残業代請求をするための手段として、労働審判制度というものがあります。労働審判制度は当事者間の話し合いによって解決を図る仕組みで、訴訟をした場合よりも解決に時間がかからないメリットがあります。
この記事では、労働審判制度の概要と、メリットやデメリットなどについてご説明します。
労働審判制度の概要
ここでは、主に以下の点について解説していきます。
- 1.労働審判制度とは
- 2.労働審判と裁判の違い
- 3.労働審判で調停が成立するまでの期間
- 4.労働審判の費用
- 5.労働審判で残業代請求をするべき人
労働審判制度とは
労働審判制度とは、当事者同士が話し合い(調停)をすることで解決を図る手続きのことを言います。労働審判は裁判所で行われ、裁判官と2名の労働審判員が当事者の間に立ち話し合いが進められていきます。労働審判の手続きは3回の審理によって行われます。
労働審判と裁判の違い
裁判では、当事者が主張を戦わせることになるので、どちらかが勝ち、どちらかが負けるといったことが起こります。法的な解決を目指すため、実質的に弁護士への依頼が前提となるケースも普通であり、解決までお金と時間がかかります。
一方で、労働審判は話し合いによる解決を目指すものです。裁判と比べると、解決までがスピーディーであり、費用も抑え安くなります。
労働審判で調停が成立するまでの期間
労務安全情報センターのデータを見ると、労働審判のうち約7割が2~3ヶ月程度で調停成立に至っていることがわかります。
平均審理日数は74.0日
件数 | 割合 | |
---|---|---|
1ヶ月以内 | 474件 | 3.2% |
2ヶ月以内 | 5138件 | 34.7% |
3ヶ月以内 | 5414件 | 36.6% |
6ヶ月以内 | 3668件 | 24.8% |
1年以内 | 115件 | 0.8% |
合計 | 14809件 | 100% |
参照:労働審判制度~新規受付件数の推移[平成18年~26年]
労働審判の費用
労働審判にかかる費用は主に次の通りです。
印紙代 | 訴訟額による。100万円の訴額で労働審判を申し立てる場合の費用は5,000円(詳細:手数料額早見表(単位:円)) |
---|---|
郵券代 | 2,000円程度 |
弁護士費用 | 弁護士に依頼する場合に発生。60~100万円程度 |
労働審判で残業代請求をするべき人
次に当てはまるような人は、労働審判での残業代請求を検討するといいでしょう。
- 当事者のみでの交渉に不安がある人(裁判官、労働審判員が同席してくれる)
- 自力で話し合いをして解決を図れる人
- 残業代請求に時間や手間をなるべくかけたくない人
- 裁判をせずに解決を目指したい人
労働審判で残業代請求をするメリット
労働審判で残業代請求をするメリットには次のようなものがあります。
- 裁判よりもスピーディーな解決を目指せる
- 7割程度の確率で調停が成立する
- 労働審判員のサポートが得られる
- 法的に妥当な解決を目指せる
- 強制執行が認められる
それぞれ詳しくみていきましょう。
裁判よりもスピーディーな解決を目指せる
先ほど、労働審判の平均審理日数は74.0日であるとお伝えしました。労働訴訟を起こした場合、解決までに10ヶ月以上かかることも珍しくありません。訴訟と比較したときに時間がかからない点が、労働審判の大きなメリットの1つです。
7割程度の確率で調停が成立している
とはいえ、約3ヶ月程度時間と労力がかかってしまうので、労働審判が上手くいくかどうかは気になるところです。
弁護士白書を参照すると、2013年02017年の間に行われた労働審判のうち、7割程度が調停成立に至っていることがわかります(詳細:(1) 地方裁判所における労働審判事件の新受件数・既済件数)。
残業時間に関する証拠がある程度揃っていて、金額があまりにも高額でないようなケースでは、労働審判による残業代請求が有力な選択肢になるかもしれません。
労働審判員のサポートが得られる
法律が絡むトラブルを解決しようとすると、どうしても関連する法律や手続きの知識が必要になってきます。労働審判の場合、労働審判員がサポートをしてくれるので、自分で労働に関する法律を勉強する必要性が少なくなります。
法的に妥当な解決を目指せる
当事者間での交渉の場合、企業側が有利になってしまう可能性は否めません。しかし、労働審判では法律知識を持つ労働審判員が関わっているため、法律を無視したような結果にはなりにくいと考えていいでしょう。
少しでもフェアな土俵で交渉を進める必要がある方にとっては特にメリットが大きいかと思います。
強制執行が認められる
個人間のみでの交渉の場合、支払いを先延ばしにされることがあります。しかし、労働審判によって解決に至った場合は、万一の場合に強制執行が可能になります。
労働審判で残業代請求をするデメリット
労働審判は裁判よりも時間も手間もかからずに残業代を請求できる手段なので、交渉の手段としては基本的にメリットの方が多いように思います。しかし一方で、次の3点は留意しておく必要があります。
- あくまで自力で証拠集めや主張をする必要がある
- 妥協が必要になることもある
- 訴訟に移行することもある
- 地方裁判所でないと申し立てができない
あくまで自力で証拠集めや主張をする必要がある
労働審判員が間に立ってくれたり、助言をしてくれたりするものの、話し合いはあくまで自分主体で行わなければなりません。具体的には、残業時間の確認、残業代の計算、証拠集め、交渉などを限られた時間の中で行うことになります。
妥協が必要になることもある
話し合いでの交渉が主となるので、請求をする側も譲歩が必要になることが予想されます。請求した金額の満額を受け取れない可能性があることは覚えておきたいところです。
訴訟に移行することもある
労働審判がなされたとしても、相手が異議申し立てをすれば訴訟に移行することもあります。訴訟になった場合は1から手続きをやり直すことになるため、労働審判のために使った時間が一部無駄になってしまいます。
地方裁判所でないと申し立てができない
労働審判を申し立てるためには地方裁判所に行かなければなりません。自宅からのアクセスが良くない方にとってはデメリットとなります。
労働審判で残業代請求をする際に弁護士に依頼した方がいいケース
労働審判は個人でも進められますが、上記のデメリットを踏まえて考えると、弁護士に依頼をした方が有利になる場合も考えられます。弁護士に依頼をした方がいいケースについて見ていきましょう。
残業代が高額である
残業代が高額であればあるほど、交渉が難航したり、訴訟に移行したりする可能性が出てきます。残業代が高額な場合は、弁護士に依頼をしてできるだけいい条件で交渉をまとめるようにするといいでしょう。
残業代請求を自力でするのが難しい
証拠集めや手続き、交渉を自力で行う余裕がない方は、弁護士に任せることも検討するといいでしょう。交渉の成功率を高められる上、時間的・精神的余裕も生まれてくるので、転職活動などに専念しやすくなります。
弁護士保険に加入している
弁護士保険に加入していれば、労働審判にかかる弁護士費用を負担してくれます。普段から保険料を払っていることもありますし、依頼をしない理由の方が少ないでしょう。
まとめ
この記事では、労働審判の意味を確認した上で、メリットとデメリットなどについてお伝えしてきました。残業代を請求する上で、お役に立てれば幸いです。