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【修習生の方必見!】雇用契約と業務委託契約(委任契約)の待遇の差について(代表弁護士 田中今日太)

こんにちは。

代表弁護士の田中です。

今回は、修習生の皆さん、あるいは弁護士の方でも知らないかもしれない、「雇用契約」と「業務委託契約」(委任契約)との待遇の差についてお話させていただきます。

皆さんが、弁護士の求人を見るにあたって、まず初めに見るところはどこでしょうか?

・・・・・

私は、「給与」だと思います。

自分がその事務所で働くことで、いくらの給与が得られるのかは最も関心事だと言っても過言ではありません。

そして、法律事務所の中には【年収600万】と設定されていることがあります。

この金額だけ見ると、この不景気の時代に、初年度でそれだけの金額がもらえるんだと思われる方も多いかもしれません。

もちろん、中には1年目から1000万近くの報酬が得られる事務所もあるでしょう。

しかし、その分激務であったり、同期の競争が激しくて長く働けるかどうか分からなかったり、そもそも就職が難しかったりもします。

他方で、大量の事件処理をこなすため多くの人員が必要である事務所は、比較的就職が容易でありつつも、1年目から年収600万円もらえる事務所もあるので、

人によっては、これは好条件だと思われるかたもおられるでしょう。

しかし、留意しなければならないのは、その契約が、【雇用契約】なのか【業務委託契約(委任契約)】なのかです。

実は、二つの契約は、全然意味するところが異なります。

ですから、意味を理解した上での比較検討が必要だと思います。

1 雇用契約の方が、業務委託契約に比べて、手元に残る金額が多くなること

まず、大前提として、雇用契約は社会保険もつくし税金の点でも優遇されているのに対し、業務委託契約は、社会保険はつかず税金の点でも雇用契約に比べて劣っています

下記の内容は、それぞれの年収でシミュレーションしたものです。

一応それぞれの前提条件はありますが、概ね1年目の皆さんの実態には沿っているのではないかと考えています。

これをご覧いただいてお分かりかと思いますが、

手取りで皆さんの手元に残る金額が、雇用契約の正社員(600万円)は4,581,780円,業務委託契約(600万円)では4,132,000円であって、約40万円程度の差があります。

つまり、雇用契約の正社員(600万円)と業務委託契約(600万円)では、手取り金額は、雇用契約の正社員の方が有利だということです。

ちなみに、会社の負担額も、見ていただいて分かりますが、雇用契約の正社員(600万円)が6,936,300円、業務委託契約(600万円)が6,000,000円です。

よって、会社の負担で言うと、なんと約100万円もの差があるということですね。

では、例えば、年収550万円の雇用契約の正社員の場合(ロイハイの求人です。)はどうなるのでしょうか?

この場合には、手取り金額について4,204,416円となります。

となると、業務委託契約の600万円よりも、正社員の雇用契約の年収550万円の方が、皆さんの手元に残るお金は多い、ということになります。

他方で、会社の負担額でみると、6,378,794円となります。

つまり、業務委託契約の600万円よりも多い、ということになります。

さらに言うなら、雇用契約の場合には、社会保険が付きますので、「厚生年金」になります。

他方で、業務委託契約の場合には、「国民年金」です。

常識なので詳しく説明はしませんが、「厚生年金」の方が多くの年金をもらえることは明らかです。

最近では、我々の世代の老後では年金がもらえるかどうかわからない、というような話を聞きますが、

少なくとも厚生年金の方が国民年金よりはもらえる可能性が高いことは明らかです。

このように考えると、業務委託契約の年収と雇用契約の年収の手取りで比べた場合には、雇用契約の方が有利だということになりますし、

業務委託契約の年収よりも雇用契約の年収の方が多少低くとも、手取り金額で言うと逆転現象が起きるのです。

しかし、ここまで詳しく「手取り金額」や「会社の負担額」、「年金」について語っている事務所はおそらくないのではないでしょうか?

「年収600万円」の業務委託契約の方が見栄えがよいですし。

正直、私も上記のようなことを書くよりも、率直に600万円の業務委託契約としてしまった方が楽ですし、経営的にも会社の負担額も少なくなるので、そっちの方がいいようにも思いました。

しかし、私が最初に入所した事務所はありがたいことに「雇用契約」でした。

当時の私は、ここまで差が出るとも考えていなかったですし、待遇に差があることも知りませんでした。

今振り返って考えてみれば、私自身知らぬうちに恩恵を受けていたわけです。

ですから、私は「雇用契約」で良かったと思い、同じく皆さんにもそれを知ってほしいし、ちゃんと理解したうえで事務所を選択いただくのがよいと思いました。

2 雇用契約(正社員)は期間の定めがないのに対し、業務委託契約は契約期間が定められていること

さて、雇用契約(正社員)は、期間の定めがありません。

つまり定年を迎えるまでの間、法的な解雇事由がなければ、基本的にずっとその会社で働き続けることができます。

他方で、業務委託契約は、契約期間が定められているので、もしも契約期間を満了する際に更新がされないこともありますし、

あるいは報酬などの条件の変更がされた上でなければ、更新されないということもありえます。

事務所によっては、報酬制度が存在し、それに基づいて報酬が算定されることがあるようです。

報酬制度は、その報酬制度がその人にマッチしていれば、多くの報酬が得られる人もいるかもしれないし、他方でマッチしなければ、逆の結果になるかもしれません。

人によっては、年度によって、よい報酬のときもあれば、そうではないときもあるかもしれず、報酬が年度により不安定になるという方もおられるかもしれません。

そうなると、目先の利益に振り回されて、さして依頼者に利益もないのに、受任率や受任件数、報酬を稼ぐために、無理に依頼を受任しなければならないということもあるかもしれません。

他方で、雇用契約は「給与」ですので原則として従業員側の同意がない限り、下げることはできません。

その意味で、給与は安定的にもらえるのに対し、業務委託契約による報酬は、人や年度の成果によって変動があるがときに報酬が高くなることもある、と考えられることになります。

他方で、事務所によっては、給与の場合には昇給に関しては謙抑的になる可能性もあります。なぜなら、一度昇給させると、従業員側の同意がないと下げられないからです。

従業員側、会社側には、このようなメリットデメリットがありますが、私も悩みに悩んで「雇用契約」を選択しました。

なぜなら、雇用契約の方が安定して勤務が可能だからです。

修習生の皆さんにとっては特に言えることですが、初めの数年間は下積み期間として、事件処理に集中して弁護士としての実力を身につけることが大切です。

受任率、受任件数、報酬に血眼になって目先の利益に振り回されるのではなく、しっかり依頼者の利益を考えて事件処理をしてほしいと考えています。

(無論、依頼者の利益になるなら、積極的に依頼をいただき、事件処理をしていただくことは私も大いに賛成です。)

その意味で、安定して勤務が可能である雇用契約の方が望ましいと私は考えています。

ところで、当事務所では、概ね3年以上勤務いただいた方の年収は700万円以上に昇給していますし

(もちろん働きによるので皆さんが皆さんそのようになるとは限りません。その点は申し訳ありません。)

オフィス長になった方は1000万円以上の方もいます。

ですので、雇用契約で安定して勤務を可能にしつつも、昇給もさせていきたいというのが私の考えです。

両立が難しいものを両立させる。

これぞ、経営努力としか言いようのないところですね(笑)

ところで、もちろん、業務委託契約であっても、事務所によっては安定的に働くことができる事務所もあるでしょう。

それは事務所によって異なると思います。

しかし、私が言いたいのは、「法的」に立場が守られているのは、業務委託よりも雇用契約だ、ということです。

(最近、とある運送会社が配達業務委託のドライバー3万人との契約を打ち切って、大手会社に委託するような話が出ました。これには世間からの批判も一定数ありましたね。

今まで働いてくれたドライバーたちの生活はどうなるのだろうかと個人的に憤りを覚えたニュースでしたが、いざとなればそういうことが可能なのが、業務委託なのです。)

3 雇用契約は労働法の規制が働くのに対して、業務委託契約は原則として労働法の規制が働かないこと

例えばですが、雇用契約だと、労働時間の把握義務が定められているため、会社はどれぐらいの時間労働をしたのかを確認しなければなりません。

他方で、業務委託契約の場合には、そのような規制はありません。

そのため、雇用契約よりも業務委託契約の方が、労働時間の把握や規制がない分、長時間労働になりやすい土壌があります。

しかしながら、これも事務所によりけりです。

業務委託契約だが、事件数が少なくて長時間労働にならないということもあるでしょう。

あくまでも雇用契約は、労働者を守るための法律が働くため、保護されやすいということです。

また、雇用契約の場合には、残業をした場合には残業代を払う必要があります。

通常、雇用契約の法律事務所では、固定残業代がついていることが一般的で、固定残業代を超える残業をした場合には、別途残業代を払うということになります。

当事務所の場合には、固定残業として月40時間分がついているので、40時間を超えた分には残業代がつきます。

他方で、業務委託契約の場合には、いくら残業しても残業代はつきません。

4 雇用契約は「有給」があるのに対し、業務委託契約は「有給」がないこと

雇用契約の場合には、有給が法定されています。つまり、通常の休日とは別に、有給日数分休む権利があるわけです。

他方で、業務委託契約の場合には、有給はありません。

つまり、「休み」という観点で言っても、雇用契約の場合の方が業務委託契約よりも多くなることが多いです。

5 雇用契約と業務委託契約とでは、消費税の算定が異なること

人によっては、これは大きな差異かもしれませんので、こちらも説明させていただきます。

皆さんは、1000万を超える事業所得がある場合には、消費税を払わなければならない、ということをご存じでしょうか?

ここでも、雇用契約と業務委託契約とでは、大きな差があることを説明しておきます。

雇用契約の場合には、会社からもらえるのは「給与」なので、「事業所得」ではありません。

他方で、業務委託契約の場合には、会社からもらえるのは「報酬」なので「事業所得」です。

つまり、例えばですが、皆さんが働く事務所から、800万円の報酬を得たとしましょう。

そして、個人事件を受任することで、210万円の報酬を得たとしましょう。

そうなると、合計して事業所得が1010万円になりますから、2年後に消費税を納めなければなりません。

(※簡易課税の適用によって、事業所得が1000万の場合には、ざっくり50万ぐらいの消費税になります。)

(※なお、ここでは、分かりやすいように、「事業の経費」を0として算定しています。事業の経費があれば、事業所得を下げることができます。

 しかし、それは、雇用契約の場合で個人受任による事業所得がある場合も同じです。)

他方で、雇用契約の場合には、給与ですので、税法上、事業所得とは別区分になります。

そのため、雇用契約の場合には、仮に個人受任で210万円の報酬があったとしても、事業所得1000万円を超えませんので、消費税を納める必要はありません。

皆さんもある程度、事務所からもらう年収が多くなってきた場合には、個人受任分の報酬や消費税の点も考えておいた方が良いです。

6 雇用契約の場合は必ずしも確定申告の必要がないこと、業務委託の場合には確定申告が必要であること

雇用契約の場合に、個人受任による事業収入がない場合には、あえて確定申告の必要はありません

(事業収入がなくとも、事業経費があれば税金の還付が受けられる場合もあるので、確定申告をしても構いません。それは個人の自由です。要は、確定申告の義務はないということです。)。

雇用契約の場合には、会社が年末調整で手続きをしてくれるのでとても楽です。

他方で、業務委託の場合には、確定申告が必要です。

私も経験がありますが、年末の忙しいときに確定申告を自分でやるのは地獄です。

普段から真面目に帳簿をつけていればよいですが、事務所の事件が相応にある中でそれを行うのはとても大変です。

業務委託の契約の場合に、自分で確定申告をする時間や余裕がなければ、早急に税理士に確定申告を依頼した方が良いと思います。

7 【女性の方は必見!】雇用契約は公的な産休育休制度があるのに対し、業務委託契約の場合にはないこと

まず、雇用契約は、公的な産休育休制度があります。

具体的には、雇用だと協会けんぽなどの健康保険に加入しているので、産前6週間~産後8週間に休む場合には、育休手当がでます。

ざっくりな話ですが、育休手当は、給料の2/3もらえます。

また、育休手当は、半年間は給料の67%、その半年後は給料の50%がもらえます。また、一定の要件を満たせば、さらに1年間延長されるので、Max2年間育休手当がもらえます。

つまり、雇用契約の場合には、公的な制度として手当がもらうことができるので、非常に安心です。

私の事務所にも産休育休をとっているスタッフがいるのですが、やはり育児の負担を考えると2年間ぐらいは育休が取れた方がよいとのことでした。

他方で、業務委託契約の場合には、国民健康保険なので、このような公的な産休育休制度はありません。

ただし、その会社(法律事務所)で独自に産休育休に相当するようなお金を払ってくれる制度があるなら、その独自の産休育休手当が支給される可能性はあります。

しかし、働いていない産休育休期間中に、一方的に報酬を払い続けられる事務所がどれぐらいあるのか私には分かりません。

ですから、特に女性の修習生や弁護士の方は、ご自身のキャリアにおいて妊娠や出産のことをお考えなのであれば、

必ず、雇用契約なのか、業務委託契約なのか確認した方が良いです。

その上で、業務委託契約だった場合には、❶ちゃんと産休育休をとれるのかどうか❷とった場合にその間の産休育休手当に相当するお金が支給されるのかどうか❸支給されるとしていくらなのか➍また支給条件があるのか➎万が一、産休育休期間をあけても復職するのが難しい場合に、一旦支給された産休育休手当の返還を求められることがないのかどうか(要はただの貸付ではないのかどうかも含めて)、等についてしっかり確認した方が良いでしょう。

業務委託契約でこうした制度がないのなら、その事務所で産休育休が取れたとしても、産休育休中は生活の保証がないことになるので、十分に注意しましょう。

8 雇用契約は雇用保険が付くのに対し、業務委託契約は雇用保険が付かないこと

雇用保険が付くとどうなるのでしょうか?

雇用保険は、例えば、その会社を辞めるとなった場合に「失業手当」が出ます。

つまり、焦って次の就職先を探さなくとも、失業手当が出るので生活することができます。

他方で、業務委託契約は、失業手当がありません。

また、例えば、通勤途中や勤務中に何らかの事故に巻き込まれた場合には、「労災」がおります。

労災で、自身が被った損害について一定程度補償してくれます。

他方で、業務委託契約の場合には労災はありません。

9 雇用契約は、協会けんぽなどの健康保険であるのに対し、業務委託契約は国民健康保険であること

ここでの違いは何かというと、傷病手当金の支給があります。

傷病手当金は、業務外の怪我や病気が原因で仕事ができない場合に、一定要件のもとで、生活を補償するため一定のお金がもらえるという制度です。

この点、協会けんぽなどの健康保険の場合には、要件を満たすなら傷病手当金を申請すればもらえます。

他方で、国民健康保険の場合、傷病手当金は支給されません。

10 業務委託契約のメリット

上記の通り、私は、どう考えても、雇用契約の方が皆さんにとって有利だと思うのですが、業務委託契約のメリットについてもお話しておかないと不公平かと思うので、

そちらも伝えておきます。

業務委託契約(委任契約)は、もとは、独立した業者同士の契約です。

つまり、理論上は、業務委託契約の場合には、法的には事務所からの依頼(仕事)を断ることもできることになります。

また、業務委託契約の場合には、特に何時に出勤しなければならないということも本来的にはないはずです。

なぜなら、業務の委託を受けるかどうかも、何時に出勤するかも、どのように仕事をするのかも本来的には自由なはずだからです。

このように、法的な観点で言うと、業務委託契約の場合には、雇用契約に比べて自由があることになります。

・・・・・・・・・・

しかしながら、実際に、皆さんがお勤めになった事務所で、事務所からの依頼(仕事)を断ることができるのかどうかについては疑問ですし、

何時に出勤してもよいのかどうかについても選べるのか疑問です。

むしろ、そのような実態にはなっていないことがほとんどなのではないかと思ってしまいます。

この点は、皆さんがお勤めになる事務所またはお勤めになりたいと思う事務所によくご確認ください。

11 まとめ

このように、雇用契約と業務委託契約とは待遇に大きな差があることはご理解いただけたかと思います。

私は、このような考慮のもとで、とくに修習生から弁護士になる場合には、雇用契約からスタートしていただくことが望ましいと考えています。

修習生の方で、いきなりインハウスとして会社勤めになる方や中途の弁護士でインハウスに勤める方が増えているのは、弁護士事務所に「勤務の安定性」が欠けているからだと思います。

弁護士になりたての段階では、修練のために一定の残業や自己努力が必要であることは否定しません。私もそうでした。

ただし、皆さんが「永く弁護士としてやるため」には、事務所側も寄り添い、環境を整えるべきなのだろう、と考えて、ロイハイでは雇用契約を選択しています。

皆さんが、この記事にたどりつき、参考にしていただけることを祈っております。