残業をした労働者に対して残業代が支払われるのは当然のことです。しかし、「サービス残業」などという言葉があるように、残業を行っても残業代が支払われないケースが存在します。
残業をしたにも関わらず、残業代が支払われない場合には残業代の請求を行うことは可能です。
この時、残業をした事実を証明できる証拠を開示してもらう必要があります。
今回は残業代請求における証拠の開示についてご紹介しましょう。
残業代請求における証拠の必要性と注意点
残業代を請求する場合、証拠の有無は非常に大きく、証拠が何一つない場合では残業代の請求が認められないケースが多いです。
会社側とすれば残業代を請求されていいことは1つもなく、1人の告発をきっかけに芋づる式に残業代を支払うことになれば、会社の経営自体が危なくなるのも考えられない話ではないでしょう。
そのため証拠がなければ、支払わないことも十分に考えられます。残業をした証拠、未払いの証拠があるのは極めて重要になります。
証拠の開示以外にも残業代請求には注意すべき点があるので押さえておきましょう。
労働者に立証責任がある
立証責任とは今回の場合だと残業を証明する責任は誰にあるのか、という点です。残業代請求では立証責任は労働者にあり、労働者が証拠を提出すると立証責任を果たせます。
会社が証拠を保管しており、証拠が労働者の手元にない場合は立証責任を果たせていないため、請求は難しくなってしまうでしょう。
請求できるのは2年分
未払いの残業代の請求期限は2年となっており、それ以上遡って請求することはできません。
時効
- 第百十五条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
- 引用元:労働基準法第115条
しかし、2年分を請求する際に2年分の証拠が必須とは限りません。直近1年の証拠があれば1年分の数値を倍にした額での請求が可能です。
必須ではないと言いましたが、「1ヶ月分だけ」のようにあまりに短い期間の証拠しかない場合は過去の請求が難しいので、なるべく長期の証拠を集める必要があります。
残業代請求で証拠として開示できるもの
労働者に立証責任があることから、残業を行っていた証拠を集めなくてはなりません。
しかし、どのようなものが証拠として有効なのか分からないという方も多いでしょう。
残業代請求時に証拠となる物について、カテゴリーに分けてご紹介していきます。
労働条件に関する証拠
●労働契約書や雇用通知書
労働者がどのような契約で雇用されているかを記載した契約書です。契約内容や残業代についての取り決めも明らかにできるので、非常に有効な書類になります。
残業をしていたことに関する証拠
●タイムカード
勤怠の時間が記載されているタイムカードは、残業をしていたことを証明する上で有効な証拠となり得ます。
●勤怠記録
タイムカードと同様にいつ・どのくらい働いたかが記録されているので、労働時間を証明する上で有用な資料です。
●パソコンのログイン、ログオフ記録
ログインしてからログオフするまでは基本的に仕事をしていたと考えられます。そのため、残業をしていたことの証拠として使えます。
●メール
業務に関するメールの場合、そのメールの送受信記録から働いていた時間の証拠として提示できるでしょう。
●社員カード記録
IDカードを使ってビルや会社へ入館する場合、その記録が会社にいた証拠になります。
●営業日報
営業日報には労働時間が記載されており、タイムカードなどと同じ効力を持っています。
●タクシー等の明細
公共交通機関やタクシーなどで帰宅をした場合、その明細があると帰宅時間から会社にいた時間を割り出せるので、証拠になり得ます。
業務内容の証拠
●上司からなどの指示所やメモ
上司から残業を指示された際のメールやメモ、指示書などは業務をしていたことや業務内容を立証できるので、証拠としての価値が高いです。
●メール
取引先との連絡メールや見積もりを送るなどの業務に関するメールも、残業をしていたことの証拠になります。
残業代が支給されていない証拠
●給与明細や源泉徴収票
実際にいくらもらっていたのか、残業代が払われていないことについて証明できる資料です。源泉徴収票がある場合、会社に問い合わせることで退職後でももらえるでしょ。
●就業規則
実際の就業規則を持ち出すことが難しい場合は、コピーでも十分に証拠になり得ます。
終業時間や労働時間についての取り決めを立証する上で必要です。
退職後でも証拠を集められるか
退職をしてしまい、証拠となり得るものをすでに処分されてしまった場合、証拠が集められないので残業代請求はできないと思っている方もいるでしょう。退職してからでも集められる証拠があるのでご紹介します。
公共交通機関の利用記録
通勤公共交通機関を利用し、定期券やICカードを使っていた場合は証拠を集められます。
交通機関に問い合わせることで履歴を確認することができ、帰宅に使っている時間などから残業していたことを証明できる証拠となります。
会社のアカウントを利用したメール
自分ケータイななどに会社のアカウントから送ったメールがあれば送受信の時間が証拠になります。
証拠がなくでも残業代を請求できる可能性がある
残業代の請求には証拠があることが大きな条件となり、自分の手元に証拠となるものがあれば良いのですが、ない場合も考えられます。証拠がない場合にはどうすれば良いのかを解説していきましょう。
会社に対して行えること
●任意で開示を求める
会社に対して証拠となる資料の開示請求を行います。会社は労働者の名簿や賃金台帳や雇い入れ、解雇、などの雇用に関わる重要書類を3年間は保管しなければならない義務があります。
この重要書類の中にはタイムカードなどの労働時間を管理するために記録されたものも含まれているので、会社には保管されているはずです。
過去には会社にタイムカードの開示を認めた裁判もあり、このような事例をもとに開示請求を行うことは可能です。
専門機関に相談する
●労働基準監督局
労働基準監督局に相談してみることで、事態が好転することも考えられます。労働基準監督局は企業が労働に関する法律を守っている監督する機関なので、違法と判断した場合は指示勧告や捜査、送検して刑事訴追する権利を持っています。
労働基準監督局からの勧告で残業代が払われたケースも多いので、一度相談してみましょう。
●労働組合
労働組合は労働者の味方なので、不当な行為があれば会社との交渉を行ってくれます。
しかし、社内の労働組合では経営者と懇意になっている可能性もあり、その場合は頼りになりません。
社内が頼りにならない場合は社外の合同労組に相談すると、会社のしがらみなく交渉をしてくれるでしょう。
●弁護士
社外の弁護士に相談してみるのも一つの手段です。弁護士であればこれから証拠を集める際のアドバイスをしてもらえますし、代理人として会社と交渉を進めてくれます。
会社が任意の開示に応じなかった際に賃金請求起訴の準備として裁判所に申し立てる証拠保全命令の手続きを依頼することもできるので、証拠を集める際にも相談してみると良いでしょう。
まとめ
残業代請求における証拠になる物や、証拠がない時の対処法についてご紹介してきました。
企業が労働者に対して残業代を払うことは当然の義務で、支払いに応じないことは違法行為にあたります。
残業代請求を行う時には証拠の有無が請求を認められるかを大きく分けるポイントです。
できるだけ多くの証拠を集めるようにして、自分一人だと大変な時は労働基準監督局や弁護士の力も借りて、万全の状態で残業代の支払いを請求しましょう。