残業代請求をする第一歩は残業時間を計算することですが、いざ証拠集めをしようにもタイムカードがないため、出鼻を挫かれてしまうことがあります。
結論からお伝えすると、タイムカードがなくても具体的な残業時間さえわかれば、残業代請求は可能です。
この記事では、タイムカードがない場合にどのようなものが証拠になるのか、証拠を揃えられないような場合はどういう対応が可能なのか、といったことをご説明します。
タイムカードがない会社は違法なのか?
タイムカードがないこと自体は違法ではありません。厚生労働省『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』では、就労時間の記録方法について次のように定めています。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
引用:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
タイムカードがなかったとしても、それ以外の方法で適切に就労時間が記録されていれば、違法にはなりません。
タイムカードがなくても残業代請求ができる理由
残業代請求をするためには、具体的に何時間残業をしたのか、証拠を取っておく必要があります。つまり、残業時間の証拠になるものでさえあれば、タイムカード以外でも問題はないということになります。
タイムカード以外で証拠になるもの
タイムカード以外の証拠としてはどのようなものがあるのでしょうか?以下で詳しくお伝えします。
なお、以下の記録などはコピー・印刷・スクリーンショットを使うなどして、証拠として残しておいてください。
入退室データ
入退室の際にIDカードを使う会社であれば、入退室の記録がデータで残っているので、証拠として入手できれば残業時間をかなり証明しやすくなります。
業務日報
業務日報には普段の業務内容が明確に記録されているため、残業代請求をする際に有力な証拠となり得ます。
パソコンのログイン・ログオフ記録
パソコンを使って仕事をしている方であれば、パソコンのログイン・ログオフ記録が証拠として有力です。パソコンを使っている時間は労働をしていた時間と考えられるためです。
メールやビジネスチャットツールなどの履歴
業務上使用しているメールやビジネスチャットツールの履歴も証拠として有効です。これらを使ってメッセージを送信すると、送信した時間が記録されます。仕事のやりとりを何時から何時までしていたのか記録が残っていますので、過去のやりとりを遡りスクリーンショットで証拠を残しておきましょう。
交通系ICカードの利用履歴
バスや電車で通勤する際にICカードを利用している場合は、その履歴から勤務時間を大まかに推測することが可能です。
もっとも、ICカードの履歴はあくまで何時に交通機関を利用したかがわかるに過ぎないので、他の証拠も集めておくのがベターです。
労働時間のメモ
ご自身で作成した労働時間のメモも証拠として認められる場合があります。証拠を残す際は、業務内容のほか労働時間について1分単位で正確に記入をするといいでしょう。
上記の他にも、労働時間に関する証拠以外の証拠もあわせて集めておきましょう。
- 労働契約書
- 雇用通知書
- 給与明細
- 源泉徴収票
- 就業規則のコピー
証拠が揃えられない場合の対処法
すでに退職をしているようなケースでは、タイムカードの内容を提出するよう会社に直接交渉をしても、応じてもらえない可能性もあります。
証拠集めが難しいような場合には、裁判所に申し立てることで『証拠保全』『文書提出命令』を行いましょう。
対処法①証拠保全とは
証拠保全とは、裁判で使用する証拠をあらかじめ確保するための手続きのことです。手元にある証拠が不十分な場合、証拠隠滅を防ぎたいような場合に有効な手続きといえます。
しかし、証拠保全に応じるかどうかはあくまで企業の任意となるため、注意が必要です。
対処法②文書提出命令とは
文章提出命令とは、民事訴訟において、証拠を持っている相手方に対して証拠の提出を命令するための手続きのことをいいます。裁判所を介して文章提出命令がなされると、相手方は証拠を提出する義務を負うため、より確実に証拠を押さえやすくなります。
これらの申し立てを自力で行うことももちろん可能です。しかし、法律の知識が必要になってくるため、証拠をより確実に押さえるためには弁護士への依頼をおすすめします。
残業代について困った時の相談先
証拠集めが順調に進まないような場合に利用できる相談先を4つご紹介します。
- ①労働組合
- ②総合労働相談コーナー
- ③労働基準監督署
- ④弁護士
①労働組合
労働組合を経由すると、団体交渉が可能です。自力で交渉をしようとした場合は個人対企業の交渉になるのですが、団体交渉の場合は労働組合対企業の交渉となるので、自力で戦うよりもいい結果を得られる場合があります。
②総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーは、厚生労働省が運営する相談窓口で、全国の労働局に設置されています。総合労働相談コーナーでは、職場でのトラブルに対して無料で相談に乗ってくれたり、解決のための情報提供をしてくれたりします。
③労働基準監督署
労働基準監督署に相談をすると、違法な労働を強いている企業に対して、調査や是正勧告をしてもらえます。例えばタイムカードなどで勤怠記録をしていない企業に勤めている方や、残業時間に対して見合わないような低賃金で労働をさせられているような方は相談をするといいかもしれません。
ただ、証拠がなければ労働基準監督署に動いてもらうことはできません。いずれにせよ、証拠を集めなければいけないことに変わりはないでしょう。
④弁護士
弁護士に依頼をすると、依頼者に代わり企業に対して残業代請求をしてくれます。有効な証拠集めに関する助言を貰えたり、必要であれば証拠保全の手続きを進めてくれたりします。一定期間にわたり長時間の残業をされてきた方は、依頼を検討してみるといいでしょう。
まとめ
この記事では、タイムカードがなくても残業代を請求できる理由、タイムカードの代わりに証拠として使えるもの、証拠を揃えるのが難しい場合の対処法などをご紹介してきました。
証拠集めに懸念がある場合でも、残業時間と比べた場合に著しく賃金が定額であるのなら、あきらめずに方法を模索してみてください。