2023.02.02 2023.02.02

運送業・配送業

Amazon、楽天などのインターネット通販がとてつもないスピードで増えてきたことに伴って、現在、運送業・配送業の低賃金、長時間労働、ドライバーの人材不足が大きな社会問題となっています。
運送業・配送業の中でも特にドライバーの賃金体系は、日本の高度成長期において、完全歩合給制度が主流で、トラック1台で走れば走るほど稼げた時代から、しだいに基本給+歩合給、または、基本給+残業代といった安定を求める時代に変わってきています。
以下、賃金体系ごとに注意すべき点を説明します。

運送業な主な賃金体系

運送業の賃金体系は、大きく分けると、(1)安定給与型、(2)インセンティブ型、(3)標準時間型、の3つに分けられます。

(1)安定給与型

賃金を固定給と時間外手当で支払う方法です。
事務員等に適用していた賃金制度とほぼ同様で、毎月の支払賃金が安定し、未経験者や女性等を採用するに際しては、安定感を与えられるというメリットがあります。
しかし、昇格や昇給が少ないドライバーにとってはモチベーションが上がらず、収益性向上は期待できません。

(2)インセンティブ型

歩合制を採用し、働いた分を直接賃金に反映させる成果主義の賃金体系です。
ドライバーとしては、頑張れば頑張った分だけ賃金が増えるため、高い収益向上性が期待できます。
もっとも、単純に仕事に要した時間で賃金を決めていたのでは、運送業という業務の性質上、労働効率は果たせず、また、労働者間で不公平感が生じます。そこで、仕事に応じてインセンティブをつける仕組みが必要となってきます。その仕組みとして、完全歩合制から一部歩合制まで、そして、歩合の基準も売り上げ、距離、配送個数、伝票枚数、運行ルート別等、多様に存在します。ここでは、仕組みとして、現在多く採用されている固定給+歩合給についての注意点を述べます。

[固定給+歩合給]
  • ①労働基準法27条は、使用者は労働者に対して、労働時間に応じ一定額の賃金保障しなければならない旨を規定しています。歩合制だからと言って、極端に賃金を低くすることはできません。
  • ②歩合給においては賃金の変動が非常に大きいことから、この保障給だけでなく、都道府県ごとの最低賃金を下回らないように確認しておく必要があります。
  • ③法定労働時間を超えて労働した場合には、歩合制を一部採用しているといえども、残業代が支払われなくてはなりません。すなわち、労働者が、「1日8時間」(労働者10人以下の場合は、週44時間)もしくは「週40時間」を超えて労働した場合には、その超過時間分について、保障給を時給に換算した残業代と、残業代に上乗せした割増賃金を支払わなければなりません。

(3)標準時間型

運送業・配送業のドライバーは常時事業所外での勤務であり、残業代を計算するうえで、労働時間の把握が難しいのがこの業種の特徴です。
そこで、現在、よく利用されている賃金体系は、賃金に一定時間分の残業代を含める方法です。すなわち、運行ルート別に走行距離に応じた標準運行時間を設定し、運行ごとに所定の金額を支給します。この中で、当該運行に伴い通常発生する時間外手当相当額を毎月定額で支払うという方法です。

[固定残業代制]

残業手当をあらかじめ固定すること自体は違法ではありませんが、ドライバーによる長時間のタダ働きを容認するものではありません。そのためには以下のルールに沿うことが必要です。

  • ①固定残業代が、それ以外の賃金と明確に区別されている
  • ②賃金の中に固定残業代が含まれること、その金額、時間を就業規則等に明示して、従業員に周知させる
  • ③実際の時間外労働割増金額が固定残業代を上回った場合には、差額を支払う
  • ④固定残業代などの手当てを除いた金額が最低賃金を下回らないようにする
  • ⑤固定残業代の設定額と残業実態が著しく乖離しない

事業場外みなし労働時間制の適用

なお、事業所外での勤務であることから、事業場外みなし労働時間制を適用すれば、所定外労働時間の賃金の支払わなくてよいとも思われますが、適用場面ではありません。事業場外みなし労働時間制を採用する要件として、労働時間を算定し難いことが必要ですが、多くの運送会社では、労働時間については、デジタルタコグラフから出力される運転日報や、ドライバーによる手書きの運転日報、出帰庫前の車両点検、点呼の時間確認、さらには携帯電話でのやり取り等で把握できます。
したがって、みなし労働時間を理由に残業代支払いを免れることはできません。

最後に

また、運送業・配送業においては、長時間労働が常に問題となり、直近月に100時間以上の時間外労働もしくは複数月にわたる80時間以上の時間外労働がある場合におこりやすいとされる脳・心臓疾患による労災認定を受ける件数が最多の業種です。
信濃輸送事件(長野地判H19.12.4)では、トラック運転手として荷物の運送、積み卸し等の業務に従事していた労働者が腰痛の発症について、使用者に対して安全配慮義務違反があるとして、4000万円近くの損害賠償請求が認められました。さらに、ドライバーが運転中に、くも膜下出血や心筋梗塞を起こして労災補償申請したことにより、労働基準監督署による調査が行われ、その結果、残業代不払いが発覚するなどして、会社や代表者が送検される事件は後を絶ちません。
荷役作業の機械化や洗車設備の整備、更衣室等の改良といった労働環境の改善は、もちろん重要ですが、長時間労働の抑制が最重要課題であることは疑いありません。使用者としては、残業代を適正かつ誠実に労働者に支払うことによって超過労働を制限するという意識を、業界全体で持ちたいものです。

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