看護師の勤務先が街のクリニックなどの小規模病院、入院が可能な大規模病院であるかによって、勤務体系が大きく違います。
小規模病院
通常、10人以下の従業員の場合が多く、休日労働、深夜労働もなく、残業もほとんどなく、法定労働時間週44時間制で土曜日半日、日曜日が休みとなっています。
そして、午前診療は、9時から13時まで、午後診察は、16時から19時までが多く、午前診察から午後診察までの間、休憩時間を2から3時間とることになります。
[「労働」時間]
ここで、注意しなければならないのは、休憩時間中であっても、患者からの予約電話対応、診察時間延長対応、製薬会社の営業マン対応等が発生する場合、使用者の指揮命令下に置かれていると判断され、この時間も労働時間となります。
大規模病院
通常、入院患者、救急患者を診療する必要があるため、24時間体制をとっており、以下のとおり、2交代制、3交代制をとっています。
2交代制
日勤8時30分~17時30分
夜勤17時30分~翌9時30分
3交代制
日勤8時30分~17時30分
準夜勤17時~深夜1時
深夜勤1時~翌9時
看護師も雇用契約に基づく労働者である以上、労基法のルールに従って、他の労働者と同じく残業代は支払われなくてはなりません。すなわち1日8時間、あるいは週40時間を超える労働時間については残業代が発生します。
「労働」時間]
夜勤においては、仮眠時間を与えられていても、警報・電話・呼び鈴などがなった場合、すぐに対応しなければならず、労働からの解放がないことから、この時間も労働時間となります。
また、前残業(定時前に出勤してその日の準備をする)、勤務時間外に参加が義務付けられている研修、研修準備や看護記録・看護計画書作成等の持ち帰り残業も、労働時間としてカウントされます。
残業代が出ない様々な制度
病院の小規模大規模を問わず、人命救助の場という特殊なイメージから残業代が出なくても仕方がないと誤解されがちな看護師ですが、さらに個々の病院が採用している制度によって残業代の支払いがなされていない場合があります。個別にみていきましょう。
[固定残業代制]
「残業代は基本給に含まれている」ことを理由に残業代が支払われていない場合があります。看護師の現実の残業時間の有無、時間数に関係なく、一定時間数の残業代を毎月定額で支給するという、固定残業代制です。
これが、残業代として有効な支払いと認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
- ①基本給の部分と固定残業代の部分が明確に区別されている
- ②賃金の中に固定残業代が含まれること、その金額、時間を就業規則等に明示して、労働者に周知させる
- ③実際の時間外労働割増金額が固定残業代を上回った場合には、差額を支払う
- ④固定残業代などの手当てを除いた金額が最低賃金を下回らないようにする
- ⑤固定残業代の設定額と残業実態が著しく乖離しない
(注意点)
よく勘違いされるのが、固定残業代制を導入しているのだから所定時間以上の残業をしたとしても定額の手当てしか支払わないという運用です。これは誤りです。要件の③にあるように、超過額は支払われなくてはなりません。
[管理監督者]
病院スタッフの管理を任されたり、役職を与えられて「管理職」であることを理由に、残業代は支払われないことがあります。確かに、「管理監督者」(労基法41条2号)に該当すれば、労働時間や休憩・休日に関する規定は適用されないため、残業代の支払いは不要になります。
この管理監督者として認定されるためには、①企業の重要部分に関与していること、②出社、退社、勤務時間について裁量があること、③賃金等について地位相応の待遇がされていることが必要です。
(注意点)
実際の裁判の場面で、管理監督者該当性が認められることは多くはありません。管理監督者でないとなると、看護師の場合、かなり長時間労働を強いられていることが予想され、結果的には、高額の未払残業代の支払いを命じられることになります。管理監督者として扱うには注意が必要です。
[変形労働時間制]
1カ月以内の一定の期間を平均して1週間の労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内の範囲で、1日および1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
労基法の原則に従うと1日8時間、あるいは、週40時間を超えて労働した場合には残業代が発生することになりますが、この変形労働時間制を採用すると、1・3週目48時間、2・4週目32時間であれば、1週間当たりの平均が40時間となり、週によっては40時間を超えることがあっても、残業代を支払わなくともよいことになります。24時間体制でシフトを組み、看護師の1日の労働時間が長いことが想定される大規模病院等で、この変形労働時間制がよく採用されています。
この制度を採用するには、労使協定または就業規則等によりこの制度を採用する旨を定め、①労働日、労働時間の特定をすること、②変形期間の所定労働時間を法定労働時間内とすること、③変形期間の対象期間および起算日を明確に定めることを労働者に周知させることが必要です。
(注意点)
この制度を採用したとしても、定められた特定の日・週以外は、労基法の原則に従って残業代が発生しますし、特定の日・週以外でも、労基法の原則を超えると残業代が発生します。すなわち、1日8時間を超えかつ所定労働時間を超えている場合、1日8時間を超えていないが1週間40時間を超えている場合、1日8時間、1週間40時間を超えないが月単位での法定労働時間を超えている場合、残業代が発生します。
[残業の申告・承認制]
残業について事前に申請して、上司が承認した場合のみ残業を認めるというものです。「1日の残業は2時間まで」と病院内で取り決め、これ以上の残業については手当を行わないという運用がされていることがあります。
残業の承認制については、通常、承認者、申請が必要とされる残業の内容、申請期間等を、就業規則で定めます。
(注意点)
残業の明確な指示があれば、残業代が支払われるのは当然ですが、許可を受けていない場合でも、残業の默示の指示があったとみなされることがあります。
労働者が終業時刻を過ぎても業務を行っていることを管理者が知っているにもかかわらず、早く帰宅するように促す等の一切の指示を講じていなかった場合には、黙示の時間外労働の指示があったとされ、残業代支払いの対象となります。
また、「1日の残業は2時間まで」のような残業申請の上限を設けることは不適切です。残業が常態化しているのであれば、業務を見直し、職員の仕事量や人員配置を調整する必要があります。
まとめ
特殊な職場環境から、看護師は長時間労働もやむを得ないとの風潮があります。また、病院によっては看護師の離職率が高く、慢性的な人手不足のため、看護師1人当たりの仕事量が大きくなり、その結果、サービス残業が当たり前のように横行しているのが現状です。
しかし、いかなる理由であっても、労働者である以上、労基法のルールが適用されます。適正な残業代の支払いが、ひいては長時間労働への抑止につながります。人手あってこその業種であることは誰もが認めるところでしょう。労働者にとって健全な勤務状況を作れるよう、法令遵守が重要という意識を持ちたいものです。