法定労働時間を超えて働いた分は残業代として支払われるべきですが、代休や他の手当などで相殺することはできるのでしょうか?
方法によっては残業代の代わりになることもありますが、違法に残業代が支払われておらず、未払い残業代が発生しているケースも多いと考えられます。
今回は、ケース毎での残業代の相殺の違法性や未払い残業代を見抜くポイントについてご説明します。
残業代を他の方法で相殺することはできる?ケース毎の解説
残業代を相殺する方法として考えられるものは、残業代そのものを他の金銭で相殺する方法と、残業時間を他の時間(代休など)で相殺する方法があります。
- ボーナスや手当等での相殺
- 代休での相殺
- 遅刻や早退に対する相殺
主に上記の3つの方法での残業代の相殺は適切なのかをご説明します。
ボーナスや手当等での相殺
まずは金銭での相殺からご説明します。本来発生している残業代を『○○手当』という他の名称で支給したり、ボーナスで相殺することはできるのでしょうか?
ボーナスでの相殺は違法
まず、ボーナスでの残業代の相殺は違法で、正しく残業代が支払われていない可能性が高いです。そもそも、ボーナスと残業代は性質が違うので、代わりにすることはできません。
『○○手当』での相殺は適法もある
『役職手当』などの他の名称で残業代分の支払いがされている場合、本来発生している残業代以上の額を支給してもらえていれば適法と考えられます。
ただし、実際に働いた残業時間に対する残業代よりも低い手当しか受け取っていない場合には未払い残業代があると考えられます。
例えば、役職手当が毎月5万円で支給されていたとします。本来発生している残業代が5万円未満の月は問題ありませんが、多く働いて5万円分以上の残業をした月には別途追加で残業代を支払う必要があります。
固定残業代制による定額残業手当は合法だが間違った導入も多い
同じような問題で、固定残業代制の問題があります。固定残業代制は、あらかじめ何時間分かの残業代を固定で支払っておく方法で、『45時間分7万円』などの固定残業代があらかじめ給与に含まれている制度です。
固定残業代制でも、実際の残業時間がもともと決められた残業時間未満であれば問題ありませんが、中には「すでに残業代は払っているからいくらでも残業させて良い」と、間違った解釈をして運用している経営者も多いです。
代休での相殺
1週間に8時間残業したとして、残業代を支払う代わりに1日の代休によって残業分を相殺した場合にはどうなるのでしょうか?
代休でも割増賃金は発生する
残業した分を代休で相殺することは、就業規則等に書かれていれば問題ありませんが、残業時間に対しては割増賃金が発生するので、割増賃金分が未払いになっている可能性が考えられます。
例えば、8時間残業して1日代休になったとすれば、8時間分の賃金は代休によって相殺となります。ただし、残業時間に対して1.25倍の割増賃金が発生しますので、割増賃金に関しては相殺できていないこととなり、別途支払う必要があります。
有給で相殺することはできない
中には代休ではなく、有給休暇という形で残業時間分を相殺するような会社があるかもしれません。有給での相殺は違法性が高いと考えられます。
本来、有給は残業の有無にかかわらず取得できるものであって、残業が多い時の代わりになるようなものではありません。
遅刻や早退に対する相殺
「1時間遅刻した分を1時間多く働いて残業代はなし」「残業が多かった次の日は早めに退勤して前日の残業を相殺」このような方法は取れるのでしょうか?
遅刻の場合は法定労働時間で判断する
例えば所定労働時間から1時間遅刻してしまい、その代わり定時より1時間多く働いて残業代はないというケースでは、法定労働時間内(通常1日8時間)に収まっていれば残業代が発生しなくても問題ありません。
早退は代休と同じ考え方
一方、以前に残業した分を後日の労働時間を短くすることも可能です。これは上記でお伝えした代休での相殺と同じ考え方で、割増賃金は別途支払う必要があります。
残業代を違法に相殺されている時の対処法
ここまで残業代の相殺についてご説明してきました。ご自身の状況に当てはめて、違法か否かはある程度判断ができたかと思います。
違法に残業代を相殺されている方は、未払い残業代が残っていると考えられます。数回程度の相殺であれば微々たるものかもしれませんが、頻繁に残業代が相殺されていたり、他にも未払い残業代の疑いがある方は、取り返せる残業代も高額になることが考えられます。
こちらでは、残業代が違法に相殺されていた場合の対処法をお伝えします。
弁護士に相談する
残業代の相殺は、単純に残業代が支払われていない状況よりも複雑で判断が付きにくいことも多いでしょう。未払い残業代問題が考えられる場合は、法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。
今回は大まかなケースに分けてご説明しましたが、より具体的な状況や労働契約内容などを持って相談すれば、より明確な回答を個別に教えてくれます。
その中で多くの残業代が未払いになっていることが発覚すれば、後述する残業代請求にも力になってくれるでしょう。
相談に関しては無料で行ってくれる弁護士も多くいますし、相談したからといって必ず依頼をする必要はありません。気軽に悩みを弁護士に相談してみましょう。
労働基準監督署に報告する
残業代の未払いは明確な労働基準法違反で、労働基準監督署も対応を行う案件です。労働基準監督署に報告することも1つの方法です。
ただし、労働基準監督署は明確な違法行為で、しっかりとした証拠がある場合にしかなかなか動いてくれません。「違法かどうか分からない」状況であれば、まずは弁護士に相談して状況をはっきりさせた方が良さそうです。
残業代請求を行う
相殺による未払い残業代があると分かった方は、残業代請求も検討していきましょう。数回の相殺程度であれば、未払い残業代も微々たるものかもしれませんが、何度も続いたり、他にも残業代が払われていない事実があれば、取り返せる残業代も数十万~に及ぶことが考えられます。
まずは裁判所を介さずに直接会社に交渉や請求をした方が、手っ取り早いことが多いのですが、しっかりした証拠と根拠がない状態での残業代請求では、会社も簡単には応じてくれません。
実際に働いた内容や労働契約の内容などが分かる証拠をしっかり集めておき、未払い残業代をしっかり計算した上で請求を行います。
ご自身だけで証拠集め、残業代計算、請求をするには労力も要しますし、難しいことも多いです。弁護士に依頼することを前提に相談してみましょう。
まとめ
残業代を他の金銭や時間で相殺することは、適法な場合もあれば違法な場合もあります。今回はおおまかなケースに分けてご説明しましたが、それでも「怪しいかも」「未払い残業代があるかも」と思った方は、一度弁護士に相談してみてください。