2020.07.21 2022.12.20

高度プロフェッショナル制度の適用要件

高度プロフェッショナル制度の適用要件

高度プロフェッショナル制度とは、専門知識や高度な職務能力を有する労働者に対して、一定の条件のもと労働時間や休日、割増賃金など、労働基準法によって定められた規定を適用しないための制度です。

労働基準法による規定が一部適用されなくなるだけあって、高度プロフェッショナル制度を運用するためには、厳しい要件を満たす必要があります。

この記事では、高度プロフェッショナル制度の対象業務や対象労働者の要件、導入にあたって決めるべき点について解説します。

高度プロフェッショナル制度の対象業務

ここでは、高度プロフェッショナル制度の対象業務の要件と、対象になる具体的な業務についてご説明します。

対象業務の要件

・1.労働時間に関して具体的な指示を受けない

業務を行う時間について具体的な指示されることなく裁量を持っていることが1つ目の要件となります。

具体的な指示とは、次のような指示のことをいいます。

  • 1. 出勤時間や就業時間、休日労働時間について業務命令や指示をすること
  • 2. 働く時間帯や裁量が失われるような成果や業務量、納期などを科すこと
  • 3. 指定した日時に会議などへの参加を義務付けること
  • 4. 作業工程や手順を具体的に指示すること

上記のような指示を受ける業務は、制度の対象にはなりません。

・2.部署が行う業務ではなく、個人が行う業務が対象になる

対象業務とは、部署が行う業務ではなく個人が行う業務のことを指します。

例えば、企画部や研究開発部が行う業務全体ではなく、具体的な対象労働者が行う研究開発のような業務が対象となります。

・3.安全配慮義務を免れるわけではない

なお、安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に働けるように配慮する義務のことをいいます。

具体的な対象業務とその例

・1.金融工学等の知識を用いて金融商品の開発をする業務

金融工学や統計学、経済学や数学などを用いて、金融取引にて最大限の利益を得るための金融商品開発を行う業務のことをいいます。

対象業務になり得る業務の例 対象業務になり得ない業務の例
  • 資産運用会社でアメリカの株式を主軸とした金融商品の開発を行う業務
  • ●金融商品を販売する業務
  • ●アクチュアリーが行うような業務
  • ●既存の商品を組み合わせて商品開発をする業務
  • ●データの入力のみを行う業務
・2.金融知識等を活用し、資産運用や有価証券の売買等の投資判断を行う業務

金融に関する専門知識を使い、資産運用や有価証券の売買を行う業務とは、例えば資産運用会社でファンドマネージャー、トレーダー、ディーラーなどの業務を行う人のことをいいます。

対象業務になり得る業務の例 対象業務になり得ない業務の例
  • 資産運用会社や証券会社のファンドマネージャー、トレーダー、ディーラー
  • ●自ら投資判断をすることなく有価証券の売買を行う業務
  • ●証券会社の窓口業務
  • ●預金や保険、投資信託の営業
  • ●金融業以外の事業会社で、自社の資産運用を行う業務

・3.有価証券などの専門知識と分析技術を有し、自らの分析結果に基づいて投資の助言をする業務

特定の業界の企業価値を分析・予測し、投資判断をするためのレポートを作成するような業務のことを指します。

対象業務になり得る業務の例 対象業務になり得ない業務の例
  • 証券会社でアナリスト業務を行い、推奨銘柄のレポートを顧客に向けて作成する業務
  • ●データの入力や整理をする業務
  • ●自身の業務のために分析を行う業務

・4.企業の事業運営を調査・分析し、経営戦略に直結する改革案の提案や支援をする業務

企業の経営状況を分析し、人事制度や競争戦略など、経営戦略に直結するようなコンサルティングを行う業務がこれに該当します。

対象業務になり得る業務の例 対象業務になり得ない業務の例
  • コンサルティング会社において、クライアント企業の調査を行い、競争戦略等を構築する業務
  • ●調査や分析だけをする業務
  • ●上席の指示を受けて、チームの一員として行う業務
  • ●営業や販売を行う業務
・5.新たな技術・商品・サービスの研究開発をする業務

専門知識や科学的知識を用いて、新しい技術や商品、サービスを生み出す業務を指します。

対象業務になり得る業務の例 対象業務になり得ない業務の例
  • ●特許が得られるような技術の開発をする業務
  • ●既存の複数の技術を組み合わせ、新しい価値を生み出す業務
  • ●新技術の開発を行う業務
  • ●スケジュールや作業の進め方が決められている業務
  • ●既存の技術の範囲内に収まる業務
  • ●上席の指示に従い研究開発を行う業務
  • ●自ら研究開発をしない業務

高度プロフェッショナル制度の対象労働者の要件

高度プロフェッショナル制度の対象労働者とは、上記でご説明した業務に従事していることに加えて、以下の要件を両方満たしている人のことをいいます。

1.職務が明確に定められている

使用者との合意に基づいて、職務が明確に定められている必要があります。

使用者は、①業務の内容、②責任の程度、③求められる成果の3点を書面に記入した上で、業務の範囲について労働者の合意と署名を得る必要があります。

2.年収要件を満たしている

高度プロフェッショナル制度の対象になるのは、年収が1,075万円以上の労働者です。なお、この金額には賞与や成果給など支払いや具体的な金額が確定していない賃金は含まれません。

高度プロフェッショナル制度を導入するにあたって決議するべき項目

高度プロフェッショナル制度を導入するためには、労使委員会を設置し、議員の5分の4以上の多数により、必要な事項を決議しなければなりません。

労使委員会で決議するべき事項は、上記でお伝えした『対象業務』と『対象労働者の範囲』に加えて、以下の点になります。

健康管理時間の把握

健康管理時間とは、事業場内での労働時間と、事業場街の労働時間を合計した時間のことです。企業は、タイムカードやI Cカードによる入退室記録など、客観的な方法で健康管理時間を把握する必要があります。

休日の確保

企業は、制度の対象になる労働者に対し、年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日を約束する必要があります。

選択的措置

以下のいずれかに該当する措置を決議で定め、実行する必要があります。

  • 1 11時間以上の勤務間インターバルの確保+深夜業の回数制限(1ヶ月あたり4回以内)
  • 2 健康管理時間の上限措置。1週間あたり40時間を上回る労働時間について、1ヶ月あたり100時間以内または3ヶ月あたり240時間以内
  • 3 年に1回以上連続2週間の休日
  • 4 臨時の健康診断

健康・福祉確保措置

以下の措置について決議で定め、実行する必要があります。

  • 1 上記の選択的措置に該当するいずれかの措置
  • 2 医師による面接指導
  • 3 代償休日または特殊な休暇の付与
  • 4 健康問題に関する相談窓口の設置
  • 5 適切な部署への配置転換
  • 6 産業医による助言や保健指導

同意の撤回に関する手続き

対象労働者が同意の撤回をする方法を明確にする必要があります。具体的には、撤回の申し出をする部署や担当者、撤回の手段を明示しなければなりません。

苦情処理措置

対象労働者が苦情を申し出る方法について決定する必要があります。具体的には、苦情を申し出る先の部署や担当者、苦情の範囲、苦情処理の方法・手順などを明確にしなければなりません。

不利益取扱いの禁止

同意をしなかった労働者に対して不利益な取扱いをしてはいけないことを決議する必要があります。

まとめ

この記事では、高度プロフェッショナル制度の適用要件についてお伝えしてきました。制度についての理解を深める一助となれれば幸いです。

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