未払い残業代を請求するには、タイムカードのような残業した時間がわかるような証拠の用意が求められます。タイムカードのコピーや写真、パソコンのログイン・ログアウトした時間などの記録は、証拠として確かに有効なのですが、それ以外にも就業規則や給与明細も証拠になります。
では、就業規則を会社が公開していなかったり、給与明細を従業員が紛失または破棄してしまったりして手元に残っていない場合、残業代の請求はできないのでしょうか?
就業規則も給与明細もなければ請求が難しい
タイムカードなど残業した時間がわかる記録だけでは、残業代を請求するのは難しいのが現実です。
というのも、未払い残業代は従業員自らが金額を計算して会社に請求する必要があるためです。タイムカードを確認すれば残業した時間はわかりますが、1時間あたりどれくらいの割増賃金が発生するのかは記載されていません。残業時間と毎月支給されている給与から、会社に請求できる残業代を割り出すため、就業規則と給与明細が必要となるのです。
就業規則と給与明細が証拠として重要な理由
会社の就業規則には、年間所定労働日数(年間の所定休日)、1日あたりの所定労働時間数(始業時間、終業時間、休憩時間)などが記載されています。他にも、みなし残業代を毎月支払っているのか、あるいは残業代は別途支給としているのかなども就業規則を見ればわかります。
また、給与明細から給与や手当の内訳から支払い済みの残業代の金額を把握できます。未払いの場合は未払い残業代の計算をするうえでも必要になります。
なお、過去の残業代は遡って2年まで請求できるので、2年分の給与明細があれば望ましいですが、どうしても用意できなければ最低でも3か月~半年程度の給与明細があると良いでしょう。また、源泉徴収票なども証拠になりうるので、あれば手元に残しておきます。
なければ弁護士または裁判所が開示請求できる
就業規則も給与明細も残業代を請求するうえで必要になるので、やはり保管しておいた方が賢明です。しかし、会社に就業規則と過去の給与明細の提示を求めたときに、「何に使うの?」など、理由を聞かれたら答えづらいものです。あるいは未払い残業代の請求をされると察知されたりするかもしれません。未払い残業代を請求されるとわかった途端、会社で冷遇されたり突然の異動命令が出されたりして、気まずい思いをする可能性もあります。
そこで、弁護士なら本人の代理として会社に開示要求することができます。本人が会社に直接請求する必要がないので、精神的な負担が軽減されることでしょう。ただ、弁護士の要求には拘束力がないため、会社側は開示要求を拒否することもあります。
そのようなときは、労働審判か訴訟により開示要求をします。証拠保全といい、裁判官が自ら会社に赴いて開示を要求するのです。ほとんどの会社はこの要求に応じ、その後労働審判や訴訟の手続きを開始します。
就業規則や給与明細がなくても未払い残業代の請求なら弁護士に相談を
実際に未払い残業代を請求しようとするとき、こうした証拠となる書類がそろっていない状態でご相談に来る方も珍しくありません。一部の零細企業の中には、就業規則も作成していないところもあり、証拠の用意が難しいこともあります。
ただ、就業規則や給与明細がなくても、未払い残業代を請求できる余地は残っています。証拠が足らずに残業代を請求できるかどうかわからないという方でも、未払い残業代を請求したい方は労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。