「課長」や「マネジャー」「店長」など企業やお店で「管理職」と呼ばれる立場になると、それまで支払われていた「残業代」がつかなくなるケースが多々あります。
業務内容はほとんど変わっていない、基本給もさほど上がっていないのに残業代が足されなくなるため、給料が減ってしまう方もおられます。
そのようなときには「管理職」であっても残業代を請求できる可能性があります。
今回は管理職でも残業代を請求できるのはどういった場合なのか解説します。
1.管理職になると残業代が支払われなくなる理由
店長やマネジャーなどの「管理職」に昇進すると、なぜ会社から残業代が支払われなくなるのでしょうか?
それは、労働基準法における「管理監督者」に該当すると判断されたからです。
管理監督者とは、経営者と一体性を持ち管理部門への統括権を持ち自らの業務量や業務時間をコントロールできる立場の従業員です。労働基準法では「管理監督者」には時間外労働手当や休日手当の支払いは不要と規定されています(労働基準法41条2号)。
課長やマネジャーなどの「管理職」は一般的に労働基準法上の「管理監督者」と同じ意味にとらえられているケースが多いので、管理職になると会社はそれまでつけていた残業代をつけなくなるのです。
2.管理職でも残業代が支払われるケースとは
しかし課長やマネジャー、店長などのいわゆる「管理職」になっても、残業代が支払われる可能性があります。以下でどういったケースで残業代を請求できるのか、みていきましょう。
2-1.深夜労働に対する割増賃金は請求できる
誤解されていることも多いのですが、労働基準法における「管理監督者」にも「深夜労働の割増賃金」は支給されます。
管理監督者に支払わなくて良いとされているのは「時間外労働手当」と「休日労働手当」です。判例でも深夜労働に対する割増賃金は、管理監督者に対しても支払われなければならないと示されています(最高裁平成21年12月18日判決・ことぶき事件)。
「深夜労働」に該当するのは午後10時から翌朝午前5時までの労働です。その時間に働いたら通常の賃金額を25%増しにした割増賃金を請求できます。課長や店長などに昇進した後、深夜労働手当が払われていないなら不払い分を計算して請求しましょう。
2-2.管理監督者に該当しない場合には時間外労働・休日手当を請求できる
店長やマネジャーなどの「管理職」に昇進しても、労働基準法の「管理監督者」に該当しないケースが多々あります。
労働基準法上の管理監督者といえるには、以下のような要件を満たす必要があります。
- 自分の業務量や業務時間に裁量を持っている
- 重要な経営の意思決定に関わっている
- 自分の統括する部門の人事権などを掌握している
- 報酬面などで地位と責任に応じた適正な待遇を受けている
労働基準法上の「管理監督者」といえるためには「実質的に経営者と一体」である必要があり、名前だけ「管理職」とすれば良いものではありません。このように「名前だけ管理職で実際には平社員と変わらない」人を一般的に「名ばかり管理職」といいます。
名ばかり管理職には労働基準法41条2号の管理監督者の規定が適用されないので、これまでと変わらず時間外労働、休日労働の割増賃金を含めて残業代請求が可能です。
過去にはマクドナルドの「店長」となって残業代を支払われなくなった方がマクドナルド側へ残業代請求の訴訟を起こし、マクドナルド側へ750万円もの支払い命令が出た事案もあります(東京地判 平成20年1月28日)。
3.管理職でも残業代請求できる例
以下のような状態であれば「管理監督者」にならないので残業代を請求できます。
- 出勤時間や退勤時間を決められており、裁量が認められていない
- 経営会議などに参加することはない、参加しても発言権はない
- 管理する部署の人事権は掌握していない
- 課長などに昇進したが基本給はほとんど変わっておらず、仕事が忙しくなって残業代がつかなくなった分時給換算すると大きく目減りしている
4.管理職になって残業代が支払われなくなったら弁護士にご相談下さい
会社から「管理監督者」といわれても、実際には「名ばかり管理職」として残業代請求できる可能性があります。また管理監督者であっても深夜労働に対する割増賃金が支払われていないなら請求可能です。
ご自身では「管理監督者」に該当するかどうか分からない場合、弁護士がアドバイスいたします。お心当たりのある方はお気軽にご相談下さい。