過労死問題は、日本の労働環境が抱える大きな社会問題の1つです。働き方革命が推進されているとはいえ、全ての会社の労働環境が改善されているわけではありません。
改善されない長すぎる残業時間は、過労死や健康障害の原因となります。
今回は、
- ・過労死ラインとは?
- ・過労死ラインを超えた残業は違法?
- ・過労死の前兆を知りたい
- ・長い残業時間で健康を害したら労災認定される?
について詳しくご紹介します。
長すぎる残業時間に苦しんでいる人は正しい知識を身に付け、今できることは何かを知っておきましょう。
過労死ラインとは
過労死ラインは労働者の健康障害と長時間労働との因果関係を見極めるために設置された目安です。現状では、過労死ラインは80時間となっています。
厚生労働省の基準では、過労死ラインは2~6ヶ月間にわたる月平均の時間外労働が80時間以上と定義され、1ヶ月の時間外労働が100時間を超える場合も過労死ラインとされています。
つまり、1日8時間勤務で月に20日出勤の場合、1日4時間の残業をすれば時間外労働が80時間になるので、この状態が2ヶ月続けば過労死ラインです。
同じ条件で1日5時間の残業をすると時間外労働は100時間となり、1ヶ月で過労死ラインとなります。ただし、過労死ラインはあくまでも目安なので、超えているから、あるいは超えていないからという判断基準になるわけではありません。
参考:過労死等防止啓発パンフレット(PDF:5237KB) – 厚生労働省
過労死ラインを超えて働かせたら違法?
弱い立場にいる労働者を守るために労働基準法があるのに、過労死ラインを超えて働かせても罰則はないのだろうか、と疑問に思う人もいるでしょう。
労働基準法では法定労働時間が決められていて、超えた部分については割増賃金を支払うこがを定められています。
法定労働時間は1日8時間・週40時間で、超えた部分について60時間までは25%、60時間を超えると50%の割増賃金を支払わなければなりません。
もし、割増賃金を支払っていなければ違法となります。
また、労働者に残業させるためには「三六協定」が必要です。労働基準法36条に定められていて、労働組合との協定無しに残業をさせてはいけないことになっています。
時間外及び休日の労働
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
引用元:労働基準法第36条
原則として、三六協定での時間外労働の上限は1ヶ月45時間までです。そのため、45時間を超えて時間外労働を強いたなら違法行為となります。
過労死ラインが80時間と考えれば、いかに違法性が高い長時間の時間外労働なのかが分かるのではないでしょうか。
過労死に関係がある症状と前兆
過労の状態が続くと、体には様々な影響が現れてきます。長すぎる残業が続いている場合は、過労死の前兆が出ていないか体のサインを確認してみましょう。
命に関わる病気になってしまう前に、本人や周りの人が前兆に気づくことが大切です。
脳梗塞やくも膜下出血の前兆
手足や顔の片側のマヒ、めまいや立ち眩み、目の焦点が合わない、ろれつが回らないなどが前兆です。脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の血管からの出血くも膜下出血は、過労死で多い疾患となります。
もし前兆が気になったら、FAST法でチェックしてみましょう。
FAST法は、FASE(顔)ARM(腕)SPEECH(話し方)TIME(時)の4つをチェックする方法です。
まず、FACE(顔)は口の形をイーとした時に顔の片側が引きつらないかを確認します。
次に、ARM(腕)のチェックとして、腕を前ならえの形で正面に挙げて、目を閉じ10秒間キープして下がらないかを見ます。
そして、SPEECH(話し方)では、短い単語をはっきり言えるかをチェックして、これらが当てはまったらTIME(時)つまり、すぐに病院に行きましょう。
心筋梗塞や虚血性心疾患の前兆
みぞおちや胸に圧迫感があり痛い、背中から左肩の部分が痛い、吐き気や冷や汗、下あごや奥歯が痛い、息切れや呼吸困難、左手の小指が痛いなどが前兆です。
過労状態が続くと、心臓を動かす筋肉に異常が現れて心疾患が起こりやすくなります。
うつの前兆
よく眠れない・なかなか起きられないなどの睡眠障害、何をしていても楽しくない、イライラが抑えられない、焦りを感じる、集中できない、死にたいと思うなどが前兆です。
過労によってうつ状態になり、自殺をするケースも多いので本人も周りの人も注意しましょう。
過労による事故リスク
集中力や記憶力が落ちている、意識が飛ぶ時がある、常に眠い、吐き気やめまい、イライラして焦っているなどの前兆も注意が必要です。
長すぎる残業で眠れずに過労状態となれば、勤務中や通勤中などに事故を起こす可能性も高くなるでしょう。
バスルームで溺死したケースでも労災認定された事例があります。
ご紹介した前兆が見られた場合には、できるだけ早く体を休めましょう。
また、健康障害がなく前兆がない場合でも、無理を続ければ体に影響が出る可能性は高いです。
過労死ラインに至らないよう、自分で身を守ることも大切と言えるでしょう。例えば、ワークライフバランスの見直しなども過労死対策の1つの手法です。
長時間労働をせずに済む働き方ができないか、仕事のスピードを上げ、効率的に成果を上げられないかなど、諦めずに模索してみてください。
ただし、ブラックな働かせ方をしている会社もあるので、自分の努力だけでは解決できないケースが多いことも知っておきましょう。
過労死ラインと労災認定
長い時間働き続け、健康を害した場合には労災認定される場合があります。
労災に認定されるかどうかの判断基準を確認しておきましょう。
脳疾患や心疾患と労災認定
発症前の2ヶ月~半年の間の時間外労働が平均80時間を超える、または発症1ヶ月前に100時間を超える時間外労働をしている場合は、労災認定される可能性が高いです。
発症前の1ヶ月~半年の間の時間外労働の時間が45時間以内の場合は、労働時間と疾患の関連性は薄いと判断される可能性が高いでしょう。
精神疾患と労災認定
うつなど精神疾患については、時間外労働が発症1ヶ月前に160時間、3週間前に120時間あると労災認定される可能性が高いです。
ただし、時間外労働が100時間程度のケースでも、パワハラやなど精神的な負担がある場合は労働との関連性があると判断される場合もあります。
もし、健康に支障をきたし、労災認定されるかどうかが気になった場合には、弁護士などの専門家が行っている労働問題の無料相談窓口などを利用してみましょう。
長すぎる残業を強いるような会社は、コスト削減を目的に残業代カットの仕組みを巧妙に作っているケースがあります。本来は正当な残業代を支払うべきなのに、グレーゾーンの仕組みで残業代を抑えて長時間労働を強いているケースは多いです。
もし、当たり前のように長時間労働が続き、正当な残業代を受け取れていないなら、労働基準監督署に報告しましょう。
もちろん、労働基準監督署に正式に報告するためには、必要な証拠を用意しなければなりません。支払われるべき残業代を全額請求するためには手順があります。
どんな証拠を集めればよいかは、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
まとめ
残業代を支払わない、過労死ラインで従業員を働かせる会社の多くは、様々な理由で違法な働かせ方をしている可能性が高いです。
「みんな文句を言わずに残業しているのに」とか、「この業界では当然だ」などと言われても、労働基準法に違反した行為に従ったまま泣き寝入りをする必要はありません。
未払い分の残業代があるなら特に、正当な残業代を請求するためにも、失敗しない残業代請求をサポートしてくれる弁護士を頼ってください。