年功序列の崩壊や大企業によるベテラン社員の早期退職などに関する話題をニュースで見ることは少なくありません。もはや1つの企業に長く勤めれば賃金が上がっていき、将来が保証されるというのは既に過去の話となりつつあります。
年功序列や終身雇用が崩壊する中で、労働法改正により長時間労働が是正されたり、労働問題に関する訴訟件数が増えたりと、残業に関する制度や見方も変わりつつあるといえます。
今回は、年功序列が崩壊する中で、長時間労働や残業代請求に関して、どのような変化が生じつつあるのかご説明します。
年功序列制度の崩壊と今後の流れ
ここでは、年功序列制度の概要と崩壊の原因、今後予想される流れなどについてご説明します。
年功序列のおさらい|どのようなメリットがあったのか
年功序列とは、年齢や勤続年数に応じて賃金と役職が上がっていく仕組みをいいます。年功序列・終身雇用・企業別労働組合の3つをあわせて日本型経営といい、1970~80年代の高度経済成長下では、日本の競争力の源泉になっているということで、諸外国からも注目を集めていました。
具体的なメリットは例えば…
- 1.長く働いていれば昇進・昇格が期待できるので、従業員のモチベーションや帰属意識を引き出しやすかった
- 2.OJT・ジョブローテーションによって、企業内に技能や技術の蓄積ができた
- 3.若い人材を安い賃金で雇い続けることができた
毎年従業員の給与を上げ続けるためには、会社の継続的な成長が前提となっていました。経済成長が停滞した状況下では、年功序列が成立する前提条件は崩れてしまったと言わざるを得ません。
年功序列を維持するのが難しくなった理由
- 1.会社や国の経済が右肩上がりに成長する時代は終わってしまった
- 2.ピラミッド型の人口分布ではなくなってしまった
- 3.長い時間働くほど生産性が上がるだろうという仮説が誤りだった
経済成長や会社の事業が先細りになっていく以上、「若いうちは給料が安い代わりに、歳を取ったら給料を上げてあげますよ」という年功序列のインセンティブは働きにくくなります。
また、以前は長い時間働くほど業務に詳しくなり生産性が上がるという仮説のもと、企業は長期にわたって従業員を雇用してきたわけですが、変化の激しい時代になってしまったため、これまで身につけてきた知識や経験が陳腐化してしまい、高くなった人件費が経営を圧迫するというようなことも起きています。
2017年以降、大企業が中高年労働者の早期退職を募るケースが増えており、人件費の高いシニア社員を削る動きが目立ち始めています。
若者はより良い条件の職場を求めて転職を選択するとの予想も
内閣府 経済社会総合研究所の論文『経済環境の変化と日本的雇用慣行』では、年功序列や終身雇用の維持が難しくなる以上、同じ職場で働き続けても昇給が期待できないと感じた若年労働者は、より良い条件を求めて現在の職場を離れるだろうと予想しています。
将来の保証がなくなった今、企業での理不尽に耐え続けるメリットはない
年功序列制度が崩壊した今、残業代不払いなどの違法行為を甘んじて受け入れる理由は無くなったと言えます。
終身雇用が前提の時代では、将来の保証や昇進があるから、プライベートを犠牲にしても見返りが期待できました。
しかし今では、将来の保証はなくなり、「見返りの少ない長時間労働」「企業外の労働組合があまり力を持っていない」といった日本型経営の負の側面だけが残っていると言わざるを得ません。
現在働いている企業に違法な労働を強いられていた場合は、あくまで自力で立ち向かわなければなりません。
長時間労働への規制は厳しくなっている|労働基準法改正の流れ
以前から長時間労働が過労死の原因となっており問題視されてきましたが、1980年頃から長時間労働を是正するため、たびたび労働法改正がなされています。
労働時間に関する主な法改正
長時間労働の是正を図るためになされた労働法改正には次のようなものがあります。
年 | 内容 |
---|---|
1988年 | 法定労働時間(*1)が週48時間から、段階的に週40時間に引き下げる改正法が施行 |
2010年 | 1ヶ月60時間を超える時間外労働に対して割増賃金を50%以上に引き上げられた |
2019年 | 時間外労働時間(*2)の上限が月45時間、年360時間になった |
*1 法定労働時間 労働基準法で定められた労働時間の上限のこと。現在は1日8時間、週40時間まで。
*2 時間外労働時間 法定労働時間を超える労働のこと。以前は厚生労働省が残業時間の上限を基準として提示していたに過ぎないが、今回の法改正によって労働基準法で正式に時間外労働時間の上限が定められることになった。
これらの法改正を急に行うと企業に負担がかかるので、一部の業種や中小企業への適用には、猶予期間が設けられることもあります。
こうした取り組みの結果、企業の総労働時間は年々右肩下がりになりつつあります。
引用:労働者1人平均年間総実労働時間の推移|労働政策研究・研修機構
未払い賃金請求の時効が2年から段階的に5年までに延長される
今まで未払い賃金の消滅時効は2年でしたが、2020年4月施行の法改正で、新しい消滅時効は原則5年、当面の間は3年までに延長されることになりました。
これによって、2030年4月以降に発生した未払い賃金に対しては、3年分まで遡って賃金を請求できるようになりました。
労働関係の訴訟はここ30年で約7倍に
年功序列崩壊との因果関係は不明ですが、1990年以降労働関係の民事訴訟が増えており、弁護士業界では「残業代バブルがくる」といわれていることもあります。
また、平成18年から始まった労働審判制度も、残業代を請求する側にとっては追い風となるような制度といえるでしょう。労働審判制度とは、労働者と企業間で起きたトラブルを話し合いで解決する仕組みのことです。話し合いは裁判所で行われ、労働審判員と労働審判官が同席をします。法に則ったフェアな状況で話し合いを進められるほか、訴訟をするよりも解決に時間がかからないといったメリットがあります。
まとめ
年功序列や終身雇用を維持できなくなった今、将来の昇進・昇給と雇用の保証はもはやなくなり、労働者が長時間労働やサービス残業を甘んじて受け入れる理由もなくなってきました。実際に労働に関する訴訟も増えていますし、より短い期間で未払い賃金の請求ができる労働審判制度も最近ではよく使われています。
とは言え、日本はアメリカのように社外の労働組合が力を持っていたり、訴訟が当たり前であったりするわけでもありません。残業代未払いのような違法行為が見られる場合は、あくまで自力で証拠を集め、しかるべき先に相談をするなど、自ら行動を起こすことが大切といえるでしょう。