求人情報を見ていると、給与形態欄に年俸制と書かれている企業を見かけるでしょう。
これまで月給制の企業でしか働いてこなかった人の場合、毎月の支給はどうなるのか気になるはずです。
そこで今回は、年俸制と月給制の違いや年俸制を採用している企業の残業代についてご紹介します。
転職活動をしている中で年俸制がどのようなものか気になったという人は、ぜひ目を通してみてください。
年俸制とは?
まずは、年俸制と月給制の違いから見ていきましょう。
年俸制について
年俸制は、1年ごとに給与総額を更改していく給与制度です。前の年の評価などを参考にしながら給与額が決められるため、成果が給与に反映される成果主義を採用している企業で導入されているケースが多くなっています。
年俸額の決め方は企業によって異なりますが、社則で定められた賃金規定に応じて決められるケースや更改ごとに年俸額が提示されて社員からの了承を得るケースが一般的です。
転職先がどのような方法で決めているかは、就業規則や雇用契約書で確認しましょう。
給与の支払われ方は、1年に1回まとめて支払われるわけではありません。
労働基準法第24条で、毎月1回以上期日を決めて支払わなければいけないと定められているため、給与総額を分割した金額が毎月支払われるのです。
月給制との違い
年俸制と月給制の大きな違いは、給与額が年単位で決定されるか、月単位で決定されるかという点です。これ以外に大きな違いはありません。
給与額の決め方に関しては、年俸制が成果主義と結びつくことが多いのに対して、月給制は勤続年数や年齢などを考慮する年功主義の企業で採用されていることが多いという違いがあります。
年俸制だと残業代は支払われない?
年俸制は1年間で支払われる賃金があらかじめ決められています。
そのため、残業代が出ないと思っている人も多いです。
しかし実際は、年俸制でも残業代を請求できる可能性があります。では、年俸制だと残業代は支払われないのか、請求できるのかという疑問について解説します。
労働時間と割増賃金について
労働時間は、労働基準法で労働者を保護する観点から上限が定められています。
労働基準法で定められている上限時間は法定労働時間と呼ばれていて、1週間の労働時間は40時間となっています。
1日の労働時間は8時間までです。休日は、1週間に1回もしくは4週間で4日以上付与しなければいけないと定められています。
法定労働時間以外にも所定労働時間というものがあります。
所定労働時間は、法定範囲の中で使用者と労働者の間で決めた労働時間のことです。
9:00~17:00までが就業時間で休憩が1時間だった場合、所定労働時間は7時間になります。基本的に所定労働時間を超えたとしても、法定労働時間を超えなければ、割増賃金を支払う必要はないと定められています。
中には、就業規則で所定労働時間を超えた場合に割増賃金を支払うとしている企業もあるので、その場合は法定労働時間に達していなくても割増賃金を請求できるでしょう。
年俸制でも残業代は請求できる
年俸制は1年間の支払総額が決まっているので、残業代が出ないと思っている人は少なくありません。しかし、年俸制であっても労働基準法で定められている割増賃金に関する定めが適用されます。
つまり、年俸制で給与額が所定労働時間を基準に決められている場合、所定労働時間を超えたら残業代が発生します。
それだけではなく、法定労働時間を超えた場合は割増賃金を支払わなければいけないということになるのです。
もしも、年俸制を採用している企業で残業代が支払われないのであれば、未払い分を請求できます。
実際に、年俸制で未払い残業代の支払い請求が認められたケースがあるので、万が一の時は請求を視野に入れると良いでしょう。
残業代を支払う必要がないケースもある
労働契約の中で、年俸に残業代が含まれていることが明確になっていて、残業代と基本給がきちんと区別できる場合は残業代を支払う必要がないとみなされる可能性があります。
この場合だと、年俸の一部が残業代として支払われているため、別で支払う必要がないのです。
しかし、年俸で定められている残業代が実際に働いた残業時間に対する残業代よりも少ない場合は、別途支払う必要があります。
また、本人が労働監督者だと判断されたり、裁量労働制が採用されたりしているケースでも、残業代が発生しない可能性があることも覚えておきましょう。
残業代の計算方法は?
続いては、年俸制の残業代の計算方法について見ていきましょう。
①基礎時給を計算する
まずは、基礎時給を計算するのですが、年俸制の場合は計算方法が特殊です。
ちなみに基礎時給は、残業1時間当たりの賃金を意味します。
- 基礎時給=年俸の金額÷1/2÷1ヶ月の平均所定労働時間
この計算式で基礎時給を算出できます。
②割増率をかける
割増率は、基礎時給にかけるものです。
深夜労働や残業、休日出勤などによって割増率は変化します。
- 時間外労働…1.25
- 法定休日労働…1.35
- 深夜労働…1.25
- 時間外労働と深夜労働…1.5
- 休日労働と深夜労働…1.6
この数字を基礎時給にかけると、残業1時間当たりの賃金を算出できます。
③残業時間をかける
②で計算した残業1時間当たりの賃金に、実際の労働時間をかけます。
そうすることで、あなたが支払ってもらうべき残業代を算出できるのです。
残業代を請求するためには証拠が必要
残業代を請求するためには、使用者と労働者の間で結ばれた雇用契約に関する資料が必要になります。
雇用契約書や雇用条件通知書、就業規則、賃金規定などを用意しておきましょう。
さらに、労働時間に関する資料も用意する必要があります。
直接的な証拠になるのはタイムカードです。タイムカードは出勤時間と退社時間が打刻されているので、確実な証拠になります。
タイムカード以外では、業務報告書やパソコンのログインとログアウトの情報などを準備しておくと間接的な証拠として活用できます。
労働者自身の日記やメールの履歴、出退勤時間のメモも証拠として活用できる可能性があるので残しておくと良いでしょう。
企業側は残業代の支払いを渋る可能性もあるので、反論された時に備えて業務指示のメールやメモ、会議の議事録なども用意しておくと有利に話を進めやすくなります。
企業によっては管理がずさんだったり、残業時間がはっきりとわかるような記録の開示を拒んだりすることもあります。
そのような場合に備えて、自分で用意できる証拠は用意しておくべきです。直接的な証拠を用意できない場合は、労働時間を記録したメモなどを用意しておくことをおすすめします。
どうしても難しい場合は、弁護士に相談して証拠保全手続きをしてもらうこともできるので検討してみましょう。
残業代請求の時効は2年間
2年以上経過すると超えた分は請求できなくなってしまうので、できるだけ早い段階で手続きを進めるようにしてください。(2022年4月より3年に延長される予定)
退職した会社へ請求しようと考えている場合は、残業代の請求を内容証明郵便で送りましょう。そうすることで、時効を仮中断できます。
まとめ
年俸制の場合は、支払総額の中に残業代が含まれているか否かで残業代の請求ができるかが変わってきます。もしも支払い総額に含まれておらず、労働時間が超過している場合は労働者が請求できます。
しかし、請求するためには証拠を残しておかなければいけませんし、簡単に手続きができるわけではありません。
そのため、労働関係の実績を持つ弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで適切なアドバイスをもらうことができ、状況を良い方向へ持っていきやすくなります。