- 「ウチは歩合給だから残業代は出ない」
- 「歩合給の中に定額残業代が含まれているから、残業代はもう払われている」
など、歩合給制を導入している企業では上記のような主張がなされることがあります。
確かに、歩合給は成果に対して支払われる賃金であるため、残業をしても成果がでていなければ賃金は発生しないようにも思えるかもしれません。歩合給に定額残業代が含まれているとしても、時給を計算したらあまりに金額が低く、残業代が正しく支払われているのか気になっているような人もいるのではないでしょうか。
この記事では、歩合給制や定額残業代をめぐる上記のような疑問に対して、用語の意味を説明しつつ解説をしていきます。
歩合給制・定額残業代とは?
まず、歩合給制と定額残業代の意味について確認していきましょう。
歩合給制とは?
歩合給制(出来高払制)とは、仕事の業績や出来高に応じて金銭を支払う方法のことをいいます。
歩合給制には、次の2種類があります。
- 固定給+歩合給
- 完全歩合給制
上記のうち、労働基準法において完全歩合制は認められていません。完全歩合制の場合は、成績が悪かった際に最低賃金が保証されない可能性があることから、日本においては違法とされています。
歩合給を支給する場合でも、使用者は、労働者に対して一定額の賃金(固定給)を保証する必要があります。
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
引用元:労働基準法第27条
なお、歩合給と混同されがちなものに請負契約があります。請負契約とは、成果物に対して報酬を支払う契約のことで、完成された成果物に対して支払いを行うものです。
これに対して、歩合給は労働契約が締結されたうえで、仕事の成果に応じた賃金を支払うシチュエーションを想定したものです。請負契約と労働契約は別の契約になるので、混同がないよう注意する必要があります。
定額残業代とは?
定額残業代とは、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金をあらかじめ定めた一定の金額で支払うことです。
時間外労働や休日労働に対しては、一定の割増賃金を支払う必要があるため、賃金の計算が複雑になることがあります。定額残業代を導入している場合はこのような計算が必要なくなるので、給与計算の負担を軽減できるメリットがあります。
ただ、一定の残業代を支払えば何時間でも労働者に残業をさせられるわけではありません。定額残業代が有効であると認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 定額残業代部分と、基礎賃金部分が明確に区別されている
- 何時間分の残業代なのかが明確である
- 定額残業代でカバーできる範囲を超える、別途割増賃金が支払われている
使用者は、上記の要件を満たしたうえで、労働者と労働契約を締結する必要があります。
歩合給制や定額残業代に関してよくある疑問
歩合給制や定額残業代を悪用し、本来労働者に対して支給するべき残業代をごまかす企業があります。ここでは、歩合給制や定額残業代についてよくある疑問や誤解について解説します。
「歩合給制だから残業代がでない」は正しいのか?
歩合給は仕事の成果に対して支払われる賃金です。そのため、いくら残業をしても成果が出ていなければ、残業代は支払われないと考える人もいますが、これは誤解になります。
残業代とは、週40時間または1日8時間の労働時間(法定労働時間)を超える労働時間に対して支払われる賃金のことです。法定時間外労働に対しては、基礎賃金に対して一定の割増率をかけた割増賃金を支給しなければなりません。
労働基準法第37条では、割増賃金の対象にならない賃金として、次のものを上げています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(出産祝金など)
- 賞与
歩合給は上記に含まれていません。したがって、企業は歩合給を採用している場合でも、残業時間に応じて残業代を支給する必要があります。
「歩合給制に定額残業代が含まれている」という主張は認められるのか?
上記の主張に関しては、定額残業代が正しく運用されている限りは有効になります。
先ほどご紹介した、定額残業代が有効となる要件を復習しましょう。
- 定額残業代部分と、基礎賃金部分が明確に区別されている
- 何時間分の残業代なのかが明確である
- 定額残業代でカバーできる範囲を超える、別途割増賃金が支払われている
上記を満たしている限りは違法にはなりませんが、以下のような場合は残業代が適切に支払われていない可能性があります。
- 給与明細を見ても歩合給部分と残業代部分が区別できない
- 定額残業代が何時間分の残業に対して支払われるものなのか、明示されていなかった
- 定額残業代で定められている残業時間を超えた残業をしても、追加で残業代が支給されなかった
- 残業をしても割増率を反映した歩合給が支払われていなかった
- 雇用契約書や就業規則に定額残業代に関する条項がない、または内容が不十分
現在のご状況が上記でお伝えした点のいずれかに近い場合は、歩合給制や定額残業代を悪用して賃金をごまかされている場合があるので、一度弁護士に相談して事実確認をすることをおすすめします。
歩合給制での残業代計算方法
残業代の計算式
- 残業代=基礎時給×割増率×残業時間
残業代の基本的な計算式は上記のとおりです。歩合給制で残業代計算をする際は、固定給部分に対する残業代と、歩合給部分に対する残業代を別々に計算する必要があります。
固定給に対する残業代の計算式
- 残業代=固定給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間(*1)×1.25×残業時間
- *1 企業が定めている1ヶ月あたりの平均労働時間のこと
歩合給に対する残業代の計算式
- 残業代=歩合給÷総労働時間(*2) ×0.25×残業時間
- *2 所定労働時間に残業時間を合計した労働時間のこと
歩合給制や定額残業代が悪用されている場合に集めるべき証拠
残業代を請求する際は、残業代未払いがあったことがわかる客観的な証拠を入手する必要があります。歩合給の場合は、次のような証拠を集めておきましょう。
残業代未払いがわかる証拠
- 雇用契約書
- 就業規則
- 給与明細
残業時間がわかる証拠
- タイムカード
- 入退室記録
- P Cのログイン・ログオフ記録
- 業務日誌
- メールやチャットツールにおけるメッセージの送信履歴
上記の原本ではなく、コピーや印刷をしたものでも構いません。
まとめ
この記事では、歩合給制と定額残業代の意味についてご説明した上で、両者が正しく運用されているかどうか判断するためのポイントなどについて解説してきました。
歩合給制における残業代の計算方法は複雑ですので、請求をする前に弁護士に相談をすることをおすすめします。なお、残業代を請求する際は企業との交渉が必要になりますが、弁護士に交渉の代理を依頼することで、よりいい結果を得やすくなります。