2020.06.16 2022.12.20

残業代請求に遅延損害金は発生しますか?

残業代請求に遅延損害金は発生しますか?

残業代の請求が遅れた場合、労働者は遅延損害金を請求することができます。退職後に発生する遅延損害金は、年利14.6%なので、残業代の金額によっては高額な遅延損害金を獲得できる場合があります。

この記事では、残業代請求における遅延損害金の意味や金額などについて解説をしていきます。
 

残業代請求に遅延損害金は発生する

残業代が支払われない場合や、支払いが遅れた場合は遅延損害金が発生します。

企業は従業員に対して賃金を支払う義務(債務)があります。残業代不払いのように、契約によって決められた義務を果たさないことを債務不履行といいます。

本来支払われるはずであった賃金の支払いが遅れた場合、その労働者は生活に困ることがあります。このような不法行為によって損害を被った場合、損害賠償請求が可能になります。

遅延損害金とは、文字通り金銭的な債務不履行に対して支払われる賠償金のことを指します。
 

遅延損害金の利率と計算方法

ここでは、遅延損害金の利率とその計算方法についてご説明します。
 

遅延損害金の利率

遅延損害金の利率は、退職前と退職後で異なります。

退職前の場合、株式会社のような営利企業であれば年利6%、N P O法人のような非営利企業であれば年利5%が遅延損害金として発生します。

退職後の場合は利率が大きく跳ね上がり、年利14.6%となります。
 

遅延損害金の計算方法

遅延損害金の計算式は次の通りです。

 

遅延損害金=残業代×利率(日割り)×遅延日数

以下の条件で遅延損害金を請求したとすると…

  • 退職後
  • 利率:14.6%
  • 残業代:10万円
  • 遅延日数:30日

1,200円=10万円×14.6%×30日÷365日
 
となり、1,200円の遅延損害金を請求できることになります。未払いの残業代が高額になったり、支払いが遅れたりするほど金額は膨れ上がるため、残業代の請求をする際は、残業代にあわせて遅延損害金も請求しておきたいところです。
 

法律上遅延損害金の支払いがされない場合とは

退職後の遅延損害金の利率については賃確法施行規則に定めがありますが、同法の第6条では、14.6%の年利が支払われないやむを得ない自由として、次の5点をあげています。
 

遅延利息に係るやむを得ない事由

法第六条第二項の厚生労働省令で定める事由は、次に掲げるとおりとする。

  • 一 天災地変
  • 二 事業主が破産手続開始の決定を受け、又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令(以下「令」という。)第二条第一項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなつたこと。
  • 三 法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること。
  • 四 支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること。
  • 五 その他前各号に掲げる事由に準ずる事由

引用元:賃確法施行規則第6条

天変地異があった場合や、企業が民事再生や特別生産、会社更生といった倒産手続きを始めた場合、法令の制限で資金確保が困難になった場合は、14.6%の年利が支払われなくなります。

もっとも、請求先の企業が上記のような状況にある場合は、残業代を請求しても支払いがなされるかどうか怪しくなってきます。経営状況が芳しくない企業に対して請求をする際は、できるだけ早めに交渉を始めるのが無難です。
 

残業代未払いで裁判になった場合に考えられること

残業代の未払いで裁判になった場合、遅延損害金以外にも次のような支払いが裁判所から企業に対して命じられることがあります。
 

付加金の支払いが命じられる

企業が時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払い義務を履行しなかった場合、裁判所によって付加金の支払いを命じられることがあります。

付加金とは、残業代とは別に支払わなければならない制裁金のことで、最大で残業代と同額の支払いを命じられます。

例えば、未払い残業代の金額が300万円だったとしたら、最大で600万円の支払い義務が企業に対して課される可能性があります。

もっとも、付加金が発生するのは、当該事案における残業代未払いの悪質性が高く、制裁を下す必要があると裁判所が判断した場合のみです。企業との任意交渉段階において、労働者が自由に請求できる性質のものではありません。
 

刑事罰が下される

残業代未払いがあった場合、労働基準法違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります。労働基準法違反で刑事罰が下されるような事案はさほど多くはありませんが、中には刑事罰に問われている企業もあります。

刑事罰が下されるような場合はテレビで報道されたり、ニュースがネット上に残ったりすることもありえるため、企業のイメージや信用を大きく傷つけます。このようなリスクをさけるためにも、未払い残業代を請求された場合、企業は交渉段階で支払いに応じるのが無難です。
 

残業代・遅延損害金を請求する方法

残業代とともに遅延損害金を請求する方法には、次のようなものがあります。
 

話し合いによる交渉

まずは、企業側と直接話し合いをすることで解決を目指しましょう。請求金額が少ないような場合などは話し合いだけで解決することも考えられますが、状況によっては交渉に応じてもらえなかったり、反論がなされたりすることも考えられます。

このような場合は、弁護士への依頼を検討しましょう。弁護士に依頼をすることで、残業代や遅延損害の金額が法的に妥当であることを主張し、適切な金額の残業代を獲得しやすくなります。
 

労働審判

通常訴訟よりも簡易な裁判手続きに、労働審判があります。労働審判では、労働審判間1名と労働審判員2名が、企業と労働者の話し合いに同席します。法律に精通する第三者が同席するので、法的に合理的な結果に落ち着きやすく、話し合いがまとまった場合は通常訴訟と同じような強制力が期待できます。

ただ、相手が異議申し立てをした場合は残業代が支払われないため、残業代を請求し続けるのであれば、通常訴訟へと移行することになります。
 

通常訴訟

労働審判による解決が難しい場合は、通常訴訟を検討することになります。通常訴訟では、残業代に関する証拠を参照しつつ、本人や証人対して尋問が行われ、最終的に判決が言い渡されます。通常訴訟をするような場合は、手続きが複雑になってくるため弁護士に依頼をするのが普通です。
 

残業代請求時に遅延損害金は請求できるが、支払われないことも多い

法律上、残業代未払いがあった場合は遅延損害金を請求できますが、実際には遅延損害金の支払いがされないことも少なくありません。その理由としては、次の2点があげられます。
 

交渉における譲歩として、遅延損害金がカットされることがある

企業に対して残業代請求の交渉をした場合、企業側が遅延損害金のカットを申し入れてくることがあります。遅延による利息が支払われないのは損をしているような気もしますが、遅延損害金の支払いを譲歩する代わりに、残業代を満額獲得できたり、早期に交渉がまとまったりする可能性があるなど、労働者にとってもメリットがあります。
 

裁判にならずに解決することが多い

遅延損害金の支払いが法的に確定するのは、裁判で判決が下されたときです。残業代を請求する場合は、裁判をする前に和解に至る場合がほとんどなので、上でご説明したように遅延損害金は譲歩されることも少なくありません。
 

まとめ

残業代の支払いが遅れた場合、法的には遅延損害金が発生しますが、残業代請求の交渉をするにあたって、譲歩の対象になることも珍しくはありません。支払ってもらえるかどうかはケースバイケースですが、交渉をする際の手札にはなりえるので、請求をして損はないでしょう。

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