制度がどのような形で悪用されているのか、といったポイントについて解説してきました。
固定分の残業時間以上に残業をしているにもかかわらず、別途割増賃金が支払われていない場合は残業代未払いとなります。思い当たる節がある方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。