2020.08.07 2022.12.20

残業時間の上限規制

残業時間の上限規制

働き方改革の一つの方針で、2020年4月から中小企業でも残業時間の上限規制が適用されました。
参考:時間外労働の上限規制 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省

法改正によって、残業時間の規制基準が変わったことで、労働者にとっては働きやすい環境が整備され始めたと言えるでしょう。

一方で従業員を雇っている経営者や事業者の方は、法改正後の上限規制に違反すると罰則を受けることになるため注意が必要です。

そこで今回は、残業時間の上限規制についてご紹介します。
労働者の方も事業者の方も、改正後の残業時間について知っておきましょう。

 

残業時間の上限規制とは

残業時間の上限規制が、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から導入されました。法改正によって残業時間の見直しが図られた理由には、働き方改革があります。

長時間労働は健康の確保を困難にすることに加え、仕事と家庭のバランスを乱す原因にもつながります。少子化問題や男性の育児参加を阻む要因も時間外労働にあると、厚生労働省も発表しています。

残業時間を減少させ、適切な労働時間で働かせるようにすることで、女性も男性も労働しやすい環境を形成しようという方針です。
 

背景にあるのは、働き方改革関連法

労働基準法の改正により、残業時間の上限が法律に規定されましたが、その背景にあるのは働き方改革関連法です。

働き方改革関連法は、正式には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」という名称です。

それぞれの労働者に適合した働き方を実現するため、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用状態にかかわらない公正な待遇の確保などを目的に措置を講じています。
今回の残業時間の上限規制は、この「長時間労働の是正」にかかるものであり、働き過ぎを防止して、ワークライフバランスを実現させようとする規制です。

残業時間の上限を法律で規制するのは、1947年に制定された労働基準法において、初めての大きな改革でした。

約70年前と今とではライフスタイルも様変わりしているため、制度改革を余儀なくされたと言えるでしょう。

昔は会社で一生懸命に働いていれば年功序列により、昇給・昇進が望めました。

しかし現代では年功序列も終身雇用制度も崩壊体制にあり、若年層を筆頭に残業してまで出世や管理職を目指す人も少なくなったと言えます。

 

労働基準法の労働時間

サラリーマンの労働時間は、労働基準法により上限が決まっています。所定の手続きを取らなければ、事業者は労働者に労働基準法を超えた労働をさせられないルールです。
 

労働時間と休日の原則

労働基準法では、1日の労働時間の限度を原則8時間および1週間で40時間としています。
 

労働時間

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
引用元:労働基準法第32条

この定められた労働時間を「法定労働時間」と呼び、事業者は必ず守らなければなりません
休日は原則として、毎週1回は与えることが義務付けられており、これを「法定休日」と言います。

もしも会社や事業者が、法定労働時間を超えて、労働者に残業させたいと思った場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)の締結と、所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
 

時間外及び休日の労働

第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
引用元:労働基準法第36条
 

時間外では36協定の締結・届け出が必要

事業者は労働時間の上限を超えて働かせるときには、36協定の締結・届け出をしなければなりません。

36協定とは、正式名称を「時間外・休日労働に関する協定届」と言います。労働基準法第36条を理由に、事業者は労働者に一日8時間および1週40時間以上働かせる時には、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る決まりとなっています。

具体的な内容としては、事業の種類や名称、時間外労働をさせる必要のある具体的自由、労働者数、1日の労働を延長する時間などの記載が必要です。

時折、36協定を結ばないまま、法定労働時間を超えて残業させる会社等もありますが、法令に抵触するので注意しなければなりません。
 

時間外労働の上限は原則、月45時間・年360時間

残業時間の上限規制の法改正よって、残業の上限は原則として月45時間・年360時間と法律で定められました。

臨時的な特別な事情がなければ、月45時間・年360時間の定めを破ることは許されません。これまで36協定で定める時間外労働については、厚生労働大臣の告示によって、上限の基準が定められていましたが、相手方の協力に任せるという行政指導に留まっていたため、特に罰則はありませんでした。

しかし法改正後は、臨時的な特別な事情があって残業させる場合であっても、残業時間の上限が定められています。

具体的には、事業者は臨時的な特別な事情があって事業者と労働者が合意する場合(特別条項)でも、以下のような法的ルールがあります。

  • ・時間外労働は年720時間以内
  • ・時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満
  • ・時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4か月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1ヶ月当たり80時間以内
  • ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度

また特別条項の有無に関係なく、1年を通して常に、時間外労働と休日労働の合計は、月 100時間未満、2~6か月平均80時間以内にしなければなりません。
 

改正では罰則付きの上限が法律に規定された

上記で説明した特別条項に違反した場合、事業者には罰則が科せられる可能性があります。
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
(労働基準法第119条)

改正前までは時間外労働と休日労働の上限が緩かったため、特別条項付きの36協定を締結すれば、 限度時間を超える時間まで残業させることも可能でした。

しかし、今回の法改正によって残業時間の上限が明確に法律化されたことで、事業者も労働者も労働時間を順守しなければならなくなったのです。

 

対象となる中小企業とは?

大企業では2019年4月から時間外労働の上限規制が導入されています。中小企業は一年後の2020年4月1日からのスタートとなりました。

中小企業で規制対象となるのは、以下の「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかの基準を満たしている企業です。

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他 (製造業、建設業、運輸業、その他) 3億円以下 300人以下

 

上限規制の適用が、猶予・除外される事業・業務がある

業種によっては改正による残業時間の上限規制によって、業務に大きな影響が出る仕事もあります。

そのため、建設業と自動車運転の業務、医師に対しては、2024年3月31日まで猶予期間が設けられており、上限規制は適用されません。

2024年4月1日以降は、各業種において条件付きで時間外労働および休日労働の規制が適用されます。

また、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業にも、2019年から起算して同じく5年間の猶予期間が定められていますが、2024年4月1日以降は、すべての上限規制が適用されます。
 

会社によっては残業しても、法律違反にならない!?

時間外労働と残業は、厳密に言えば異なります。前述した通り、労働時間の原則は1日8時間ですが、これは法定労働時間であって、所定労働時間とは区別されます。

所定労働時間とは、労働契約や就労規則によって決められた、勤め先での勤務時間のことです。たとえば会社の就業時刻が9時だとして、昼休みが11時30分から12時30分、勤務終了時間が17時だとした場合、所定労働時間は7時間です。

その後1時間残業しても合計8時間に収まるため、法定労働時間をオーバーしたことにはならず、法律上の時間外労働には該当しません。
 

まとめ

2019年4月より残業時間の上限規制が定められたため、事業者も労働者もルールを順守する必要があります。

時間外労働も休日労働も規則の範囲内でしか行えず、従来の法体制とは異なり、上限も明確に定められました。

法改正後は罰則規定も備わったため、一層気を付けなければなりません。労働時間を守って、仕事も私生活も充実した日々を送りましょう。

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