交通事故では怪我をされる方が少なくありません。むち打ちや打撲といった目に見えないものから、切り傷、骨折等様々です。
その中に目に見えないものの一つに、【高次脳機能障害】というものがあります。これは脳卒中などで脳が損傷し、神経回路が傷ついた場合に起こる傷害のことをいいます。
この障害の中での最たる特徴は【被害者本人に自覚症状がない】ということです。被害者本人に自覚がないとなると、周りの家族の方が被害者の代わりに事故の対応をしていかなければなりません。
ここでは、高次脳機能障害になってしまった場合、どのようにすればいいのかをご説明していきます。
目次
高次脳機能障害とは?
等級
高次脳機能障害が起こる原因として、代表的なものは【脳血管障害による脳の損傷=脳梗塞やくも膜下出血等】や外傷性による脳の損傷です。
事故に遭われた直後、被害者本人は意識がないことが多いため、意識を取り戻してから発覚をします。
高次脳機能障害の症状は複数ありますが、記憶障害、注意障害、社会的行動障害、遂行機能障害、失語症、失行症、病識欠如、欠認症等があります。
後遺障害の等級は1級~14級とあり、症状によって等級は区分けされます。高次脳機能障害の場合、症状にもよりますが、最上級の別表第1の1級1号から非該当の9つまで段階はありますが、高次脳機能障害として認定されたのであれば9級以上となるでしょう。
認定される条件
認定される条件としては代表として4つがあげられます。
・交通事故の後、昏睡、半昏睡状態が6時間以上、あるいは意識障害が1週間以上継続していること
・交通事故により脳挫傷やくも膜下出血、びまん性軸索損傷(広範囲に散在する軸索損傷)があると診断名で出ていたこと
・初期画像と比較して、慢性的な脳室の拡大、萎縮が認められること。
・高次脳機能障害の症状を疑う症状があるということです。
ただこれらすべてが必ずしも必要とは限りません。条件を満たしていなくても認定の可能性はあります。
後遺障害が認められる基準
後遺障害の細かな等級の内容、並びに認められる条件は以下となります。
【別表第1】
1級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
条件:神経機能または精神に重い障害を残し、就労することは不可能とされ、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護が必要とされる場合。
2級 1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
条件:神経機能や精神に重い障害を残し、就労することは不可能とされ、随時の介護が必要とする場合。
たとえば、著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されていることや、身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声かけや看視を欠かすことができないといった場合です。
【別表第2】
3級3号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
条件:神経機能や精神に重い障害を残し、介護が日常生活で必要はないものの、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難な場合。
5級2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
条件:単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能だが、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなったりするなどの問題がある場合。
このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないとされます。
7級4号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
条件:一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができない場合。
9級10号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
条件:一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題がある場合。
他に12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの、14級9号:局部に神経症状を残すもの、非該当となります。
12級以下は検討されたものの高次脳機能障害としては認定されなかったということです。
立証活動の経緯
弁護士
高次脳機能障害の後遺障害等級認定を適切に受けるためにも、早い段階で弁護士に依頼することをおすすめします。
ただし、弁護士であれば誰でもいいわけではありません。
高次脳機能障害は、症例が多く、かつ症状の把握も難しいため、障害を立証することだけでなく、申請するにもかなりの事前準備が必要となります。
弁護士の中には、交通事故問題の経験があっても、高次脳機能障害を取り扱ったことがない、経験が少ない弁護士もいます。
高次脳機能障害の場合、弁護士の医学的知識も、高度でかつ専門性のあるものが求められます。
各法律事務所のウェブサイトを確認し、高次脳機能障害を取り扱った過去の実績があるかを必ず確認しましょう。また、協力医がいるかどうかも確認しておくことも大切です。
医師
高次脳機能障害の疑いが少しでもある場合は、必ず詳しい専門医に診てもらうことが重要です。
基本的には脳の病気であるので、脳外科がある病院を探しましょう。
高次脳機能障害は非常に専門性が高く、あまり詳しくない医師もいます。そうすると症状が見逃されて、障害の発見が遅くなることもあります。
一般的な怪我であれば、本人が異変を感じて、専門医を探すことが多いでしょう。
しかし、高次脳機能障害は本人が自覚していないことが前提となる病気です。そのため、医師を探すこと、医師の診断を受けること、そしてその診断が問題ないかどうか、判断をするためには周りの家族の方のサポートが必須となります。
適切に認定されるために必要な書類
適切に認定されるために必要な書類は以下の4点となります。
「後遺障害診断書」
高次脳機能障害があるか否かにかかわらず、後遺障害を申請するにあたっては必ず作成が必要となります。これは主治医の医師に作成をしてもらいます。
「頭部外傷後の意識障害についての所見」
これは認定される要件の受傷後6時間以上の意識障害について記載したり、1週間以上の健忘症状などについて回答をしたりする書面です。
この書面は【最初に担当した医師】が書くことしかできませんので、事故から転院を挟んでいる場合には、少しでも高次脳機能障害の疑いがある場合は早期に書いてもらうことをおすすめします。
「神経系統の障害に関する医学的所見」
高次脳機能障害を示す所見に対する見解や、各種検査の結果、日常生活や就労にどの程度の傷害が残ると予想されるか等を記載する書面です。
後遺障害診断書と同じく主治医の医師に作成をしてもらいます。
この書面を作成するには大前提に医師の正確な症状の把握が重要となります。
限られた診察時間にはなりますが、小さな変化や発言そういったものをこまめに伝えることが重要です。
なぜなら、後遺障害の認定手続きにおいては、できる限り早い段階から具体的な症状が記録化されていることが重要になります。単に「高次脳機能障害が残っていること」では非常に不十分です。
「日常生活報告書」
日常生活状況報告書は医師、弁護士、そして後遺障害等級を認定する自賠責保険においても、どのような症状が残っているかを確認するうえで非常に重要な書類です。
そして、書類の作成は医師ではなく周りの方、主にご家族の方が行います。
この書類を作成するためには、日頃の【被害者本人の状況・行動・発言等】を【具体的に記録化】しておくことが非常に重要となります。
たとえば【令和〇年〇月〇日、昼ご飯を食べて1時間後に「昼ご飯はまだか?」と聞かれる】「令和〇年×月×日、娘の名前を1時間思い出せない」などです。
日常生活状況報告書は選択式の問いが多く並び、0ない、1稀にある、2およそ月に1回以上ある、3およそ週 に1回以上ある、4ほぼ毎日ある、N当てはまらない、を受傷前と受傷後と比べて数値化します。
補足事項を書く欄ももちろんありますが、実際は書ききれないことが多いです。そのために、周りの方々が把握している日常生活における支障や、事故前からの変化点を「別紙」として提出することが望まれます。
日常生活報告書は1人の方が書いたものしか提出できないわけではありません。
被害者本人が職場や学校に行っている場合、家族の方ではわからないこともあります。そういった場合、職場の方や学校の先生にご協力を願うことも1つの手段です。
参考事例
立証された過去のケース
過去、高次脳機能障害と認定されたケースを1つ紹介します。
被害者がバイク、加害者が自動車の事故です。
被害者Aさんは当時学生でしたが、事故が影響し、次々に高次脳機能障害の症状が現れました。
Aさんの主な症状は、以下の内容でした。
・新しいことが覚えることができない。友人との約束を覚えていなかったり、家族から宅配便を受け取っておくよう言われたが、忘れて出かけたり、近くのコンビニから家に帰るまでの道を忘れたりする。(記憶障害)
・集中力の低下で常にイライラしている。以前は授業の休憩時間に友人とおしゃべりをし、楽しく過ごしていたが、事故後は寝ているか常にぼーっと遠くを見ており、団体行動も全くしなくなった。(注意障害と社会的行動障害)
・複数の動作を同時にできなくなり、周囲の変化にも対応しきれない。アルバイトもやめざるを得なかった。(遂行機能障害)
就職活動も高次脳機能障害の症状があったため、難しく難航されました。
2年ほどの治療を続け、家族だけでなく、周囲の協力もあり、事故前と事故後の明らかな変化を立証し、結果、Aさんは7級4号が認定されることとなりました。
画像、録音など有効証拠
高次脳機能障害は、書面だけではなかなかわかりづらい、説明のしづらい、実際に会わなければ、伝わりにくい行動、発言、症状は多くあります。
しかし、後遺遺障害の等級を認定する調査事務所は書面にて被害者本人の症状を判断します。
そうなることを補足する材料として写真や動画といった画像、録音を用意することはかなりの有効な証拠となります。
被害者本人の普段の行動や写真を撮影するようにしましょう。
たとえば、高次脳機能障害の症状の1つに、記憶障害があります。
新しいことを覚えられないといった障害です。
友人との約束の時間・場所を思い出せない、仕事で何度も同じ質問を繰り返す、何かをしている最中に話をかけられると何をしていたか忘れてしまう、等があげられます。
過去の事例ですが、毎回買ったことを忘れて、短期間でいくつものトイレットペーパーを買う方がいらっしゃいました。
部屋に大量のトイレットペーパーがある写真とレシートを撮影いただき、日常生活報告書と共に自賠責調査事務所に提出をしたことがあります。
高次脳機能障害についてのご相談は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ
高次脳機能障害は被害者本人の自覚症状がなく、話をすることが難しいこと状態に陥ることが多いです。
そのため周りの方々が異変にいち早く気付くことが非常に重要となります。そして等級を認定してもらうためには非常に高度な専門知識を要求されます。
また、被害者本人のサポートで周りの方々は準備には手に回らないのが実情です。
高次脳機能障害が予想されると医師に診断された場合、また頭部に大きな怪我を負った、本人の行動、発言が上記に述べてきた内容に当てはまるようでしたら、交通事故問題について多く取り扱っている、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ一度ご相談くださいませ。