マイカー通勤をされていて,通勤途中に物損事故を起こしてしまうことはあり得ます。
その場合,労災保険で補償してもらえるのでしょうか。
また,自働車保険や自賠責保険などもある中で,労災保険を使用すべきでしょうか。
解説いたします。
目次
1 通勤中に物損事故を起こしたらまずすべきこと
⑴警察への通報 ⑵交通事故証明書の交付を受ける ⑶保険会社・会社への連絡 |
⑴警察への通報
交通事故が起こった場合に,警察への届け出は運転者の義務です。まずは警察に通報しましょう。
(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。
事故車はそのまま道路上に停めてきましょう。交通の妨げになったり,危険になる場合は,事故時点の状況をスマートフォンで撮影して事故直後の状況を証拠に残したうえで,車を安全な場所へ動かしましょう。
⑵交通事故証明書の交付を受ける
また,交通事故証明書の交付を受ける必要があります。
※警察へ届出をしなければ,交通事故証明書の発行を受けることができません。
警察署などで申請書をもらい,必要事項を記入の上,交通事故証明書の申請書を提出します。ゆうちょ銀行・郵便局での払込み,自動車安全運転センター窓口での申し込み,自動車安全運転センターHPの申請ページからの申し込みが可能です。
自働車安全運転センター 各種証明書のご案内 交通事故に関する証明書 申請方法
⑶保険会社・会社への連絡
また,保険会社へ連絡しましょう。
さらに,会社へ事故を起こしてしまい遅れる旨を連絡しましょう。
2 通勤中の物損事故は労災保険の補償対象になる?補償対象にならない場合とは
交通事故で労災認定,病状固定された場合の流れについて,当事務所の次のコラムでご紹介しているので,興味のある方はご覧ください。
また,交通事故に労災保険を使用する場合について,当事務所の次のコラムでご紹介しています。当コラムと関連する内容ですので,ご覧ください。
⑴通勤中の物損事故が労災保険の補償対象になる場合
労災保険の対象となるのは,通勤災害又は業務災害にあたり,かつ傷病または死亡結果が発生した場合です。
労働者災害補償保険法7条1項によれば,労災保険の補償対象は,傷病や障害,死亡に限られます。
第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)
三 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
①通勤災害とは
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡を言います。
労働者災害補償保険法7条2項によれば,この場合の「通勤」とは、
労働者が,就業に関し、次に掲げる移動を、
(ア)住居と就業の場所との間の往復 (イ)就業の場所から他の就業の場所への移動 (ウ)住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動 |
合理的な経路及び方法により行うこと
をいいます。
②業務災害とは
労働者災害補償保険法7条1項1号によれば,業務災害とは,原因として被った負傷、疾病、障害または死亡を言います。
事業主の提供する専用交通機関を利用する出退勤や緊急用務のため休日に呼出しを受けて緊急出動する場合は,業務災害として労災保険の対象となります。
③具体例
・通勤途中に物損事故を起こしてしまい,怪我をした
・退社後,スーパーで日用品の買い物をしてから帰宅する途中で物損事故を起こしてしまい,怪我をした。
・休日に呼出しを受けて通勤している途中に物損事故を起こしてしまい,その際自分が怪我をした
⑵通勤中の物損事故が労災保険の補償対象にならない場合
労働者災害補償保険法7条3項によれば,移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはならず,通勤災害には当たりません。
※ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。
また,物損しか生じていない場合は,労災保険の補償対象とはなりません。
具体例としては,
・通勤途中に物損事故を起こしてしまった。だが,自分は怪我を負っていない
・退社後,友人と数時間にわたり飲食をして,帰宅途中で物損事故を起こし怪我を負った
3 労災保険と自動車保険、自賠責保険の違いとは
⑴労災保険と自動車保険、自賠責保険の違い
労災保険 | 自動車保険(任意保険) | 自賠責保険 | |
強制加入か | 〇(事業主に加入義務あり) | × | 〇 |
自身の治療費 | 〇(全額補償) | 〇(限度額は保険内容による) | × |
自身の休業補償 | 〇(休業補償給付+休業特別支給金=労災事故の直近3ヶ月の平均給与の日額の80パーセント) | 〇(限度額は保険内容による) | × |
自身の後遺障害補償 | 〇(障害等級に応じて支払われる) | 〇(限度額は保険内容による) | × |
自身の車や物の修理代 | × | 〇(限度額は保険内容による) | × |
相手の治療費 | × | 〇(無制限が一般的) | 〇(被害者1名につき120万円まで) |
相手の休業補償 | × | 〇(休業損害として減収分の100%) | 〇(原則1日6100円。それ以上の収入の減少を立証できれば,19000円を限度にその実学が支払われる) |
相手の後遺障害補償 | × | 〇(無制限が一般的) | 〇(障害等級に応じて,逸失利益として支払われる) |
相手の車や物の修理代 | × | 〇(無制限が一般的) | × |
慰謝料 | × | 〇(限度額は保険内容による) | 〇(治療費慰謝料としては,1日4200円支払われる。後遺症慰謝料の支払いもあり) |
特別支給金 | 〇 | × | × |
労災保険と自動車保険、自賠責保険には,強制加入であるか,補償範囲に違いがあります。
⑵労災保険を使うべき場合
通勤中に物損事故を起こしてしまって労災保険の対象となる場合,どれを使うかは選ぶことができます。
また,労災保険と自賠責保険・任意保険を併用することもできます。
しかし,二重取りはできません。
それでは,どのような場合に労災保険を使うべきでしょうか。
①ご自身の過失が大きい場合,過失割合が不明確な場合
自賠責保険では,過失割合が7割以上であれば,5~2割の範囲で保険金が減額されますが,労災保険では過失があるからといって保険金が減額されることはないからです。
②相手が無保険又は自賠責保険しか加入していない場合
相手が無保険の場合は,労災保険しか方法がありません。
自賠責保険では,傷害による損害の限度額は120万円です。自賠責保険を優先して120万円を治療費で使い切ってしまうと,慰謝料がもらえなくなる可能性があります。
そこで,労災保険を優先して治療を行い,労災保険から自賠責保険への求償が行われる前に自賠責保険に請求すれば,自賠責保険から慰謝料を回収できる場合があります。
そのため,相手が自賠責保険しか加入していない場合は,労災保険を適用する方がいいです。
また,労災保険を使用した場合であっても,自賠責保険や任意保険を併用して,慰謝料や労災保険の給付額を超える休業損害などの補償がもらえる場合があります。
4労災保険給付の手続きの流れ
⑴会社に連絡
会社の協力を得れば,労災保険給付の申請がスムーズになります。
そこで,会社に対してどのような状況で通勤災害・業務災害が発生したのかを具体的に伝えましょう。
⑵病院に行って医師の診察を受ける
労災保険指定医療機関を受診すれば、医療費が労災保険から直接支払われます。
労災保険指定医療機関とは,都道府県労働局長により指定された医療機関のことで,労災の治療を無償で受けられます。
労災保険指定医療機関であるかどうかは,次のページから検索可能です。
労災保険指定医療機関でなくとも,診察は可能です。
診察を受ける際には,労災である旨を伝えておきましょう。
⑶必要書類の準備
労災保険の補償には種類があります。
申請する補償の種類に応じた請求書・添付書類を作成しましょう。
請求書は,以下のページからダウンロードできます。
厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)
⑷怪我をした労働者が必要書類を労働基準監督署に提出
申請先は,被災労働省が所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。
5 困ったらすぐに弁護士にご相談を
通勤中に物損事故を起こしてしまったら,何をすればよいか戸惑うでしょう。
労災保険を使用できるか,一般の方が判断することは難しいです。
労災保険を使用するにしても,どのような手続きをとればよいか迷われると思います。
当事務所では,交通事故問題に詳しい弁護士が在籍しています。通勤中の物損事故でお困りの方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。