残業代をめぐる労働者と企業側のトラブルは後を絶ちません。
トラブルを回避するためにも、残業代の計算をしっかり行い未払いを回避していく必要があります。
そこで今回は残業代を計算する上で注意すべきところを解説しましょう。
残業代の基本
残業は法定内の労働を超えて働く労働者に対して支払う手当です。
未払いは労働者とのトラブルの元となるので、正確に計算するためにもまずは残業代の基本から確認していきましょう。
残業代は1時間あたり25%の割増
法定内労働とは、週40時間・1日8時間の労働を指します。
これを超過すると法定時間外労働(残業)となり、1時間あたりの賃金25%割増された金額が残業代に当たります。
時短勤務や週の勤務日数が少ない人などは週40時間・1日8時間の労働を超過するケースが少ないです。
そのため、残業代が発生しないと考える人もいますが、企業が定める定時を超えての労働となった時は法定内残業に該当します。
法定内残業の場合は法律では割増賃金の規定はないものの、1時間あたりの賃金を支払う必要があります。
また、企業によっては独自に割増賃金を設定して支払っている場合もあります。
基本的な計算方法
残業代は「時給×1.25(割増率)×残業時間」の計算式で算出できます。
例えば、実質8時間の労働で月収30万円の会社員が1ヶ月間(約21日)で20時間残業をした場合、時給は1785円です。
計算式に当てはめると「1785円×1.25×20時間」となるので、その月の残業代は44,625円と求められます。
企業側は適切に残業代を支払うためにも、労働者一人ひとりの労働時間を把握できるようにしっかり管理していく必要があります。
また、会社側に未払いの残業代を請求したい労働者も請求できる金額を把握する意味で、残業代の計算方法を覚えておくと役立ちます。
より正確に計算する方法
基本的な計算式を使えば大まかな残業代を把握できますが、実際は給料に含まれる諸手当や残業の種類に応じた割増率も考慮して計算します。
やや複雑になりますが、より正確に計算する方法をご紹介しましょう。
時給は諸手当を除外する
残業代の計算に必要な1時間あたりの賃金は、諸手当を差し引くことでより正確な時給を求められます。
時給の計算方法は「(月給-諸手当)÷1日の所定労働時間(定時)×21日(休日の数など月によって変動)」で求めることが可能です。
そして、残業代から除外される諸手当や賃金は下記のものが挙げられます。
- 家族手当(扶養手当)
- 子女教育手当
- 通勤手当
- 別居手当(単身赴任手当)
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 賞与や精勤手当など
残業の種類によって割増率を変えて計算
基本的の割増率は25%(1.25)ですが、残業した時間帯や休日労働の場合は割増率が変わってきます。
そのため、残業の状況に合わせて割増率を変更して計算した方が、正確な残業代が出てきます。
それでは、時間外残業の種類と割増率を見ていきましょう。
- 1ヶ月60時間以上の法定時間外労働:50%(代替休暇を取得している時は25%)
- 深夜労働(午後10時から午前5時まで):25%
- 法定休日に労働した場合:35%
- 法定時間外労働(25%)+深夜労働(25%):50%
- 1ヶ月60時間以上の法定時間外労働(50%)+深夜労働(25%):75%
- 法定休日に労働(35%)+深夜労働(25%):60%
1ヶ月の労働時間が60時間を超える場合は、割増率が50%に上がります。
深夜労働に関しては25%と割増率は変わりませんが、午後11~翌朝5時の中で残業をした時や休日労働が重なると割増率が加算されます。
休日労働の場合、「週1日」もしくは「4週間のうち4日以上」と労働基準法で定められている法定休日に出勤した時は、通常よりも高い割増率で計算します。
しかし、法定外休日だと残業が発生しても25%の賃金割増はないので注意してください。
ケース別・残業代の計算と考え方の注意点
企業によって、裁量労働制や変形労働時間制、日給制を採用している場合があります。
その場合、どのように残業代が計算されるのでしょうか?
ここからはケース別に残業代の計算や考え方における注意点を見ていきましょう。
裁量労働制
実際に労働した時間に関係なく、事前に決められた時間働いたとみなす勤務体系で、みなし労働とも呼ばれています。
例えば、1日8時間のみなし労働時間を設定されていた場合、実質の勤務時間が5時間でも10時間でも8時間の労働として扱われます。
そうなると残業代は出ないのではと思われますが、実際は1ヶ月の実働時間の合計が見なし労働時間を超過する場合は残業代の支払いが必要です。
裁量労働制の場合は、「時給×超過して働いた時間×1.25%」で残業代の算出できます。
変形労働時間制
1年や1ヶ月などの単位で必要な労働時間が偏る場合、週40時間・1日8時間を超えて働けるようにする制度です。
変形労働時間制の場合は月または年単位で決まった時間内に労働している場合は、残業をしていたことにはなりません。
また、変形労働時間制の1つにフレックスタイムと呼ばれる出社時間と退社時間を自由に選択できる勤務形態があります。
フレックスタイムの場合は清算期間と呼ばれる労働時間の基準となる期間があり、多くの企業が1ヶ月単位で清算しています。
この清算期間が1ヶ月でも1年でも、週の労働時間が40時間を超えていれば残業代が発生する基準となります。
つまり、1ヶ月または1年の所定労働時間の合計が基準を超える場合は25%割増の残業代の支払いが必要です。
日給制
日給制も所定労働時間を超過して働いた場合は残業代が発生します。
月給制と同じく「日給制÷所定労働時間」で時給を求めて、25%の割増賃金と残業時間をかければ計算できます。
残業代の支払いや計算で意識しておきたいこと
残業代の計算や支払いでは他にも注意したいことがあるのでご紹介します。
無断残業をする労働者を出さない
正確に残業代を求めるためには、労働者の実質の勤務時間を把握しなければなりません。
しかし、中には上司や会社の許可なく無断で残業を行っている場合もあります。
この場合、企業にとっては無駄に人件費をかけてしまうため、サービス残業と扱われて労働者と未払いをめぐりトラブルになる場合があるでしょう。
残業は監視下にある状態で行われるものと、認識を浸透させたり、就業規則に規定を設けたりする必要があります。
また、残業代を支払わせたくないからと無断残業を推奨するような行為も避けなければなりません。
1分単位での計算が原則
会社の中では10分未満や15分未満の労働は切り捨てるという考えもあります。
しかし、原則残業代は1分単位で発生するので、10分や15分未満の切り捨ては未払いと扱われる場合があるでしょう。
トラブルを防ぐためにも、残業代は1分単位で計算した方が良いです。
ただし、1ヶ月間の時間外労働を計算する時に1時間未満の端数が発生した場合に限り、30分未満で切り捨て、30分以上で1時間切り上げするケースは認められています。
まとめ
残業代の未払いは長く続けば続くほど、膨大な金額の支払いが求められてしまいます。
状況次第では罰則や罰金を科せられるリスクがあるので、賃金を支払う企業側は適切に労働時間を管理して計算し、毎月支給していく必要があります。
また、残業代が入れないと悩む労働者はどれだけ未払いなのか把握し、訴える準備を進めることも大事です。