残業時間が長くなり、プライベートが犠牲になってしまうことは誰にでもあることでしょう。しかし、健康を害すような長時間労働やサービス残業など、違法・あるいはグレーゾーンな労働環境は、甘んじて受け入れるべきではありません。
この記事では、長時間労働が健康に与えるリスクと残業代に関する法律について触れたうえで、違法な残業が疑われるようなケースについてお伝えしていきます。
長時間労働による健康被害のリスクとは
残業があまりにも長引くと、プライベートだけではなく健康を害してしまう恐れがあります。
睡眠不足や慢性的な疲労の温床になる
引用:週労働時間と昼間の過度の眠気、疲労回復不全、短時間睡眠|独立行政法人労働安全衛生総合研究所
労働安全衛生総合研究所が5,000人を対象に行った調査を参照すると、週労働時間が伸びるほど昼間の眠気や疲労回復不全、短時間睡眠を自覚する人の割合が増えている様子が伺えます。
睡眠不足や慢性的な疲労状態が続くと、プライベートが犠牲になるのはもちろんのこと、健康被害や作業能率が下がる原因にもなります。
長時間労働は様々な健康被害を引き起こす
業務からくるプレッシャー、睡眠不足、疲労の蓄積は、過労死(脳・心臓疾患)のほかにも精神障害や過労自殺、事故や怪我の原因になる場合があります。
脳・心臓疾患の労災認定基準の発症と時間外労働時間との関連として、次の目安が定められています。
引用:長期間にわたる時間外労働時間と脳・心臓疾患の発症との関連を評価する目安|労働安全衛生総合研究所
日本学術会議の報告によると、時間外労働が週55~60時間以上になると、脳・心臓疾患のリスクが通常の2~3倍になるそうです。長時間労働をすることによって直ちに過労死をするとは限らないですが、残業や疲労状態が慢性化しているような場合は注意が必要です。
精神障害による労災件数は毎年増加傾向に
精神障害での労災請求件数は年々右肩上がりで増えており、2005年には656件だった請求件数が、2015年には約3倍の1,515件にまで伸びています。メンタルヘルス悪化の原因には長時間労働もありますが、他にもハラスメントがきっかけとなるケースもあります。
従業員に残業をさせるには、36協定を締結する必要がある
労働基準法では、休憩時間をのぞいて1日8時間、週40時間以上労働をさせてはならないと定めており、これを法定労働時間といいます(労働基準法32条、労働基準法32条の2)。
ほとんどの会社で残業はあるかと思いますが、法定労働時間を超えて従業員に労働をさせるためには、36協定を締結していなければなりません。
36協定を締結する際は、会社と従業員代表が協議をしたうえで合意を得たのち、労働基準監督署の許可を得る必要があります。また、36協定締結後は就業規則や雇用契約書にその内容を明示しなければなりません。
36協定を締結した後は、残業時間の上限は原則月45時間・年360時間となります。ちなみに、労働基準法改正前は残業時間の上限に関する法規制はなく、厚生労働省が基準として定めているのみでした。そのため、何時間でも残業をさせることが可能でした。
また、残業時間の上限を超えて従業員に労働をさせるためには、特別条項つきの36協定を締結する必要があります。特別条項が発動すると、特別な事業がある場合のみ、上限を超えて残業をさせることができます。
特別条項の上限は…
- 年720時間
- 複数月平均80時間
- 月100時間未満
- 年6ヶ月まで
残業に対しては、割増賃金が支払われなければならない
従業員に残業をさせるためには、上記のような取り決めが必要となります。そのうえで、残業の種類によって企業は従業員に割増賃金を支払わなければなりません。
説明 | 割増率 | |
---|---|---|
時間外労働 | 1日8時間、週40時間を超える労働のこと。 | 0.25 |
時間外労働(60時間超/月) | 時間外労働が月60時間を超える場合は割増率増。中小企業は2023年4月まで猶予有り。 | 0.5 |
深夜労働 | 22時05時の間の労働。 | 0.25 |
時間外労働かつ深夜労働 | 時間外労働を22時05時の間にすると、合算した割増率が適用される。 | 0.5 |
法定休日労働 | 週1日または4週4回の法定休日における労働。 | 0.35 |
休日深夜残業 | 会社規定の休日22時05時の間の労働。 | 0.25 |
法定休日労働かつ休日深夜残業 | 法定休日に行う深夜労働。 | 0.6 |
普段当たり前のようにしている残業ですが、36協定を事前に締結したうえで、残業の種類に応じた割増賃金が設定されています。しかし、法令遵守の意識が低い企業では、上記のような決まりを無視して従業員を不当に残業させることがあります。
違法な残業が疑われる3つのケース
上記で見てきたように、基本的に残業をすれば、残業の種類に応じた割増賃金が支払われなければならず、残業代の未払いは違法となります。
ここでは、残業代の未払いが起きやすい状況を3つ挙げていきます。
- サービス残業・持ち帰り残業
- 名ばかり管理職
- 固定残業代の悪用
- 労働条件や労務管理について、自らの裁量を行使できる責任と権限がある
- 労働時間や休憩・休日などを自由に決める裁量がある
- 一般労働者と比べて相応の待遇である
- 基本給部分と残業代部分が区別されていない
- 残業何時間に対する残業代なのかが明示されていない
- みなし残業時間を超えた労働に対して別途残業代が支払われていない
サービス残業・持ち帰り残業
違法な残業として典型的なのがサービス残業・持ち帰り残業です。残業時間の上限まで働いても仕事が終わらないという事情はあるにせよ、労働に対する対価を支払わないのは違法に変わりありません。
サービス残業や持ち帰り労働をする際は、タイムカードなどに労働時間を記録できないようなことがあるかもしれません。そんな時は、労働時間を自分で記録するなどして、証拠を残しておくことが大切です。
名ばかり管理職
「管理職だから残業代はない」という論理で残業代が支払われないことがありますが、全ての管理職に対して残業代が支払われないわけではなりません。
残業代が支払われないのは、労働基準法上『管理監督者』に当てはまる場合です。管理監督者とは、経営者と一体の立場にある人のことです。
具体的には…
参照:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
「時給換算するとバイト以下の賃金である」「上司の指示を部下に伝えるだけ」「出勤時間を自由に決定できない」これらに当てはまる場合は、典型的な名ばかり管理職となります。
固定残業代の悪用
固定残業代とは、一定時間の残業が発生することを想定し、あらかじめ金額が決められた残業代のことです。固定残業代は、本来「20時間の残業に対して5万円の残業代が支払われる」といったように、残業時間と残業代を明示する必要があります。
次のような運用がなされている場合は、固定残業代が悪用されている可能性があります。
まとめ
長時間の残業によって、プライベートの時間のみならず健康が害されることもあります。企業が従業員に残業をさせるためには、36協定を結んだうえで割増賃金を支払わなければなりません。不当な残業を強いられているような方は、まずは労働時間の証拠を残すことから始めてみてはいかがでしょうか。