内定取消を、そのまますんなりと受け取っていないでしょうか?実は内定には、「入社の仮約束」という内容以上の意味が込められています。したがって、不本意な内定取り消しに対しては、損害賠償・慰謝料の請求が可能なのです。ここでは、内定取消の本来の意味や、慰謝料請求などについて解説します。
そもそも内定は「仮の約束」ではない
まず、内定の定義について確認しておきましょう。学生や若手の社会人は、就職・転職活動を通じて希望の企業から内定をもらう機会があるかと思います。内定は一般的に、書面やEメールなどで通知されますが、これは厳密に言えば「雇用契約」と同様の意味を持つのです。具体的には、「就労(効力)始期付 解約権留保付労働契約」と呼びます。少し長いので、後半部分の「解約権留保付労働契約」で説明しますね。
解約権留保付労働契約とは、「やむを得ない何らかの事情が発生した場合には解約することもあるが、原則としていずれは雇用する」という契約です。つまり、内定とは「労働契約の成立」であり、内定取消は「一方的な労働契約の解除」です。(ちなみにここでいう解約は、労使双方の権利です。したがって、労働者側から取消を申し出ることも含まれています。)
ここで注意したいのが「どのような場合でも取消(解約)が許されるわけではない」ということです。内定取消が認められるのは、「客観的な合理性」があり、なおかつ「社会通念上、特に問題のない範囲の理由」が備えている場合のみと考えられています。これは実際の判例(大日本印刷採用内定取消事件上告審判決)でも示された見方です。
参考:「大日本印刷採用内定取消事件上告審判決」
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00173.html
客観的な合理性を欠き、社会通念上問題がないと判断されない理由による内定取消は、安易に認めるべきものではないのです。逆に、内定取消が容認されるのは、次のようなケースだとされています。
- ・成績不振などで学生が予定通り卒業できなかった
- ・健康診断の結果、労働に耐えうる健康状態ではなかった
- ・履歴書や誓約書に虚偽の記載をした(学歴、保有資格など)
- ・内定通知後に突然経営が悪化し、会社として人を雇う余裕がなくなった
内定取消と損害賠償・慰謝料請求
では、不適切な内定取消に遭遇した場合、どういった対応をとるべきなのでしょうか。内定取消に対しては「慰謝料請求」が可能です。企業側からの一方的な内定取消があると、労働者側は高確率で何らかの損害を被ることになります。学生であれば、他企業への就職活動をしなかったことで、その年の就職が不可能になることもあるでしょう。社会人でも本来なら受け取っていただけの給与や退職金など、金銭的な影響があります。これらは、損害賠償請求に該当する事案です。また、期待感を裏切られたことに関して、精神的な損害も無視できないため、慰謝料請求の余地もあります。
実際に、
- ・内定通知交付の2日前に内々定を取り消して慰謝料85万円を認めた判例
- ・所属企業の退職後に転職予定先から内定取消にあい、慰謝料100万円を認められた判例
などがあります。
参考:
コーセーアールイー事件・福岡地裁平成22年6月2日判決
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08850.html
オプトエレクトロニクス事件・東京地裁平成16年6月23日判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/138/033138_hanrei.pdf
まずは泣き寝入りせずに、対策を講じていきましょう。
内定取消への具体的な対策
真っ先に始めるべきは「証拠の確保」です。内定通知書があればれっきとした証拠ですが、最近は内定通知書を発行する前(つまり内々定段階)での一方的な取消も増えています。したがって、口頭で伝えられた場合は「日時や内容のメモ」を、Eメールで伝達された場合にはメールそのものを、しっかりと保存しておきましょう。
また、内定取消の理由も確認してください。単なる「会社都合」は理由になりません。具体的に何が起こり、どういった事情で取消すのかを確認してください。繰り返すようですが、上で述べた内定取消が容認される理由以外のものは、認められない可能性が高いのです。
内定取消の損害を取り戻すために
不適切な内定取消は、学生や社会人の人生に悪影響を与えます。少しでも疑問がある場合は、安易に受け入れず、一旦保留にしたうえで、専門家へ相談してみましょう。労働問題に強い弁護士ならば、内定取消が適法であるかどうかを判断し、対応策のアドバイスができます。また、最終的に地位確認訴訟や慰謝料請求を見据え、一貫したサポートも可能です。