店長だから残業代は出ないといわれたことはないでしょうか?
実際は他の労働者と待遇が変わらないか、それ以下である店長のことを名ばかり店長といいます。名ばかり店長に当てはまる場合は残業代が支払われなければなりません。未払いの残業代がある場合は、企業への請求を検討しましょう。
この記事では、名ばかり店長の意味や名ばかり店長とみなされる要因についてご説明します。
名ばかり店長の概要
ここでは、「名ばかり店長」「管理監督者」の意味について確認していきましょう。両者の違いを理解することが、現在の待遇の適法性を判断するきっかけになります。
名ばかり店長とは
名ばかり店長とは、管理監督者に該当しないにもかかわらず、「店長」という肩書きを理由に残業代が支払われないような方たちのことです。
名ばかり店長の方は、残業代が支払われない以外にも次のような不利益を被っていることがあります。
- 休憩がない
- 休日がない
- 残業の上限がない
労働基準法の管理監督者でない限り、上記のような労働環境は違法になることがあります。では、管理監督者とはどういう者のことを指すのでしょうか?
管理監督者とは
管理監督者とは、労働条件の決定や労務管理に関して、経営者と一体の立場にある者のことです。管理監督者にあたるかどうかは、肩書きではなく実態に即して判断されます。
管理監督者の判断基準は、次の3点です。
- ①当該者の地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること。
- ②勤務態様、特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること。
- ③一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること。
引用:3-5 「管理監督者」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性
わかりやすく説明すると、管理監督者として認められる条件は…
- 1.経営者と同様に労働条件を決める権限を持っている
- 2.自身の出退勤・労働時間について裁量権を持っている
- 3.他の従業員と比べて賃金などが優遇されている
とはいえ、こちらの定義だけでは抽象度が高いため、ご自身の状況と比較したときに判断がつきにくいこともあるかもしれません。
そこで、以下では管理監督者ではないと判断される要素を具体的にご紹介します。
管理監督者ではないと判断される要素
厚生労働省『労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために』によると、次に当てはまるような場合は名ばかり店長と判断される可能性があるようです。
職務内容や権限に関する要素
- 店舗で働くアルバイトやパートなどを採用する権限がない
- 店舗で働くアルバイトやパートなどの解雇に関する権限がない
- (人事考課のある企業で)自身の部下の人事考課に関与していない
- 勤務割表の作成や、所定労働時間外労働の命令を行う権限がない
勤務態様に関する要素
- 遅刻や早退を理由に人事考課でマイナスの評価がされる
- 営業時間中は常に店舗にいなければならない
- 人員不足などの理由により自分が働き続けなければならず、実質的に労働時間の裁量がない
- 通常の労働者と勤務態様が変わらない
特に、店長なのに出退勤時間についての裁量がなく、決まった時間に出退勤をしていたり、一般の従業員よりも長時間労働をしていたりするような場合は、名ばかり店長にあたる可能性が高いです。
賃金に関する要素
- 実際の労働時間に比べて、基本給や役職手当などが十分でない
- 年収が他の店舗の一般的な労働者のものとあまり変わらない
- 収入を時給換算すると、アルバイトの賃金以下になる
店長になると役職手当が出ることもありますが、手当ての有無ではなく実際の労働時間に対して、賃金が明らかに安すぎる場合は、残業代が適切に支払われていない可能性があります。
名ばかり店長が残業代を請求する手順
名ばかり店長に当てはまる場合、残業代請求が認められる可能性があります。ここでは、残業代を獲得するための手順をご説明します。
証拠を集める
残業代を請求するためには、具体的に何時間残業したのかわかるような資料が必要です。残業時間を証明できるようなものには次のようなものがあります。
- タイムカード
- シフト表
- 業務日報
- メール
- 日記
パソコンのログ
上記のものが手元にない場合は、写真やコピーをとっておいてください。タイムカードがない場合や、正確な残業時間がわからないような時は、残業時間を推測できるような情報を集めたり、弁護士を介して会社に開示請求をしたりといった手段があります。
なお、トラブルや証拠隠滅を避けるために、証拠を集める際は会社に見つからないように注意しましょう。
内容証明郵便を送る
内容証明郵便で残業代請求をすると、残業代を請求した記録を残せます。相手にプレッシャーを与えることができるので、より真剣に交渉に応じてもらえることが期待できます。
また、残業代の請求には2年の時効があるのですが、内容証明郵便を送ること時効を止める効果もあります。
交渉をする
内容証明郵便を送った上で、残業代を支払うよう企業と交渉をしましょう。
労働審判や訴訟をする
交渉に応じてもらえない場合や交渉が進まない場合は、労働審判や訴訟をすることになります。
労働審判や訴訟をする際は、お互いの主張を戦わせることになるので、法的に有効な証拠を集めることが重要になってきます。
労働基準監督署や弁護士などに相談する
残業代請求をするにあたって、自力で解決を図るのが難しい場合がよくあります。そんな時は、次のような相談先に連絡をしましょう。
労働基準監督署
現在の職場の管理体制の改善を望む場合は、労働基準監督署に相談をするのも1つの手段です。労働基準監督署に相談をすると、違法な労働を強いている企業に対して、捜査と是正勧告を行う場合があります。
労働基準監督署は労働基準法違反をしている企業に対して是正勧告をするものの、十分に証拠が揃っていないと動いてはもらえない上、残業代を請求してくれるわけではない点は留意しておくといいでしょう。
弁護士
- どんな証拠を集めるべきかわからない
- タイムカードがなく、どのような手段で証拠を集めればいいのかわからない
- 会社相手に残業代請求の交渉をするのが難しい
上記に当てはまるような場合は、弁護士に残業代請求の代理を依頼しましょう。有効な証拠の集め方について助言してくれる上、適切な金額の残業代を獲得しやすくなります。残業代が高額になるようなケースでは、回収できる確実性を高める上でも弁護士への依頼をおすすめします。
まとめ
残業代請求をする上では、次の4点を検討しましょう。
- 1.現在の待遇が名ばかり店長にあたるのか
- 2.名ばかり店長にあたる場合に残業時間がどのくらいあって、残業代がいくら発生するのか
- 3.必要な証拠は残されているのか、どのように証拠を残すのか
- 4.どのような手段で交渉をするのか
ただ、長時間労働や転職活動と並行して残業代請求をするのは時間的にも精神的にも厳しいことかと思います。残業代が高額になるようなケースでは、弁護士に残業代請求の代理を依頼することも検討してみてください。