日本では、かなり昔から一方的な「クビ宣告」が存在しており、従業員は「クビを言い渡されたら辞めなくてはいけない」と思い込んでいる節があります。しかし、解雇条件を満たさず、手続きが適切ではないクビ宣告は「不当解雇」に該当し、解雇を撤回させられるのです。
一方、不当解雇であることをその場で判断できず、何年か経過してから気が付く…というケースも珍しくありません。このようなケースでは、さまざまなお金の問題に関して、「時効」が絡んできます。ここでは、不当解雇にまつわるお金の問題と、その時効について整理します。
不当解雇における主な時効は3つ
とっくに退職してしまった会社が不当解雇を行っていたことに気づいたとき、まず確認すべきは以下3つの時効です。
- ・解雇無効による賃金請求の時効
- ・慰謝料の請求に関する時効
- ・退職金請求の時効
それぞれ順に見ていきましょう。
解雇無効による賃金請求の時効「2年」(2020年以降に変化あり)
不当解雇に該当する場合、本来は解雇されずに就労していたと考えれば、その間の賃金(給料)が発生しています。これを請求するためには賃金債権の時効が到来する前に行動を起こさなくてはなりません。具体的には、「訴訟提起から遡って2年間の賃金が請求可能」ということになりますから、できるだけ早く賃金請求を検討すべきです。ちなみに労働基準法では第115条に、賃金請求の時効に関する規定があります。
“労働基準法第115条(時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。”
賃金(給料)に関する時効は、不当解雇にまつわる時効の中で最も短いため、早急に対策を練る必要があります。
ただし2020年の民法改正によって、全ての債権の時効が「権利行使できることを知ったときから5年、権利行使できるときから10年」、債券・所有権以外の財産権は「財産権は権利行使できるときから20年」に統一されます。この影響を受けて、賃金請求の時効も5年になるかもしれません。
慰謝料の請求に関する時効「3年」
企業側の解雇に関する一連の行動が極めて悪質な場合であれば、不法行為として認められ、不払い賃金とは別に「慰謝料」を請求することも可能です。こちらは民法724条に規定があります。
“民法第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。”
このように慰謝料については、「最後の不法行為があったときから3年」が時効です。ただし、不当解雇で既に会社を退職している場合は、「解雇状態が続いている=不法行為が継続中」と考えられるため、事実上時効が到来することはないとも言えます。こちらについては、2020年4月1日施行の改正民法でも同一です。
退職金請求の時効「5年」
不当解雇によって退職金を受け取っていない場合は、これについても請求が可能です。こちらは前述の労働基準法第115条にあるとおり、退職日から換算して「5年」が時効となります。
時効まで余裕があってもすぐに行動すべき
このように不当解雇案件のお金に関する時効は、「2年・3年・5年」というのがひとつの目安です。ただし、時効までに余裕があっても、できるだけ早く行動を起こすに越したことはありません。その理由は、以下のとおりです。
- ・本人や関係者(企業側)の記憶があいまいになる
- ・日がたつにつれ、証拠の収集が難しくなる
- ・企業側が反論してくる可能性が高まる
特に重要なのが2番目の証拠に関することです。不当解雇を争う場合には、さまざまな証拠(タイムカードや業務報告書、業務中のメールなど)が重要になります。こういった証拠がしっかりと保管されていれば良いのですが、退職者にまつわる書類を破棄してしまう企業も少なくありません。
また、労働者側に有利な材料をあえて保管しておく必要がないと考え、抹消してしまう恐れがあります。さらに、不当解雇が常態化しているような企業は、不安定な経営状態であることも珍しくないため、時間の経過とともに会社自体の支払能力が低下してしまうリスクがあります。そのため、できるだけ早急に行動を起こし、証拠の収集・保全に努めるべきなのです。
不当解雇に関する請求はスピーディーかつ正確に
不当解雇は、労働者側が不利になりがちであり、時効を意識しながら行動を続けるには相当なエネルギーが必要です。既に退職してしまっている場合であれば、証拠の収集も難航し、賃金や退職金の請求を諦めてしまう方も少なくありません。そこで、専門家(弁護士)の活用を検討してみてください。労働問題に強い弁護士なら、証拠の収集や会社側との交渉、労働審判や裁判を含めて一貫した対応が可能です。できるだけスピーディーかつ正確に請求を行うため、弁護士の力をフル活用してみてはいかがでしょうか。