はじめに
みなし残業とは,あらかじめ一定時間分の残業代を含ませて,賃金や手当を支払うものです。みなし残業は一定の残業代を固定して支払う固定残業制度とも言われています。
使用者の中には,みなし残業代が支払われていることを理由に,一定時間を超える残業をした労働者に対し,一定時間を超えた分の残業代を支払わない者もあり,残業代が支払われないケースとして問題となっています。
以下では,みなし残業の内容,労働基準法上のみなし残業,みなし残業の違法性について解説していきます。
みなし残業の内容
みなし残業を採用していない一般の労働形態の場合,時間外労働に対しては,使用者は労働者に対し,割増賃金を支払わなければなりません。
一方,使用者がみなし残業を採用している場合,一定の時間分に関しては,労働基準法で定められている週40時間を超える時間外労働に対する割増賃金,深夜(午後10時から午前5時まで)割増賃金,休日労働に対する割増賃金を支給しないのが一般的です。
しかしながら,みなし残業時間とされる一定の時間を超える残業時間に対しては,使用者は労働者に対し残業代を支払わなければなりません。
使用者にとっては,みなし残業を採用した場合,一定時間内の残業であれば割増賃金の面倒な計算を行わなくて済むというメリットがあります。
一方,労働者は一定の時間の残業代は請求できないというデメリットがありますが,裏を返せば,残業時間が少ない場合でも一定時間分の残業代を支給されるというメリットでもあります。
労働基準法上のみなし残業(みなし労働時間制)
労働基準法上,2種類のみなし労働時間制が規定されています。それは,事業場外労働と裁量労働です。
・事業場外労働の場合
労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し,かつ,労働時間の算定が困難な場合には,所定労働時間だけ労働したものとみなされます(労働基準法38条の2)
X社の従業員である,Aさんが10時間外回りの営業をした場合を考えます。
原則として1日8時間を超えて勤務した場合超えた部分は時間外労働として,残業代を請求できますので,Aさんは8時間を超える2時間分について残業代請求ができるはずです。
しかし,X者の就業規則等で,外回りの営業をする従業員を対象に1日8時間労働したものとみなすとする規定があった場合,Aさんは8時間を超える2時間分は残業代を請求できません。
・裁量労働の場合
研究開発やシステムエンジニアなどの専門職について,会社が,一定時間労働したものとみなすとして労使協定を結んだ場合(同法38条の3)や事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を行う一定範囲の労働者について事業場内での労使委員会の決議や本人の同意等により一定時間労働したものとみなす場合(同法38条の4)があります。
あらかじめ労使協定などで一定時間労働したものとみなすとされている場合,みなされた時間が法定労働時間を超えていたとしても,みなされた労働時間を超えた分しか残業代を請求することができません。
例えば,X社の従業員のAさんが,研究により12時間労働したとしても,「一日10時間労働したものとみなす」という労使協定が結ばれていれば,2時間分の残業代しか請求できず,10時間を超える2時間分は請求することはできません。
おわりに
みなし残業が採用されていた場合,みなし残業が予定している残業時間を超える残業時間については,労働者は使用者に対し残業代を請求することができます。もっとも,みなし残業を採用しているとして,一切残業代を支払わない使用者もいることも注意する必要があります。
当事務所では,残業代請求に関し経験豊富な弁護士が在籍しております。残業代請求を検討されている方は,当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めします。