ある日突然,交通事故の加害者になってしまったら?
被害者の方に賠償金を支払えば,自分が加害者とはいえ,大きな経済的負担を負うことになります。
そのような場合,加害者請求という方法で,被害者の方に支払った賠償金を請求することができます。
当コラムでは,加害者請求についてご説明いたします。
目次
1 自賠責保険の加害者請求とは?被害者請求との違い
自賠責保険金の請求方法には,⑴加害者請求と⑵被害者請求の2種類があります。
⑴加害者請求
加害者がまず被害者に損害賠償金を支払い,その後,自賠責保険金(共済金)を保険会社(組合)に請求します。
自動車損害賠償保障法15条に規定されています。
(保険金の請求)
第十五条 被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。
⑵被害者請求
加害者側から賠償が受けられない場合に,被害者が加害者の加入している保険会社(組合)に損害賠償額を直接請求します。
自動車損害賠償保障法16条に規定されています。
(保険会社に対する損害賠償額の請求)
第十六条 第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
⑶加害者請求と被害者請求の違い
被害者請求の場合も,4 自賠責保険の加害者請求をしてから保険金が支払われるまで,で記載している加害者請求の手続きの流れとほとんど変わりません。
また,必要書類も少し違う程度です。
そのため,加害者請求と被害者請求の違いは,保険金を請求する主体にあります。
なお,①加害者の方が自賠責保険にしか加入していない場合に自己負担する損害賠償金②被害者請求について当事務所の次のコラムでご紹介しているので,ご覧ください。
2 加害者請求はどんな場合にできる?
人身事故や死亡事故で,加害者が被害者に損害賠償金を支払った場合です。
なぜなら,自賠責保険は,被害者救済のため,対人賠償を確保することを目的としていて,物損事故は対象外だからです。
3 加害者請求のメリット・デメリット
⑴メリット
被害者にとっては,手続きの負担がないこと,早く賠償金を受け取ることができるというメリットがあります。
⑵デメリット
被害者にとっては,加害者側に手続きを任せることになるので,手続きが不透明です。
加害者にとっては,自分で手続きをする必要があるので,手続きの負担があります。
もっとも,加害者が任意保険に加入しており,任意保険会社が一括対応をしている場合には,任意保険会社が加害者請求をすることになるので,加害者に手続きの負担はかかりません。
4 自賠責保険の加害者請求をしてから保険金が支払われるまで
⑴加害者が,自分の加入している自賠責保険会社に連絡する
連絡を受けた保険会社は,自賠責保険請求の必要書類の案内などを加害者に提供します。
⑵加害者が被害者に対して損害賠償金を支払う
加害者が被害者に対して,治療費などの損害賠償金を支払います。
⑶被害者から領収証を受領する
加害者が被害者に損害賠償金を支払ったことを証明する書類が必要になります。
忘れずに,領収証を受領しましょう。
⑷加害者が損害保険会社に請求書類を提出する
後述する必要書類を提出します。
⑸損害保険会社が自賠責損害調査事務所に対して損害調査を依頼する
損害保険会社は,請求書類に不備がないかを確認したうえ,自賠責調査事務所に請求書類を送付します。
⑹自賠責損害調査事務所が加害者に対して追加書類を依頼し,加害者が自賠責損害調査事務所に追加書類を返送する
自賠責損害調査事務所は,請求書類に基づいて,事故の発生状況,自賠責保険の対象事故か,傷害と事故の因果関係,発生した損害額などを調査します。
請求書類だけでは事故の事実確認ができなければ,加害者に追加書類の提出を依頼します。
⑺自賠責損害調査事務所が損害保険会社に調査結果を報告する
事故の発生状況などの調査結果を報告します。
⑻損害保険会社から加害者に保険金が支払われる
損害保険会社は支払額を決定し,請求者に支払います。
保険会社は,法律に基づき定められた支払基準に従って,保険金を支払います。
参照:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 自賠責保険金支払までの流れ
加害者請求の必要書類(〇:必ず提出 △:必要に応じて提出)
必要書類 | 発行者作成者 | 加害者請求 | ||
傷害 | 後遺障害 | 死亡 | ||
支払請求書(保険金・損害賠償額・仮渡金) | 請求者 | 〇 | 〇 | 〇 |
請求者本人の印鑑証明書 | 市区町村 | 〇 | 〇 | 〇 |
交通事故証明書 | 自動車安全運転センター | 〇 | 〇 | 〇 |
人身事故証明書入手不能理由書(物件事故として届けられている場合や,交通事故証明書に被害者名のない場合) | 事故当事者 | △ | △ | △ |
事故発生状況報告書 | 事故当事者 | 〇 | 〇 | 〇 |
加害車両の・自動車検査証(写)・標識交付証明書(写)または軽自動車届出済証(写)(原動機付自転車または軽自動車(二輪),車検対象車でない場合) | 加害車両の所有者 | △ | △ | △ |
診断書 | 医療機関 | 〇 | 〇 | 〇 |
診療報酬明細書 | 医療機関 | 〇 | 〇 | △ |
施術証明書・施術費明細書 | 医療機関 | △ | △ | △ |
通院交通費明細書 | 被害者など | △ | △ | △ |
休業損害証明書,確定申告書(写),所得証明書など | 勤務先や市区町村など | △ | △ | △ |
示談書(示談が成立している場合) | 示談当事者 | △ | △ | △ |
加害者の支払いを証明する領収証 | 被害者など | 〇 | 〇 | 〇 |
住民票または戸籍抄本(事故当事者が未成年の場合) | 市区町村 | △ | △ | |
委任状および委任者の印鑑証明書(委任を受けて請求される場合) | 委任者 | △ | △ | △ |
看護料領収証,付添看護料自認書 | 付添者 | △ | △ | △ |
その他損害を立証する書類,領収証など | △ | △ | △ | |
死亡診断書または死体検案書 | 医療機関 | 〇 | ||
省略のない戸籍(除籍)謄本 | 市区町村 | 〇 | ||
後遺障害診断書 | 医療機関 | 〇 |
5 加害者請求をする場合の注意点とは
⑴時効
保険法95条では,保険給付請求権の時効について規定しています。
(消滅時効)
第九十五条 保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。
そのため,被害者に損害賠償金を支払った翌日から3年以内に請求しなければいけません。
なお,平成22年3月31日以前に発生した事故については、請求できる期間は2年以内となります。
参照:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 請求期限について
⑵保険金の上限
保障してもらえる保険金には限度額があります。
怪我による損害では,120万円が上限です。
死亡による損害では,3000万円が上限です。
6 加害者が支払った賠償金よりも,保険金の方が低かった場合はどうなる?
加害者が支払った賠償金よりも,保険会社から支払われる保険金の方が低かった場合,どうすればよいでしょうか。
保険会社は法律で定められた支払基準に従って,自賠責保険金を支払います。
この支払基準は,公平かつ迅速な支払いを確保するために定められています。
訴訟では,個別の事案に応じて保険金額が算定されるので,訴訟を提起すれば保険会社が算定した保険金額を上回る保険金の支払いを受けることができる可能性があります。
ただし,訴訟を提起すれば,必ずしも保険会社が算定した保険金額を上回る保険金の支払いを受けることができるわけではありません。
自賠責保険では,被害者の過失を原因とする保険金の減額があまりなされないような制度になっています。
しかし,訴訟ではこの制度が適用されないので,被害者の過失を理由に保険金の額が減額され,当初保険会社が算定した保険金額を下回る保険金の支払いが命じられるおそれがあります。
そのため,訴訟を提起すれば,加害者が損をする場合もあります。
7 まとめ
加害者請求についてご説明させていただきました。
加害者請求の手続きは必要書類も多数にわたり煩雑で,ご自身で行うには時間も手間もかかります。
また,加害者の方が支払った損害賠償金よりも保険金の方が低い場合,訴訟を提起したからといって,支払った損害賠償金と同額の保険金を受け取ることができるわけではありません。
そのため,交通事故の加害者になってしまった方や,加害者請求を行おうと考えている方は交通事故分野に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
当事務所では,交通事故を多く取り扱っています。交通事故の加害者になってしまった方や,加害者請求を行おうと考えている方は,大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。