「長時間労働をしている割に、残業代の金額が安すぎる」と感じてはいないでしょうか。残業代の正しい計算方法を知ることで、違法なサービス残業をさせられていること、本当は残業代としていくら支払われているべきなのかといったことが明らかになります。
結論からお伝えすると、残業代の計算方法は次の通りです。
今回は、正しい金額の残業代を計算するために必要な知識をお伝えします。
金額を正確に計算することも必要ですが、1番大事なのは本来受け取れたはずの残業代と、現実の残業代の間にどの程度の乖離があるかを理解し、適切な行動を起こすことです。そのため、最初から完璧な計算を目指さず、大まかにでもいいので紙や電卓。ツールなどを使って計算をしてみることをおすすめします。
残業代計算の基本と用語解説
正しい計算をするためには、用語の定義を正確に把握する必要があります。ここでは、冒頭の計算式に出てきた言葉について補足をしていきます。
1時間あたりの賃金とは
法定時間外残業をすると、時給に割増率(1.25)をかけた金額が残業代として発生します。そのため、残業代の計算をするためにはまずは時給を把握する必要があります。
時給の計算方法は…
所定労働時間とは、契約上定められている労働時間のことを指します。所定労働時間は、法定労働時間である『1日8時間、週40時間』の範囲内で設定されています。
なお、例えば次の3点のように実際に労働をしていない時間は実働時間には含まれないので、除外して計算をしてください。
【実働時間に含まれないもの】
- 休憩時間
- 遅刻・早退
- 有給休暇
割増率とは
法定時間外労働・深夜労働をした場合、時給に割増率をかけた賃金が発生します。それぞれの倍率は次のとおりです。
割増の対象 | 説明 | 倍率 |
---|---|---|
法定時間外労働 | 1日8時間、週40時間を超える労働のこと | 1.25倍 |
深夜労働 | 午後10時から午前5時までの労働のこと | 1.25倍 |
また、午後10時から午前5時までの間に法定時間外残業をしていた場合は、深夜労働と法定時間外労働それぞれの倍率を合算した1.5倍が賃金として発生します。
残業時間の定義とは
上記にも残業時間についての説明が一部出てきましたが、今一度残業時間の定義について整理していきましょう。残業時間には、具体的に次の2つがあります。
残業時間 | 説明 | 割増率 |
---|---|---|
法定時間外残業 | 1日8時間、週40時間を超える労働のこと | 1.25倍 |
法定時間内残業 | 1日8時間、週40時間を超えない範囲内での残業のこと | 定めなし |
法定時間内残業は、例えば一日6時間など時短勤務などをしている場合に発生します。先ほど、企業は法定労働時間の範囲内で所定労働時間を決定できるとご説明しました。1日の労働時間が6時間の場合、2時間の残業をしていたとしても法定労働時間を上回ることにはならないため、残業に対して割増率がかけられることはありません(深夜労働の場合を除く)。
残業代はツールを使って計算すると便利
上記では、残業代を計算する上で最低限知っておきたい用語の意味について解説をしてきました。
残業代を計算する際は、『keisan』などのツールを使うとスムーズかと思います。
なお、1時間の賃金の計算方法などは以下で補足していますので、必要な方は併せてご確認ください。
残業代の計算方法|実際に計算をしつつ解説
ここでは、以下のAさんの状況を例に、実際に残業代を計算していきます。
残業代計算のモデルをAさんとする
Aさんの今月の労働時間を次のとおりとする
所定労働時間:1日8時間、週40時間
勤務日数:20 日
残業時間:20時間
残業代の計算式
ステップ1|1時間あたりの賃金を計算する
1時間あたりの賃金は、次の式で計算できます。
1時間あたりの賃金=月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間
Aさんの例で計算をすると…
1ヶ月あたりの平均所定労働時間は160時間なので…
1ヶ月あたりの平均所定労働時間=1日の所定労働時間×勤務日数
160時間=8時間×20日
1時間あたりの賃金は1,562.5円
1,562.5円=25万円÷160時間
ステップ2|(法定時間外)残業時間を計算する
1ヶ月の労働時間から、法定労働時間を差し引いた数値を計算してみてください。
法定労働日数が20日であれば、160時間が法定労働時間となります。160時間を超える労働をしていた場合は法定時間外残業にあたるので、割増賃金となります。
ステップ3|残業代を計算する
残業代=1時間あたりの賃金(時給)×割増率(1.25)×残業時間
39062.5円=1,562.5円×1.25×20時間
以上、Aさんの残業代を計算しつつ、残業代の計算方法を確認してきました。残業代を計算する上では、労働時間や用語の定義について、なるべく正確に把握することが必要です。
残業代が正しく支払われていない場合の相談先
残業代が正しく支払われていない場合は企業に未払い残業代を請求することができます。しかし、個人の力だけで交渉を全て行うのは時間的にも精神的にも負担があることでしょう。そんな時は、次のような相談先に連絡をしてみてください。
労働基準監督署
労働基準監督署は、労働基準法が遵守されているか確認する役割を持つ機関です。企業が法律を違反することがあった場合に、証拠を揃えた上で連絡をすれば、企業に対して捜査や是正勧告をしてくれます。
厚生労働省の総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーに連絡をすると、職場でのトラブルに関する相談に乗ってくれたり、解決のための情報提供を行ってくれたりします。各都道府県の労働局や、労働基準監督署内に設置されています。
弁護士
残業代請求を企業にしても素直に応じない場合、ご自身での請求が負担な場合などは弁護士への依頼を検討するといいでしょう。弁護士に依頼をすると、残業代請求や企業との交渉、必要な手続きを全て代理で行ってくれます。
企業と交渉するのは時間的にも精神的にも負担が多く、中には転職活動をする必要がある人もいるかもしれません。弁護士に依頼をすると、適切な金額の残業代を受け取れるだけでなく、次の職場探しなどに専念できるといったメリットもあります。残業代が適切ではなく、企業に請求をしたい方は一度ご相談ください。
まとめ
この記事では、残業代を計算する上で必要な用語の知識と、残業代の計算方法について解説をしてきました。残業代は過去2年分まで請求が可能です。これまで長い間、残業代を正しく支払われていなかったような方は企業に残業代請求をしましょう。お一人での問題解決が困難な場合は、弁護士に依頼をするとスムーズに残業代を獲得しやすくなります。