2020.07.31 2022.12.20

ホテル業界の残業代事情

ホテル業界の残業代事情

ホテル業界では、人材不足や高い離職率、長時間残業などが問題になっています。特に繁忙期は長時間残業が続きがちであり、肉体的にも精神的にも疲れが蓄積してしまいます。

しかし、ホテル業界においても、悪質な企業による残業代の未払いが度々発生しており、ニュースなどで報じられることも少なくありません。この記事では、ホテル業界の労働環境や、実際に起こり得る残業代トラブルの例についてご紹介します。
 

ホテル業界を取り巻く労働環境

ホテル業界は人手不足や高い離職率が続きがちな業界であり、現場で働く労働者に対して違法な長時間労働が課されることも珍しくはありません。ここでは、ホテル業界を取り巻く労働環境についてご説明します。
 

人材不足


引用元:人手不足に対する企業の動向調査(2019 年 10 月)|帝国データバンク

帝国データバンクの調査では、正社員が不足している業界の上位7位に、非正規社員が不足している業界の上位3位に旅館・ホテル業界が入っています。

外国人観光客の増加や東京オリンピックに向けたホテルの建設増加など、ホテル業界の仕事自体は増えてはいるものの、働き手の数自体は増えておらず、ニーズの増加に対して人手の供給が追いついていない状況が起きています。
 

高い離職率


引用元:平成 30 年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省

上の図は厚生労働省による産業別の入職率・離職率を調査したものですが、対象の産業の中でも宿泊業・飲食サービス業が入職率(29.3%)離職率(23.9%)ともに最も高くなっています。

人手不足も相まってホテル業界では休みが取りにくいと言われており、特に繁忙期は有給取得が困難であることに加え、長時間の労働になりがちです。長時間労働によって肉体的にも精神的にもきついという理由から、退職に至るケースもみられます。

また、以下の調査からもわかるように、宿泊業・飲食サービス業は他の業種と比べて給与水準が低く、この点も高い離職率を助長する要因になっている可能性があります。

引用元:平成30年賃金構造基本統計調査|厚生労働
 

ホテル業界と関係性の深い労働基準法

労働基準法とは、労働時間や休憩、休日に関するルールを定めた法律です。ここでは、労働基準法のうちホテル業界で働く人が押さえておきたいルールについてご説明します。
 

変形労働制

ホテル業界では、繁忙期や季節、曜日によって従業員の忙しさに差が出てきます。このような不規則な労働時間の変動に対応するための制度が変形労働制です。

労働基準法では、基本的な労働時間を1日あたり8時間、または1週間あたり40時間(法定労働時間)と定めており、これを超えた場合は法定時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。

変形労働制を採用している場合、月単位・年単位で法定労働時間を調整できるようになります。月単位・年単位で法定労働時間を平均したときに週40時間になっていれば、法定時間外労働として割増賃金を支払う必要はありません。
 

休日のルール

通常、使用者が休日を与える場合は0時から24時までの丸一日を休日として与えなければなりませんが、旅館業の場合は2日間をまたぐ形で休日を付与することが可能です。例えば、朝の10時に退勤し、翌日夜の20時に出勤をするようなケースがこれにあたります。

このルールを採用するためには、正午から翌日正午までの24時間を含む30時間を休憩時間として確保することや、2日間をまたいで休日を付与する旨をあらかじめ労働者に対して告知している必要があります。
 

残業や深夜労働などに対する割増賃金

ホテル業界では10時以降も労働をしたり、法定休日であってもやむなく出勤したりすることがあるかと思います。このような深夜労働や法定休日労働に対しては、基礎時給に一定の割増率をかけた割増賃金を支給する必要があります。

労働時間ごとの割増率は次の通りです。

  • 労働時間
  • 割増率
  • 法定時間外残業
  • 1.25

 

月60時間を超える残業

1.5
 

法定休日労働

1.35
 

深夜労働

0.25
 

法定時間外残業かつ深夜労働

1.5
 

法定休日労働かつ深夜労働

1.6

このような割増率を賃金に反映していない場合は、労働基準法違反であり、未払いの賃金を請求できる場合があります。
 

労働時間の上限に関するルール

労働基準法では、法定労働時間を1日あたり8時間、または1週間あたり40時間と定めています。これを超える労働(法定時間外労働)をさせる場合、36協定を結ぶことで、月45時間・年360時間まで残業をさせられるようになります。

また、特別な事情がある場合は特別条項によって更なる残業をさせることができます。

ただし、特別条項がある場合でも、以下の条件は守らなければなりません。

  • 時間外労働は年720時間まで
  • 1年間を通して、常に時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 1年間を通して、常に時間外労働と休日労働の合計に関して、2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均が全て1月あたり80時間以内
  • 時間外労働が45時間を超えるのは年6ヶ月まで

 

ホテル業界における残業代に関するトラブルの例

上記のように、労働基準法では使用者が守るべき決まりについて定められていますが、悪質な企業はこのような決まりを無視または悪用し、労働者の残業代を誤魔化していることがあります。

ここでは、ホテル業界において、残業代が正しく支払われていない例についてご説明します。
 

変形労働制の悪用

「変形労働制だから残業代は出ない」と言われることがありますが、一概にそうとは言い切れません。

  • 変形労働制でも残業代が出るケースとして、次の2つが考えられます。
  • 変形労働制を採用する要件を満たしていない
  • 変形労働制で定められた時間以上の労働があった

特に人手不足であるホテル業界では、1月あたり、または1年あたりの労働時間を平均した場合に、1週間あたり40時間の労働を上回っていることも珍しくはありません。このような労働に対しては、時間外労働による割増賃金が支払われるべきです。
 

サービス残業

残業が2時間を超えたらタイムカードを切らせるなどして、残業時間を実際よりも少なく記録することがあります。このようなサービス残業は違法であるので、実労働時間に基づいて残業代を請求できます。サービス残業が見られる場合は、例えばP Cのログイン・ログオフ記録を保存するなど、自力で証拠を残しておく必要があります。
 

名ばかり管理職

労働基準法の管理監督者の要件を満たす場合は残業代が支払われません。管理監督者の要件を満たさない労働者の肩書を管理職にし、残業代の支払いを逃れるようなケースが名ばかり管理職にあたります。
 

固定残業代の悪用

固定残業代とは、あらかじめ定めた残業代を、固定給として支払う方法です。

例えば、月間20時間分の残業代として5万円を支給するといったように、何時間の残業に対する残業代なのかを明示しなければなりません。

この場合、20時間を超える残業に対しては別途割増賃金を支給する必要があるのですが、中には何時間分の残業代なのかを明示していない場合や、想定した残業時間を超える労働に対して残業代を支払わない場合があります。

固定残業代とは、一定の残業代を支払っていれば好きなだけ残業をさせられるものではないので、上記のようなケースが見受けられる場合は、残業代を請求しましょう。
 

まとめ

この記事では、ホテル業界における残業代事情についてご説明してきました。『ホテル業界における残業代に関するトラブルの例』でご紹介した内容に思い当たる節がある方は、一度残業代請求を検討してみてください。

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