2020.07.17 2022.12.20

企画業務型裁量労働制の適用が認められない場合の 残業代請求

企画業務型裁量労働制の適用が認められない場合の 残業代請求

企画業務型裁量労働制とは、事業運営に関する企画立案や調査分析を行う労働者に対し、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めたみなし労働時間分の賃金を支払うための制度です。

企画業務型裁量労働制の対象業務は使用者の主観によって広く解釈できるものであるため、制度の濫用がされないよう厳しい要件が課されています。

この記事では、企画業務型裁量労働制の要件と、制度が認められない場合の残業代請求の方法などについて解説していきます。
 

企画業務型裁量労働制の要件

企画業務型裁量労働制が有効であるためには、以下の要件を満たしている必要があります。以下の点に当てはまらない場合は制度が悪用されており、正しい金額の残業代が支払われていない恐れがあります。
 

事業運営の企画、立案、調査及び分析の業務であること

事業運営の企画立案や、調査分析を行う業務が対象となります。この条件に当てはまる業務には、例えば次のようなものがあります。

  • 経営企画部で、経営状態や経営環境の調査をし、経営戦略を立案している
  • 人事労務部で、現在の人事制度の調査を行い、新たな人事制度の導入をしている
  • 人事労務部で、従業員の教育や研修計画の立案をしている
  • 財務部で、財務状況の分析と財務計画の策定をしている
  • 営業企画部で、営業成績を分析し、営業計画の策定をしている
  • 広報部で、有効な広報手法の調査分析をし、広報の企画をしている

 

業務の手順や時間配分について使用者が具体的な指示をしない

企画業務型裁量労働制の有効性を否定する際に、根拠になりやすいポイントの1つです。

業務の手順や時間配分について、使用者が労働者に対して指示ができない職種である必要があります。

ただ、使用者から労働者に対する基本的な指示命令が不可能になるというわけではありません。例えば、タイムカードに打刻をすることや会議への参加を指示することなど、業務の進め方や時間配分以外の指示をすることは可能です。
 

対象業務が存在する事業場であること

対象業務が存在する事業場とは、以下の事業場のことです。

  • 本社・本店にあたる事業場
  • 企業運営に大きな影響を及ぼす決定がなされる事業場。もしくは、本社・本店の指示を受けずに、当該事業場の事業運営に大きな影響を及ぼす決定がなされる支社・支店

 

対象労働者であること

業務を遂行するための知識・経験を持っている労働者が対象になります。
 

対象労働者が個別合意をしていること

同制度を適用する旨を対象の労働者に伝え個別合意を得る必要があります。
 

労使委員会が設置されていること

労使委員会とは、労働条件に関する調査と話し合いを目的に設置される委員会です。労働法38条の4第2項の要件を満たす労使委員会が設置されている必要があります。
 

労使委員会の委員の5分の4以上の多数により決議がなされたこと

労使委員会にて、以下の項目について委員の5分の4以上の多数により決議をする必要があります。

  • 対象業務の具体的な範囲
  • 対象労働者の具体的な範囲
  • みなし労働時間
  • 健康及び福祉確保措置の具体的内容
  • 苦情処理措置の具体的な内容
  • 本制度適用には対象労働者の同意が必要な旨・不同意の労働者に対して不利益扱いをしてはならない旨
  • 決議の有効期限
  • 制度の実施状況に関する記録を保存すること

 

労働基準監督署長に届け出がされていること
上記の項目について決議をした上で、労働基準監督署長への届け出をする必要があります。
 

就業規則または労働協定で定められていること

労使委員会における決議の内容を、就業規則または労働協定においても定めていなければなりません。
 

企画業務型裁量労働制の適用が認められない場合の残業代請求

上記では、企画業務型裁量労働制が有効であるための要件についてお伝えしてきました。例えば以下のようなケースに該当する場合、同制度が正しく運用されていない可能性があります。

事業運営に直結するような企画や調査を行っていなかった
仕事の進め方について上席から具体的な指示があった
就業規則や労働協約に、企画業務型裁量労働制を採用する旨の記述がない

同制度の対象業務は範囲が広く解釈されやすいので、現在の業務が対象業務にあたるかどうかについては特に確認しておきたいポイントです。
 

残業代請求に必要な証拠を集める

企画業務型裁量労働制の有効性を否定した上で残業代を請求するためには、制度が有効ではないことを証明するための具体的な証拠を収集する必要があります。証拠には、例えば次のようなものがあります。
 

企画業務型裁量労働制が有効ではないことを示す証拠
  • 就業規則
  • 雇用契約書
  • 労使協定の議決書
  • 仕事の指示を受けたことがわかるメール・チャットなど

また、制度の有効性を否定した場合は、請求する残業代の金額を計算しなおすことになります。計算をするには、実際の残業時間を算出するために、タイムカードのような証拠が必要になります。
 

残業時間や賃金がわかる証拠
  • タイムカード
  • P Cのログイン・ログオフ記録
  • I Cカードなどによる入退室記録
  • 給与明細
  • メールやメッセージの送信履歴
  • 業務日誌

 

残業代の計算方法

企画業務型裁量労働制が有効でない場合の残業代の基本的な計算方法は次の通りです。

 

残業代=基本給÷1月あたりの平均所定労働時間×割増率×実際の残業時間

 

所定労働時間とは、当該企業における労働時間のことで、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)の範囲内で決定されます。

基本給を1月あたりの平均所定労働時間で割ることで、基礎時給を算出できます。この基礎時給に対して、労働の種類に応じた割増率とそれぞれの残業時間をかけることで残業代を計算できます。

なお、割増率は労働時間に応じて次のように決められています。

  • 労働時間
  • 割増率
  • 法定時間外残業
  • 1.25

 

月60時間を超える残業

1.5
 

法定休日労働

1.35
 

深夜労働

0.25
 

法定時間外残業かつ深夜労働

1.5
 

法定休日労働かつ深夜労働

1.6

残業代を算出する際は複雑な計算が必要になります。まずは、『残業代の計算|CASIO』などで大まかな残業代を計算されてみてはいかがでしょうか。
 

企業と交渉をする

証拠を揃えて残業代を計算したら、企業に対して残業代を請求します。まずは企業側の担当者と直接話し合いをすることになりますが、交渉が難航する場合は内容証明郵便を送付して残業代請求をしている証拠を残したり、労働審判や通常訴訟といった方法を検討したりしていくことになります。

企画業務型裁量労働制が有効ではないことを主張する場合、相手方が素直に応じず反論をしてくる可能性は大いにあります。弁護士に依頼をした場合は、法律に則って企画業務型裁量労働制の有効性を否定し、適切な金額の残業代を獲得しやすくなります。残業代の請求を検討している場合は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
 

まとめ

この記事では、企画業務型裁量労働制が有効であるための要件と、有効性が認められない場合の残業代請求のしかたについてご説明してきました。残業代請求でお困りの方は、是非一度ご相談ください。

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